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明けの明星が輝く空に
第60回:ヒツジと特撮

明けの明星が輝く空に<Br>第60回:ヒツジと特撮
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【最近の私】本屋に行くと、アンヌ(ウルトラセブンのヒロイン)写真集が平積みされていたので、迷わず買った。だけど帰ってみると、部屋には以前買った同じ写真集が…。一冊は閲覧用、もう一冊は保存用にでもするか。
 

2015年は未年。そして動物占い(古い?)によれば、僕はヒツジである。今年最初の題材として、ぜひヒツジを取り上げねばなるまい。そう短絡的に考えてみたものの、すぐにひとつの問題とぶつかった。ヒツジほど特撮作品と縁遠い動物もいないからだ。少なくとも僕の遠い記憶の中に、ヒツジがモチーフとなった怪獣・怪人は存在しない。
 

ヒツジは何十頭集まっても、一匹の牧羊犬相手に右往左往することしかできない臆病な動物だ。ふかふかな毛皮をまとい、まるで相手を傷つけたくないといわんばかりに角を巻いて、とがった先端が前に突き出ないようにしている。怪獣ヒツジラーや怪人ヒツジ男がブラウン管に登場しなかったのも、当然といえば当然か。
 

一般に、怪獣・怪人のモチーフとしてふさわしいのは、高い攻撃力を持つ動植物や、道具、武器などだ。猛獣の他、角や毒針を持つ昆虫、有毒植物、刃物などがそれにあたる。ただし、そういった枠を飛び越え、ユニークな怪人を生み出した作品もあった。その代表格が、コミカルな作風の『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)で、野球仮面、ピアノ仮面、パイナップル仮面などなど、オモシロ怪人が数多く登場した。怪奇性の高い『超人バロム・1』(1972年)にも、クチビルゲ(唇)、ノウゲルゲ(脳)、ウロコルゲ(鱗)など、笑っていいのか怖がっていいのか分からないような怪人が出てきた。この2番組なら、ヒツジ仮面やヒツジゲルゲが出てきたとしても、何の違和感もなかっただろう。
 

僕の子供の頃には、怪人のモチーフとならなかったヒツジだが、最近はそうでもないらしい。たとえば『仮面ライダーフォーゼ』(2011年)にアリエス・ゾディアーツという、牡羊座の怪人が登場する。この怪人の能力は、人を眠らせ生体活動を鈍らせること。言うまでもなく、眠れない時にヒツジを数えることからの発想だろう。ちょっとした遊び心が感じられ、個人的にはこういうひねった設定は嫌いではない。なぞなぞを解いたときのように、「ふふん、なるほどね」と一人ほくそ笑むことができるからだ。(余談であるが、『タモリ倶楽部』の中で使用される数々のBGMも、同じ楽しみ方ができる)
 

また『仮面ライダーキバ』(2008年)には、シープファンガイアという怪人が登場する。その頭部には巻き角があり、一応ヒツジの特徴は備えている。しかし、全体的に装飾の多いデザインのため、意識しなければ角があることすら気づかない。簡単にいえば、見た目は全然ヒツジっぽくないのだ。ただし、その攻撃スタイルはヒツジそのものだった。
 

ヒツジ最大の武器は頭突きだ。特に、野生のヒツジのそれは強烈である。アメリカにビッグホーンシープという巨大な角を持った野生種がいるが、動物ドキュメンタリーが好きな方なら、オス同士がケンカする映像を見たことがあるのではないだろうか。彼らは、頑丈そうな角の根元で頭突きをする。(正確には「角突き」と言うべきかもしれないが、イメージとしては「頭突き」の方がしっくりくる。)少し離れたところから勢いをつけ、後ろ足で立ちあがり、体重をかけて思い切りぶつかるのだ。そのときの鈍く響く音を聞いただけで、とてつもない威力があることが容易に想像できる。しかも彼らは脳震盪を起こすことなく、何回もそれを繰り返すのだから、恐ろしくタフでもある。成体の体重は100kgほどしかないが、もしヒグマ並みの体重があったら、間違いなく北米最強の動物だろう。
 

惜しむべくは、CGで作られたシープファンガイアの動きが速すぎて、頭突きをしているのがよくわからないことだ。僕はこれも、CG使用の弊害だと思う。CGで絵作りが自由になったからといって、めったやたらに動かせばいいというものでもなかろう。シープファンガイアより、ビッグホーンシープの攻撃の方がずっと迫力があるという、この事実は否定できない。もっと一撃一撃にインパクトを持たせるような演出が欲しかったと思うのは、僕だけだろうか。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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