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FBIの捜査に協力する知的な殺人鬼、ハンニバル・レクターin 『羊たちの沈黙』

FBIの捜査に協力する知的な殺人鬼、ハンニバル・レクターin 『羊たちの沈黙』
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【今月の私】映画館のシネマート六本木が、6月で閉館になります。またひとつ、自分の好きな映画館がなくなるのは残念です。
 

今年の干支は未(ひつじ)。羊がタイトルになっている映画は、オーストラリアの『月のひつじ』、邦画では『羊のうた』などがある。また、『ブレードランナー』の原作小説のタイトルは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だった。そんな“羊映画”の中から今回は『羊たちの沈黙』に登場した悪役、ハンニバル・レクター博士を紹介したい。
 

FBIアカデミーの学生クラリス(ジョディ・フォスター)は、若い女性ばかりを狙う殺人犯、バッファロー・ビルを逮捕するため、凶悪殺人犯の心理分析を行っている。殺人犯の心理を探り、捜査に役立てるためだ。そこでクラリスは、元精神科医の殺人犯で精神病院に収監されているハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)と面会して情報を得ようとする。
 

興味深いのは、ハンニバルが穏やかな口調ながら、相手の心を巧みに操る点だ。映画の冒頭でFBI捜査官がクラリスに「ハンニバルは異常な男だ。絶対に個人的な話をするな」と言う場面がある。ハンニバルは元精神科医なので、個人的な話を聞くことで相手の心を支配してしまうからだろう。
 

ハンニバルは事件の捜査に協力する代わりに、クラリス自身の話を聞かせろと条件を出す。子供時代の最も怖い経験を聞かれたクラリスは、過去の話をする。幼いころに母を亡くしたクラリスは、10歳の時に警官だった父を亡くし、親戚の家に預けられる。その家は牧場で、たくさんの羊を飼っていた。ある夜、クラリスは羊が殺されるところを目撃してしまう。そして、子羊を逃がそうとするが失敗し、その子羊も殺されてしまった。今でもあの羊の叫ぶような鳴き声が忘れられないと話す。今でも夜中に羊の鳴き声で眼がさめると。
 

ハンニバルはクラリスに言う。「この事件を解決すれば、羊の叫びで起きることはなくなると思うか? 」。クラリスは個人的な話をするなと忠告されていたにも関わらず、ハンニバルからバッファロー・ビルの手がかりを得ようと自身の過去を話し続ける。その様子はまるで精神科医とセラピーを受けている患者のようだ。犯罪者ハンニバルとFBIの実習生クラリスが互いに駆け引きをしながら事件を捜査するのだが、この2人の関係が面白い。タイトルの『羊たちの沈黙』には事件の解決と、クラリスが暗い過去から解き放たれるという意味がある。
 

やがて、バッファロー・ビルが下院議員の娘を誘拐したことから、事件は大きく動き出す。下院議員との面会のため精神病院から移送されるハンニバル。彼が警備の隙を見て脱走する場面が恐ろしい。警官の顔に噛みつき、肉を引きちぎる。そして奪った警棒で警官をめった打ちにする。それまでハンニバルは囚人房の中で動けず、会話だけの「静」の印象だったが、この脱走のシーンで「動」へと変わる。返り血を浴びながら警官を殺すハンニバルは、殺人鬼という真の姿をさらす。1990年代以降のサイコ・サスペンス映画の原点ともいえる本作の中で、ハンニバルは捜査に協力する知的な殺人鬼という独創的なキャラクターとして、とても魅力的だ。
 

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
 

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