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明けの明星が輝く空にinCO

第64回 大人だから分かるミニチュアワークの面白さ

第64回 大人だから分かるミニチュアワークの面白さ
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【最近の私】歌舞伎町、東宝ビルのゴジラを見に行った。驚くほど心に響かなかった。それよりも、コマ劇場跡の変わり様に感慨もひとしおだった。
 

ゴジラ映画の最新作が、2016年に公開予定だ。今度は、ハリウッドではなく東宝が製作するということで、楽しみにしている特撮ファンも少なくないだろう。しかも、「脚本/総監督:庵野秀明、監督:樋口真嗣」となれば、期待するなという方が無理というものだ。
 

アニメのエヴァンゲリオンシリーズを生み出した庵野氏は、学生時代には自主制作映画『帰ってきたウルトラマン‐マットアロー1号発信命令‐』で主演・監督を務めたほどの特撮好きだ。2012年に始まった巡回展示会『館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』(以下、『特撮博物館』)のチラシには、「エヴァの原点は、ウルトラマンと巨神兵。」というキャッチコピーが躍っている(「巨神兵」は、アニメ『風の谷のナウシカ』に登場する、巨大な人工生命体のこと)。
 

一方、「マニアあがりの特撮監督」を自称する樋口氏は、1984年の『ゴジラ』で怪獣造形に携わり、平成ガメラ3部作では特技監督を務めた人物だ。今年の8月に公開予定の映画『進撃の巨人』では監督に起用され、『特撮博物館』の副館長という肩書きも持っている。
 

2人が共同で特撮映画を撮るのは、今回のゴジラ最新作が初めてではない。『特撮博物館』で上映されている短編映画『巨神兵東京に現わる』は、庵野氏が企画、樋口氏が監督を務めた。この作品の“売り”は、一切CGを使わないことで、ミニチュアセットとは思えない迫力ある映像が来場者を驚かせている。(DVD『ヱヴァンゲリオン劇場版:Q EVANGERION:3.33 YOU CAN(NOT)REDO.』に収録されている同作品の別バージョンには、一部CGも使われている。)
 

庵野氏と樋口氏がタッグを組むのだから、ゴジラ最新作でもミニチュアワークを駆使した映像が、存分に見られるだろう。果たしてどんなものになるのか。それを占う上で、『巨神兵東京に現わる』は一つの指針になるに違いない。
 

『巨神兵東京に現わる』には、特撮職人とも言えるスタッフたちの、知恵を絞った工夫が多く見られる。僕が最初に驚いたのは、ビルが崩れ落ちていく場面だ。ミニチュアビルの破壊といえば、怪獣の着ぐるみに入った役者が壊すか、仕込んだ火薬を爆発させて粉々に吹き飛ばすのが普通だった。しかし、『巨神兵東京に現わる』では、昔からのテクニックを再現しただけでは面白くないということで、新しい方式が検討された。簡単に説明すると、細かいパーツで組んだビルの外壁が、裏から力を加えることでばらばらになり、そのまま下に落ちるというものだ。その動きは非常にリアルで、高速度撮影によってスローモーションとなった映像は、ミニチュアとは思えない迫力がある。
 

爆発で道路のアスファルトがめくれるシーンでは、道路に見立てた石膏板にひと工夫加えられている。石膏板は爆発した時に粉々に飛び散ってしまい、アスファルトがめくれ上がる様子は表現できない。そこで板の中に部分的に網を入れたそうだ。そうすると粉々に飛び散ることもなくなり、スタッフが思い描いたような、めくれ上がる道路ができあがった。
 

大爆発の後に原子雲が出現するシーンは、映像で見る限り想像もしなかった方法で撮られていた。オレンジ色に光る球状の雲が、周囲のリング状の雲とともに立ち上っていくのだが、撮影に使用されたのは、なんと普通の綿だという。綿で作られた雲の中に照明を仕込み、いかにも炎で染まったように輝かせる。それを、カメラの死角から伸びる操演用のアームで持ち上げながら撮影。背景美術スタッフが描いた空と合成すれば、この世の終わりかとも思える恐ろしい光景が出現するという寸法だ。(ちなみに僕は学生の頃、アルバイトで東宝撮影所のスタジオに入ったことがあるが、大きなスタジオの壁面に描かれた青空はとても絵には見えず、背景美術の高度な技術に驚かされた)。
 

ミニチュアセットの裏にある、こういった創意工夫の積み重ねは実に興味深い。よりいいものを作るために知恵を絞り、新しいアイデアを出すことは、全ての仕事に通じるからだろう。そういった意味で、特撮スタッフの仕事を知る面白さは、子どもには理解できないに違いない。映像の見えない部分にまで、思いをはせる。子供の頃とは違う、大人になった今だからこそできる特撮作品の味わい方だ。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

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