６月のテーマ：STRANGE
 

第二次世界大戦時、ナチス・ドイツ軍が誇った世界最強の暗号エニグマ。ある変換ルールに従って文章の文字を置き換える仕組みなのだが、その変換ルールはなんと「159,000,000,000,000,000,000通り」も考えられたため、これを全部試すのは当時では不可能だった。さらにその変換ルールは毎日変更されたので、解読に１日以上かかってしまうと、またルールが変えられてしまう。そんな難攻不落のエニグマに挑むイギリスの解読チームに、天才数学者アラン・チューリングが参加する。偏屈で、人とのコミュニケーションが苦手なアランだがチームメイトに助けられながら、試行錯誤の末ついに暗号の解読に成功。歓喜するチームメイトが、上司である中尉に報告しようとするが、アランはそれを阻止する。ドイツ軍にエニグマを解読したと知られると、暗号を変えられてしまうため、解読した事実は極秘にしなければならないのだ。そこでアランたちは秘密裏にイギリスの情報機関MI6に協力を要請し、ドイツ軍、さらには自国イギリス軍にまでウソの情報を流して、暗号を解読したことがバレないように計算して攻撃するように提案。被害を最小限に抑えつつ、主要な攻撃が偶然であるかのように装う。こうして数年後、イギリス率いる連合軍は勝利。最新兵器や兵士たちの敢闘が称えられがちだが、大戦の勝敗を分けたのは情報だったのだ。
 

アランが成し遂げた功績は、戦争終結を２年以上早め、1400万人以上の命を救ったと言われているが、50年以上もイギリス政府の機密扱いで、隠ぺいされ続けてきた。しかし2009年、イギリス首相がアランに謝罪する声明を発表。さらに2013年にはエリザベス女王が死後恩赦を与えたそうだ。そして彼が作り上げた機械は、私たちが今コンピューターと呼ぶものの基礎になったという。
 

アランは、全寮制の学校に通っていた頃、昼食時間にニンジンとグリーンピースを皿の上で分けていたことから、クラスメイトからいじめられる。その後も変わり者扱いされ周囲から孤立していたアランは、同性愛者であるがゆえに、悲惨な運命を辿る。彼を糾弾したのは皮肉にも、彼が命をかけて救ったイギリス社会だった。
 

映画の終盤、キーラ・ナイトレイ演じる、アランの理解者ジョーンは、失意のどん底で「僕も普通になりたかった」とつぶやくアランに、首を振ってこう告げる。
 

I was on a train that went through a city that wouldn’t exist if it wasn’t for you. I bought a ticket from a man who would likely be dead if it wasn’t for you. I read up on my work… a whole field of scientific inquiry that only exists because of you. Now, if you wish you could have been normal… I can promise you I do not. The world is an infinitely better place precisely because you weren’t.
 

「今朝、私は戦争で消滅したかもしれない街から電車に乗ってここへ来た。戦争で死んでいたかもしれない男から切符を買ったの。すべて、あなたが救ったのよ。あなたが普通を望んだって、私はお断りよ。あなたが普通じゃないから、世界はこんなにも美しい」。
 

変わった人を排除し、「普通」と違う人をのけ者にしようとするのは、どの世界でも同じだ。社会は「普通」であることを強く求め、その枠に当てはまらないものは、居場所を失う。しかし、視点を変えれば、マイナスと思えることはプラスにもなり、何の価値もないように見えた突拍子もないアイディアが世界を変えることだってある。重要なのは、相手を理解しようとする気持ちだろう。人と違うということを恐れず、誰もがありのままに生きることができる世界、さまざまな個性を受け入れられる社会になってほしいと強く願う。
 

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
『イミテーション・ゲーム／エニグマと天才数学者の秘密』
監督：モーテン・ティルドゥム
出演：ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ
製作年：2014年
製作国：イギリス　アメリカ
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
 

──────────────────────────────
Written by　藤田彩乃
──────────────────────────────
 

[JVTA発] 今週の1本☆　６月のテーマ：STRANGE
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「１本」を探すヒントにどうぞ。