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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
第13回 ”Fargo”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ<br>第13回 ”Fargo”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第13回“Fargo”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

“Fargo”とは?
コーエン兄弟の出世作となった映画『ファーゴ』(’96)は、一面の雪野原、殺戮、そしてフランシス・マクドーマンドが演じた警察署長マージの純朴さが心に残る、ブラックコメディの傑作だった。
Fargoはノースダコタ州に実在する町だが作品の舞台ではない。コーエン兄弟が、単に「語感が面白いから」という理由でタイトルにしただけだ。また、テレビドラマ版も映画と同様に「この物語は事実である…」という説明で始まるが、実はすべてフィクション。この兄弟、はなから人を食っている。
 

今回のテレビ版は映画版から10年後の設定。ストーリーは直接関係がないので映画を見ていない人でも問題なく楽しめるが、映画版でスティーヴ・ブシェミが雪の中に隠した大金の行方は本作で明らかになる。
 

‘ミネソタの悪夢’
舞台となるベミジー(ミネソタ州)は雪以外何もないド田舎。主人公のレスター・ナイガード(マーティン・フリーマン)は人が良い以外何の取り柄もない保険のセールスマン。レスターは毎朝口うるさい妻に安月給を責められることに嫌気がさしているが、この日は踏んだり蹴ったりだった。町で高校時代の同級生サムからのイジメにあい、病院へ行く羽目になったのだ。
だが、この出来事がレスターにとって人生の転機となる。病院の待合室で、レスターはマルヴォ(ビリー・ボブ・ソーントン)と名乗るオカッパ頭の気味の悪い男と会う。マルヴォは言葉巧みにレスターの身の上話を聞き出すと、こう尋ねる。「サムを殺して欲しいか?」
 

数日後、サムが殺される。
レスターの悪妻も死ぬ。他にも・・・。
 

平和だったベミジーの町は大混乱だ。警官のモリー(アリソン・トールマン)はレスターとマルヴォの関係を疑い、隣町の警官ガス(コリン・ハンクス)と協力して捜査に当たる。だが捜査は難航し、死体の数は増え続ける。マルヴォは‘ミネソタの悪夢’と化す。
 

一方レスターはマルヴォと会ってから次第に性格に変調をきたし始める…。
 

“Fargo: 5X Longer, Better, and Crazier!”

ノア・ホーリーによる秀逸な脚本は、映画版の雰囲気を見事に再現し、しかも独創的だ。当然画面は血まみれで、能天気なキャラたち、セリフ回しの面白さ、ミネソタなまりのおかしさも健在。最近のドラマに比べるとスローペースだが、それが味わい深くて心地いい。しかも最後の2エピソードは変速モードでそれまでのユーモアが影をひそめ、凄まじいサスペンスに富んだクライムドラマとなって大団円へと疾走する。
 

シーズン1は全10エピソード。映画のちょうど5倍の長さで、5倍面白く、5倍狂っている!
 

ビリー・ボブ vs. マーティン・フリーマン
ビリー・ボブ・ソーントンは恐ろしくズル賢い殺人マシン、マルヴォを怪演する(’まことちゃん’ヘアのビリー・ボブそのものがブラックユーモアだ)。特に警察の尋問に対してまったくの別人を装い、嘘八百を並べて易々と切り抜けるシーンは圧巻で、『スリング・ブレイド』や『シンプルプラン』での名演を思い出した。久しく忘れていたが、ビリー・ボブは上手い役者だった。
 

ホビット、またの名を”Sherlock”のワトソン博士ことマーティン・フリーマンは今が旬。人生のダークサイドへ踏み込んでしまい二重人格的変貌を遂げるレスターを、イギリス人ながらミネソタなまりの英語を駆使して達者に演じる。このレスターの変身ぶりはとても怖く、フリーマンとビリー・ボブの演技合戦は見ものだ。
 

さらに、無名の舞台俳優ながら主役級のモリーに大抜擢されたアリソン・トールマンと、終盤でアッと驚く大活躍をするガス役のコリン・ハンクスが絶妙のケミストリーを醸し出す(コリンは偉大な父親の陰でいつも地道に頑張っている)。二人の淡いロマンスは、殺伐とした殺人劇の中にあって微笑ましいひと時を観る者に与えてくれる。
 

ビリー・ボブ、フリーマン、トールマン、ハンクスのアンサンブルは抜きん出ていて、本作では4人全員がエミーとゴールデン・グローブの両賞にノミネートされた(ビリー・ボブがゴールデン・グローブの主演男優賞を受賞)。
 

本国で10月からスタートしたシーズン2は映画版の17年前の設定で、俳優もストーリーもまったく違う。現在シーズン1をも上回る高評価で、映画サイト”Rotten Tomatoes”では100%の肯定率(「いいね!」)を得ている。日本ではスター・チャンネルでシーズン1が昨年放送され、先月(10月)にDVDが発売されたばかり。
 

“Fargo”独特の雰囲気、味わい、魅力のすべてを活字で表現するのは至難の技だ。ぜひ実際の作品で体感してほしい。
 

<今月のおまけ> 「心に残るテレビドラマのテーマ」⑫
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子供の情操教育に悩んだら、この一作を見せればこと足りる
 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
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