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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

『ザ・ビーチ』
楽園に取りつかれた者の狂気

『ザ・ビーチ』 <Br>楽園に取りつかれた者の狂気
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“楽園”と聞くと映画『ザ・ビーチ』を思い出す。この作品は、『タイタニック』の大ヒットで一気にスターダムを駆け上がったレオナルド・ディカプリオの主演作として話題を集めたが、当時の彼のアイドル的な人気に頼っただけの映画ではない。楽園の美しさとその魅力に取り憑かれた者たちの異常な心理描写が描かれているのだ。

 
物語はバンコクから始まる。ディカプリオ演じるリチャードは、1人旅の途中、安宿が並ぶカオサン通りで伝説の楽園と言われるビーチへの地図を手に入れる。半信半疑ながら隣室に泊まっていたフランス人カップルと共にビーチを目指すリチャード。しかし、旅の途中で知り合った若者に地図の写しを渡してしまったことで後に悪夢をみることになる…。

 
リチャードたちが辿り着いたビーチはまさに楽園だった。青い空と白い砂浜、コミュニティを作って自給自足で暮らす若者たちとの自由な毎日…。しかし、この島には大麻の栽培とそれを売りさばくためにその島で暮らす武装した男たちとの共存という暗部がある。つまり、この楽園の存在は誰にも知られてはいけないのだ。

 
ある日、ビーチでリチャードの仲間たちがサメに襲われたことから楽園の雰囲気が一変する。1人は死に、1人は瀕死の重傷を負うが、彼を島の外の病院へ連れて行くことを誰も許さない。楽園での生活を守るため、痛みにうめく男を森のテントに置き去りにしてしまう場面にはぞっとさせられた。さらに、リチャードから地図をもらい楽園にやってきた4人の若者が銃殺されてしまう。前半の夢のように美しい場面から怒涛のエンディングに向かうなか、追い詰められ、常軌を逸していくディカプリオの姿は衝撃的だ。

 
私はこの作品をニュージーランドの映画館で観たが、その時はまだそれほどリアルにこの映画の狂気を感じていなかったように思う。しかし、その数か月後、さらに1人旅を続け、物語の幕開けと同じカオサン通りの安宿にたどりついた私は、リチャードが興味本位で楽園に旅立ってしまった危うさが分かる気がした。世界中から集まるバックパッカーたち、うだるような湿気と熱気、毎日がお祭りさわぎのような解放された雰囲気、真夜中に流れる大音量のボブ・マーリーのナンバー…。南国の一人旅には、人の心を魅了し狂わせてしまう魔物が潜んでいるように思う。私自身も泳ぎが得意なわけでもないのにダイビングのライセンスを取りに行き溺れそうになったり、カンボジアでアンコールワットの遺跡群を周った時には無防備にもバイクに二人乗りするバイクタクシーに乗ったりしていた。バイクタクシーなんて今思えばそのまま連れ去られてもおかしくない危険な状況だが、当時の私はライダーの男性の誠実そうな態度に安心し、何のためらいもなかった。何か月も旅を続けるうちに、1人で行動することに慣れてしまい、不安よりも「まだ見たことのないものをなんでもみてやろう」という気持ちが強くなりすぎていたのかもしれない。『ザ・ビーチ』を観ると、そんな無謀な旅の記憶が蘇る。8月はまさに楽園を求めて海外に旅立つ人が多い季節。くれぐれも羽目を外し過ぎずに良い旅を!
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『ザ・ビーチ』
監督:ダニー・ボイル
出演:レオナルド・ディカプリオ、ティルダ・スウィントン
製作国:アメリカ
製作年:1999年
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Written by 池田 明子
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[JVTA発] 今週の1本☆ 8月のテーマ 楽園
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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