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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『ガタカ』

今週の1本 『ガタカ』
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7月のテーマ:海
 

映画に出てくる海はやっぱり美しい。恋が生まれたあの渚。悲劇が起こるあの岸壁。壮絶なバトルが繰り広げられる海原。数えきれないほどの映画のシーンが海を舞台に描かれてきた。何かしらの感情と共に記憶に残る劇中の「海」が、皆の心に少なからずあるだろう。
 

「海」は、その不可侵な存在感をもって、プロットを鮮明に印象付け、物語をドラマチックに進めてくれる、まさに絶好のロケーションだと思う。
 

1997年製作のSF作品『ガタカ』。
遺伝子工学の発達によって優秀な遺伝子を組み合わせて生まれた「適性者」が支配する近未来。宇宙飛行士を夢見る主人公の青年は、自然出産で生まれた「不適性者」であり、寿命30歳と宣告され生きてきた。ある日、事故により脚の自由を奪われたエリート「適正者」の生体IDを買い取り、夢をかなえるため宇宙局「ガタカ」へ入社するが…。
 

この作品で「海」は、出来事が起こる場所というより、ある種のメタファーとして、物語に溶け込んでいる。
 

大きなガラス張りの部屋。ベッドで抱き合う青年と同僚の女性。二人の後ろに広がるのは漆黒の夜空と海。このラブシーンをカメラは上下逆さまの視点でとらえる。
 

遺伝子の優劣が人生のすべてを決めてしまう世界では、人格、可能性などというものは無価値だ。「不適正者」は夢を見ることすら許されない。社会的弱者として生まれた青年の存在と、決して昇華することのない彼の夢は、まるで水平線で隔てられた海と空のようだ。地球に重力がある限り、それぞれの位置するところは不変であり、決して交わることはない。
 

二つの絶対的関係を天地逆転で見せる45秒ほどのシーンは、視覚的効果を最大限に発揮しながら、不条理な世界で、運命に抗うものの姿をより美しく見せた。私の記憶に深く刻まれている映像だ。
 

他のシーンでも「海」の存在自体が主人公の悲哀を表現する重要な役割を担い、物語を伝えていく。
 

上述のシーン直後に訪れる早朝の海の場面で観客が目にするのは、痛みすら感じさせる主人公の葛藤だ。
 

また、幾度か登場する、「適正者」である弟との遠泳のシーンでは、昼夜まったく別の印象を持つ海原が、二人の関係性と拭うことのできない確執、二人の精神的な成長を、見事に表現している。泳いでいく方向を鳥瞰図で見せるニクい演出も、私は好きだ。
 

映画音楽の巨匠マイケル・ナイマンの音楽も本当に素晴らしい。名曲「Departure」と共に描き出される満天の星空は、(私の中の)映画史に残るエンディングだ。涙なくして観ることができない。
 
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『ガタカ』(1997年 アメリカ)
監督:アンドリュー・二コル
出演:イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、アラン・アーキン、ジュード・ロウ
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Written by 浅川奈美
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[JVTA発] 今週の1本☆ 7月のテーマ:海
 

当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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