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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『エクス・マキナ』

今週の1本 『エクス・マキナ』
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6月のテーマ:変化
 

コンピューターの能力が人間を超え、技術進化の主役が人間からコンピューターに移行する技術的特異点(シンギュラリティ)に達するのが2045年だと言われている。テクノロジーが人間の限界を超えて急激に進み始めることによってさまざまな問題が発生するという「2045年問題」などについて世界中で調査・研究が行われている一方で、人間と共生できる自律型ロボットの開発は、日本でも進んでいる。また、日本政府の資料によると、コンピューターが創作した物の著作権上の取り扱いについては、すでに昭和48年に議論されていたそうだ。現在もそうした創作物に特許権などの保護を付与すべきかどうかなど、AI(artificial intelligence)に法律上の人格を認めるか否かの討議が実際に行われている。
 

そんな中で、話題のSFスリラー映画『エクス・マキナ』(原題: EX MACHINA)がいよいよ今月日本で公開される。検索エンジン最大手のインターネット会社で働くプログラマー、ケイレブ・スミス(ドーナル・グリーソン)は、社内での抽選に当たり、カリスマCEOのネイサン・ベイトマン(オスカー・アイザック)のアラスカにある隠れ家的な邸宅に1週間滞在するチャンスを得る。山岳地帯の大自然の中にあるこの邸宅は、実はネイサンが一人で研究を行う極秘施設だった。ケイレブは、ネイサンが開発したロボットにチューリング・テストを行い、知性があるかどうかを確認するというタスクを与えられる。
 

チューリング・テストとは、映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の主人公でありコンピューターの父と呼ばれるイギリスの数学者、アラン・チューリングが考案し、1950年に発表したものだ。このテストは、判定者、コンピューター、人間がそれぞれ隔離されて、お互いの姿が見えない状態で行われる。ディスプレーに表示される文字だけで会話をし、判定者が一連の会話の30%以上の部分で人間か機械かが判別できないと評価すれば合格となり、コンピューターにAIがあるとみなされる。2014年6月に、13歳のウクライナの少年という設定のコンピューター・プログラム「ユージーン」が、史上初めてこのテストに合格したのは記憶に新しい。
 

ところが、ケイレブはガラスの壁越しに直接ロボットと対面して、このテストを行うことになる。ケイレブの前に現れたのは、20代の女性の姿をしたロボット、エヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)。純真そうな愛らしい顔はまるで人間のように見えるが、頭部も身体も機械が丸見えで、動くときにはわずかに機械音も聞こえる。
 

エヴァが機械であるということは明らかなのに、その知的な会話や、かわいらしい表情としぐさ、澄んだ声とやわらかな話し方、しなやかな体の動きなどから、ケイレブだけでなく映画を観ている私たちの中でも、エヴァに対する認識がだんだん変わっていく。機械であることを忘れて感情移入していくのだ。ネイサン以外には誰にも会ったことのないエヴァも、ケイレブとのインタラクションを重ねるうちに、洋服を着たり、かつらをつけたりして、女性らしい姿へと変化していく。
 

エヴァの部屋は、ガラスで仕切られていて、屋外が見える窓はなく、監視カメラがあちこちに設置されている。部屋の外には、三方が灰色の壁に囲まれた小さな庭があるが、木が植えられているだけで、そこから空は見えない。エヴァは部屋から一歩も出たことがないとケイレブに話す。このガラスの箱の中にエヴァを閉じ込め、彼女に冷酷に接するネイサンに、エヴァは「Is it strange to have made something that hates you?」と悲しそうに言う。
 

チェス・コンピューターは、チェスをしているという意識はなく、勝ちたいとも思わないし、勝ってもうれしいとも感じないが、エヴァには自我意識や自己・他者認識、感情はあるのだろうか。囚われているという認識や自由になりたいという思いはあるのか。ストーリーが進むうちに、ネイサンの真意が次第に明らかになっていき、まさかの結末を迎える…。
 

人の手のつかない大自然と、外界から隔離された窓のない地下室の人工的な空間。この対照的な環境の変化が、心理的な圧迫感を増大させる。大自然の中にある邸宅部分の撮影はノルウェーにあるホテルと個人宅で2週間かけて行われ、研究施設などの部分はイギリスのパインウッド・スタジオで4週間で撮影されたという。(パインウッドは昔からある有名なスタジオで、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などをはじめとする超大作の数々がここで撮影されている。)
 

この作品は、1500万ドルという低予算のインディペンデント映画であるにもかかわらず、莫大な製作費が投じられた『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などを抑えて、今年、アカデミー賞視覚効果賞を受賞。本作品で監督デビューをしたアレックス・ガーランドは、アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。またエヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルは、この演技によりゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞などで助演女優賞候補となった。アリシアは、今年大活躍で、『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を獲得、ゴールデン・グローブ賞のドラマ映画部門と英国アカデミー賞の主演女優賞候補にもなり、両賞で主演と助演のダブル・ノミネーションを果たしている。
 

アリシアにはハリウッドのイベントで何度か会う機会があったが、実物も可憐でとてもかわいらしい女性だ。ネイサン役のオスカー・アイザックは、演じる役によって雰囲気が大きく変わるのでどんな人か想像がつかなかったが、実際に会ってみると、シリアスなのにおもしろくて優しい素敵な人だった。二人ともJVTAロサンゼルス校の留学生によくしてくれたこともあって、個人的にも大好きな俳優たちだ。
 

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◆アリシア・ヴィキャンデルとオスカー・アイザックはLA校の留学生にとてもよくしてくれました! 記事トップの写真は、エヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルからサインをもらった映画のポスターです。
 

ちなみに、タイトルのEX MACHINAは、ラテン語の「DEUS EX MACHINA」からきている。映画を観ている時に私はキャッチできなかったが、後から読んだ脚本に、ネイサンの書斎にあるコンピューターのモニターのデスクトップには「DEUS EX MACHINA」という名前のフォルダがあり、その中にこれまでのAI実験フォルダが入っている、とあったのが非常に興味深い。
 

AIを人間と同等のものとしてその権利を認めるかどうかや、意思を持つAIに関する倫理はどのように考えるのかなど、本作はさまざまな疑問を投げかけているが、こうした議論が現実のものとして行われる日もそう遠くはないのかもしれない。
 

『エクス・マキナ』の公式サイトはこちら
http://www.exmachina-movie.jp/
 

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『エクス・マキナ』
監督・脚本: アレックス・ガーランド
製作総指揮: スコット・ルーディン、イーライ・ブッシュ
出演: アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック、ドーナル・グリーソン
製作国: イギリス
イギリス、アメリカ公開年: 2015年
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◆写真
トップ  エヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルから映画のポスターにサインをもらいました。
本編中  アリシア・ヴィキャンデルとオスカー・アイザックはLA校の留学生にとてもよくしてくれました!
 

Written by 黒澤 桂子
 

[JVTA発] 今週の1本☆ 6月のテーマ:変化
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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