News
NEWS
[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『ポテチ』

今週の1本 『ポテチ』
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

7月のテーマ:願い

 
「ホームラン打ったとして何か変わるのか? 人は救われるのか?」
(映画『ポテチ』より)

 

兄と姉は頭も性格も良い。しかし、私だって、何度か「親を喜ばせたい」と真剣になったことがある。

 
親が喜ぶには? 親が笑顔になるには?
“親が自慢したくなる子ども”とは?

 
こうみえて私は、家族優先で物事を判断することがある…気がする(ここで断言しても、なんだかうぬぼれている奴になりかねないので、語尾はあえてあやふやに)。自分の買い物をしようと外出したのに、家族へのお土産でお財布が空っぽになっているなんて、よくあることだ。街中をいろいろ見て歩いていると、「あ、あれお母さん好きそう!」「今夜これでお父さんとおじいちゃんと乾杯したいな~」、そんなこんなで自分に必要なものが買えないことだってしょっちゅうある。自分でも呆れるが「でも、まぁ、きっと喜んでくれるだろう」と開き直って家に帰るのだ。

 
きっと誰もが親の期待に応えたいとか、褒められたいとか思ったことがあるのではないだろうか。

 
この映画『ポテチ』の主人公、空き巣を生業としている今村も、母親の幸せについて真剣に向き合い悩んでいた。彼は、同じ年、同じ日、同じ病院で生まれたという不思議な縁をもつプロ野球選手の尾崎の大ファンで、誰よりも彼を応援しているし、彼に対する思いは特別だ。少しでも尾崎が馬鹿にされると、部屋の家具を蹴散らかすほどの怒りを爆発させる。それほど尾崎には強い思いを抱いているのだ。

 
しかしある日、自分と尾崎が病院で取り違えられていた事実を知る。つまり今村が今まで母親だと思ってきた女性の実の子どもは、自分が応援しているプロ野球選手の尾崎なのである。この事実は今村を深く悲しませる。「母ちゃん、本当ならもっと優秀な息子をもてたのかもしれないのに」と。

 
取り違えられてしまっていた過去は消せない。空き巣の自分は、立派でも、自慢できる息子でもない。もっといえば自分は母ちゃんの息子でもない。さまざまな思いを胸に抱えながらも、今村は母親を想い、幸せを願うのだ。

 
今村を支える周りの存在も重要だ。彼女の若葉、空き巣の兄貴分の黒澤、母親の弓子。言葉にはできないが彼らの関係の中には確かに存在しているなにかがあり、それは作品から確かに感じ取れる。誰かを思いやる人だからこそ分かるし伝わる、そんなところをうまく描いている作品である。

 
皆様には是非エンドロールの最後までみていただきたい。
ボールがただ遠くへ飛んでいく…。それだけなのに、救われる人生もあるのだ。

 

─────────────────────────────────
『ポテチ』
監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎『ポテチ』(新潮文庫刊『フィッシュストーリー』所収)
出演:濱田岳、木村文乃、中林大樹、大森南朋、石田えり
製作国:日本
製作年:2012年
─────────────────────────────────

 
Written by 日比野紅翠

 
〔JVTA発] 今週の1本☆ 7月のテーマ:願い
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page