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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『デイジー』

今週の1本 『デイジー』
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8月のテーマ:鍵

 
『デイジー』は私が唯一、映画館に3回観に行った映画だ。
 

この作品は、オランダを舞台に画家を志す女性ヘヨンと、インターポールの捜査官のジョンウ、殺し屋のパクウィという3人の男女の愛の軌跡を描くラブストーリー。ヘヨンを演じるのは、『猟奇的な彼女』『僕の彼女を紹介します』などのヒットで日本でも人気の高い女優のチョン・ジヒョンだ。物語は彼女の目線で始まる。
 

ヘヨンは、祖父が営む骨董店で働きながら、週末に広場で似顔絵書きをしている。彼女のもとにはデイジーの花が定期的に送られてくるが送り主は不明だ。ある日、広場でデイジーの鉢植えを持ったジョンウが似顔絵の客としてやってきて2人は距離を縮めていく。しかし、数カ月後、広場で銃撃戦が起こり、ヘヨンが喉を撃たれて声を失ってしまう。
 

ここで目線はジョンウに変わる。彼が広場で犯罪組織のアジトの張り込みをしていた事実や、ヘヨンに魅かれていく思い、銃撃戦での負傷などが語られる。
 

一方、広場を臨む部屋には、楽しそうに語らうヘヨンとジョンウをせつなく眺めていた男がいる。『私の頭の中の消しゴム』で日本でもブレイクした俳優、チョン・ウソンが演じる殺し屋のパクウィだ。ここから、パクウィの目線で、デイジーの花とヘヨンとの出会いが語られていく。
 

同じ場面を3人それぞれの立場と目線で描かれていくのが秀逸で、3人の複雑な関係性が次第に浮かび上がってくる。デイジーの送り主はジョンウか、パクウィか? ヘヨンの恋の行方は? 全編オランダでロケをしたという美しい風景はもちろん、後半は一切セリフがないという難しい役どころに挑むチョン・ジヒョンの演技も見どころとなっている。
 

実はこの作品には2つのバージョンがある。日本をはじめ世界で上映されたのは、ヘヨンの目線を中心に描いたインターナショナルバージョン。一方、韓国で上映されたのは、パクウィの目線を中心に描いたアナザー・バージョンだ。日本で公開されたのは2006年で、インターナショナルバージョン公開の約1カ月後に、ごく一部の映画館でアナザー・バージョンが公開された。当時JVTAで映像翻訳を学んでいた私は、午後の講義後、新宿の映画館に3回通った。インターナショナルを1回、アナザーを2回観るために…。
 

アナザー・バージョンでは、パクウィのモノローグが多めに収められている。それにより、彼女への想いもより深く分かるし、インターナショナル・バージョンを観た時には謎だったいくつかのシーンも、「こういうことだったのか!」と合点がいった。ネタバレになるので詳しくは言わないが、ぜひ両方を観ることをおすすめしたい。ラストシーンも微妙に違っている。その後私はチョン・ウソンのファンになり、彼の作品を沢山見たが、今でも『デイジー』が一番のお気に入りだ。
 

ちなみに『デイジー』公開から10年後、JVTAの広報スタッフになっていた私は、チョン・ウソンの登壇イベントを最前列で取材するという機会に恵まれた。JVTAが字幕で協力している「ショート ショート フィルムフェスティバル&アジア」の審査員として来日したのだ。俳優だけでなく、監督にも挑戦した彼が、映画への想いを誠実に語る姿を間近で見て、本当に嬉しかったのを覚えている。あのパクウィが目の前にいるのだから!『デイジー』を観ていたころ、こんなことは想像もしていなかった。
 
◆そのレポート記事はこちら
https://www.jvta.net/?p=7736
 

JVTAの修了生の皆さんの中にも、憧れの監督やアーティストの作品、大好きだった番組の字幕や吹き替え、アテンドなどに携わっている人がいる。映像翻訳のスキルを身につけたことが、夢への扉を開ける“鍵”となったのだ。すべての受講生・修了生の皆さんがその“鍵”を手にして、それぞれの想いを叶えることを心から願い、応援しています。
 
『デイジー』
監督:アンドリュー・ラウ
製作年:2006年
製作国:韓国
出演:チョン・ジヒョン、チョン・ウソン、イ・ソンジェ
 
Written by 池田明子
 

〔JVTA発] 今週の1本☆ 8月のテーマ:鍵
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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