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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『サン・ジュニペロ』(ブラック・ミラー シーズン3)

今週の1本 『サン・ジュニペロ』(ブラック・ミラー シーズン3)
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4月のテーマ:ひだまり

 
暖かくなってきたこの頃、晴れた日に窓際でうとうとしていると、ふと思い出す風景がある。子どもの頃によくした川遊び、ドライブデートで行った海沿いの遊園地、友達と旅したケニアで地面に寝ころんで永遠眺めた星空。柔らかい日差しの中で思い出に浸るのはとても心地いい。

 
NetflixのSFオムニバスドラマ『ブラック・ミラー』のシーズン3に『サン・ジュニペロ』というエピソードがある。二人の若い女性、ヨーキーとケリーが1980年代のサン・ジュニペロという海辺の街で出会い、恋に落ちる物語だ。シャイで地味なヨーキーと社交的でおしゃれなケリーは、相反する性格ながらも一瞬にして惹かれあう。

 
初め、二人の会話から読み取れるのは、サン・ジュニペロは誰もが楽しい時間を過ごせる特別な場所だということ。意気投合したヨーキーとケリーは、クラブでお酒を飲んで踊り、海が見えるコテージで幸せな時間を過ごす。しかし、物語が進むにつれ、二人は限られた時間だけ過去に戻るためにこの街に来ていることが分かってくる。サン・ジュニペロに存在しているのは、現実を離れた二人の「意識」だけなのだ。

 
現実の世界では、二人はすでに人生の終盤に差し掛かっていた。ヨーキーは、21歳の時にゲイであることを両親に打ち明けるものの、猛反発を受けて家を飛び出した際に自動車事故に会い、以降40年間昏睡状態にある。ケリーは、すでに70歳を迎え、病気のため余命数ヵ月の宣告を受けている。二人が住む近未来の世界では、病気や高齢で死が近い人たちのために、「ノスタルジアセラピー」として、週に5時間だけ、つらい現実を離れて仮想世界であるサン・ジュニペロで過去に戻り、自由に楽しい時間を過ごすことが許されていた。

 
やがて死を迎えるときが来ると、ヨーキーとケリーは二つの選択肢を与えられる。通常の死を受け入れるか、あるいは「クラウドの仮想天国」であるサン・ジュニペロに意識をアップロードして肉体が死んだ後も生き続けるかだ。生命維持装置を外すことにしたヨーキーは、何の迷いもなくサン・ジュニペロで永遠に生きることを選ぶ。一方で、長年連れ添った夫と一人娘を亡くしているケリーは、通常の死を選んだ家族を裏切る後ろめたさから二の足を踏む。生まれた時代の価値観に翻弄されて異なる人生の選択をしてきた二人は、デジタルの世界で出会うことで、今また大きな選択をすることになる。

 
そして迎える結末。ヨーキーとケリーは、現実世界では叶わなかった人生をサン・ジュニペロで歩み始める。社会的、身体的束縛から解き放たれ、希望にあふれた二人がオープンカーに乗って走り去るラストシーンは、『テルマ&ルイーズ』であり得た“もう一つのエンディング”を見ているかのようだ。

  
テクノロジーがもたらす新しい可能性、それに伴う倫理的問題、「存在する」とはそもそも何なのか。生きることについて考えさせられる面白い作品なので、ぜひ見てほしい。

 
『ブラック・ミラー』Netflixオリジナル作品
制作年:2015年~
原作・制作:チャーリー・ブルッカー

 
Written by 板垣七重

 
[JVTA発] 今週の1本☆ 4月のテーマ:ひだまり
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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