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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

発見!キラリ 「押し開けられたドア」

発見!キラリ   「押し開けられたドア」
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5月のテーマ:風

 
20代半ばの頃、2カ月ほど西アフリカを旅行した。大学でアフリカについて学んだこともあったし、学生時代に何度かバックパック旅行を経験して、また同じようにバックパックを背負って知らない土地を旅したいという欲求が高まったことも理由だった(とはいえ、この旅行でバックパックを背負っていたのは最初の1カ月目までだったのだけど)。

 
7月に日本から空路モスクワを経由して、大西洋に面したセネガルのダカールへ入り、そこからは陸路で西のマリ、ブルキナファソに移動した。ブルキナファソでしばらく過ごしたあと、早朝に出る国境越えのバスで南のトーゴという国に移動しようと考えた。日の出前のまだ真っ暗な時間にバスの発着場までの道を歩いていると、運悪くナイフを手にした4~5人組の強盗に遭遇した。パスポートと大部分のお金はシャツの下に隠したポーチに入れていたので無事だったが、そのほかのすべての荷物が入ったバックパックは丸ごと持っていかれてしまった。

 
ブルキナファソには日本大使館もなく、警察に行っても荷物が戻ってくる望みは薄いので時間の無駄だと考え、そのまま予定通り国境越えのバスに乗ることにした。

 
国境越えのマイクロバスの後部座席は、普通は2~3人掛けの座席があるべきところにシンプルな木の板が敷かれていて、すでに3人が座っていた。僕も入れて4人も座るとかなり狭い。これに2日間も乗るのか、と思っていたら、しばらくしてさらに2人が座ってきた。そんな状態で、バスの発着場で買った歯ブラシだけを持ち(寝る前に歯を磨かないとどうにも落ち着かないのだ)、ほぼ手ぶらのまま国境を越え、翌日の夜にようやくトーゴの首都ロメに到着した。

 
強盗に遭ったあげく、考えられないくらいの悪路を、考えられないくらいすし詰めのマイクロバスでほぼ2日間揺られるというだけでもだいぶ悪夢だが、本当の悪夢は到着後だった。トーゴは国境からの入国の場合、無料でビザがもらえるものの、入国から7日以内にビザ延長の手続きをしなければならない(手続きをしないと当然ながら不法滞在になる)。だが、強盗にガイドブックも持っていかれてしまったので、地図も何もない。ビザの延長手続きをする窓口はもちろん、泊まれそうな宿がどこにあるかもわからない。もちろん替えのシャツも下着もない。西アフリカで公用語として使われるフランス語は旅行前に少し勉強していった程度なので、複雑なやりとりまではできない。

 
宿については、たまたまブルキナファソで出会ったスイス人のバックパッカーによい宿がある地域を聞いていたのが助けになった。地元の人にひたすら尋ねて回り、何とか適当な宿を見つけることができた。着替えや生活用品は中古品を売る屋台が並ぶ界隈を見つけ、そこで安く買い集めることができた(下着も靴下も中古だ)。だが、ビザの手続きをする窓口はどうやっても見つからなかった。地元の人はそんな窓口の存在自体も知らないし、警察や観光客に聞いても話が通じないか、通じても陸路で国境を越える人はあまりいないので、ビザ延長に関しての情報を持っている人は皆無だった。書店にも行ったが、それらしき情報が載っている地図やガイドブックは見つけられなかった。僕に必要だったのは、英語で書かれたバックパッカー向けの、しかも地元についてのガイドブックだった。だが、フランス語が公用語で、バーンズ&ノーブルも紀伊國屋書店もなく、観光客のきわめて少ない小国でそんなものが見つかる望みはゼロだった。

 
入国してからバスで1泊し、さらに宿や窓口を探したりするのに2日かかっていたので、すでにビザ期限の残りは3日になっていた。心身ともに本当に疲れ果てていたし、ビザが切れる前にすぐに別の国に出国する気力もなかった。万策尽きてくたくたになった僕は、途方に暮れながら宿に帰ってきた。そして自分の部屋に戻ろうと廊下をとぼとぼと歩いていると、窓から吹き込んできた風で目の前の部屋のドアが押し開けられた。

 
その宿は、普段は海外から来るボランティア団体の宿泊施設として使われている大きな建物で、1年の一時期だけ、いくつかの部屋が宿泊施設として提供されているようだった。だからほとんどの部屋は空き部屋で、偶然ドアが開いたその部屋も無人だった。僕は、ほかの部屋はどんな様子なんだろうと思い、その部屋を何気なくのぞいた。中には備え付けのベッドや棚があるだけで、荷物やシーツなど滞在者がいた痕跡は残っていなかった。だが唯一、ベッド脇の小さなテーブルの上に、西アフリカ版の『ロンリープラネット』が置かれていた。英語で書かれたバックパッカー向けの、しかも地元のガイドブックだ。

 
その『ロンリープラネット』に載っていた情報のおかげで無事にビザを延長したあと、結局ロメには1カ月近く滞在した。不足していた生活用品を手に入れるためにたまに町をぶらつくこともあったけれど、多くの時間は宿の屋上でぼんやりと外を眺めて過ごした。そして、暗闇から現れた強盗たちのこと、知らない町をあてもなく歩き回ったこと、そして奇跡と呼ぶのはおおげさだけど、といって偶然というには物足りない出来事によって救われたことを、何度も思い返していた。

 
Written by 桜井徹ニ

 
[JVTA発] 発見!キラリ☆  5月のテーマ:風
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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