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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 「風雲児たち」

今週の1本 「風雲児たち」
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12月のテーマ:再会

 
「風雲児たち」は、漫画好きで歴史好きな自分にとても思い入れの深い作品だ。

 
本作は1979年に連載開始、もともとは幕末の群像を五稜郭陥落まで短くまとめるとの企画だったそうだが「幕末の状況はそもそも江戸幕府成立時に根がある」との作者の強い意向により関ヶ原から話がスタートし、なんと40年近く経過した今もまだ連載中の超長期連載となっている。

 
今年の大河ドラマ『西郷どん』をはじめ、幕末が舞台の小説、映画などは数多く存在するが、本作はこの長い連載を生かし、それぞれの時期に活躍した人物像を、その前後の歴史のつながりや同時代の人たちや事件、出来事との関連を含めて立体的に生き生きと描いている。歴史を学ぶのにうってつけの作品であり、単純に読み物としても本当に面白い。

 
さらに特筆すべきは、鎖国政策下の江戸時代における海外との関わりを詳しく描いている点だ。ペリーの黒船来航までのオランダとの国交、蘭学の歴史、シーボルト事件、ロシアによる蝦夷地(北海道、千島、樺太)への接近、それらへの幕府や諸藩の対応なども詳しく描かれている。さらに民間人が遭難等で漂流してたまたま外国と関わりをもった事例などもいくつか出てきており、その一つがジョン万次郎らのハワイ、アメリカ行きと帰還である。

 
ジョン万次郎という名前は有名だが、“漁民で幕末の頃に漂流しアメリカの船に拾われて、アメリカでしばらく暮らして帰国した”くらいの理解の人が多いだろう。しかしこの人が両国で過ごした日々の詳細や歴史上果たした役割、一緒に漂流した仲間達とのドラマまで知っている人は少ない。本作にはそのあたりも克明につづられている。

 
万次郎とその仲間の4人の漁師は土佐の漁師で1841年に太平洋で遭難、漂流ののちに伊豆諸島南端の無人島の鳥島に流れ着く。そこで143日過ごしたのち、米国の捕鯨船が彼らを救出し、当時鎖国の日本に送る事はできずハワイに下ろす。ただ、その航海中に万次郎は他の仲間と比べ突出した英語力の向上と未知の文化への好奇心があったため、船長の誘いを受けてアメリカ本土に上陸。現地で学校にも通い、英語のみならず測量術、航海術、数学、造船術等を習得。捕鯨船に乗り込めるだけの知識を身につける。

 
その後望郷の念が 湧き、帰国に向けゴールドラッシュに湧く西部に行き資金を貯めてハワイに渡航。そこで漂流時の仲間と再会する。

 
完全に違う人生を歩んだかつての仲間との再会は、それ自体が奇跡的に実現したものであり、また言い尽くせない感慨があったことと思う。4人の仲間のうち一人は既に病没、一人は現地で妻子を持ちハワイに残留、2人が万次郎と共に3人で日本に帰国することとなり、1851年に10年ぶりの帰国、日本との再会を果たす。

 
その後もその知識と経験を様々な形で薩摩藩、土佐藩、幕府に伝え貢献するが、当時の日本では、彼の実力を十分に発揮させることができず、むしろスパイ扱いなどで不遇に追い込んでいた面が多々あったのは残念というほかない。

 
彼の物語は日本だけではなく、欧米の多くの人々の好奇心を掻き立て、大胆な脚色でミュージカル『太平洋序曲』にもなり、最近では2017年のブロードウェイでも上演されている。

 
今年はハワイ移民150周年 記念の年。最初にアメリカ大陸を体験した男、ジョン万次郎の人生をふりかえってみるのも感慨深い。

 

「風雲児たち」
著者:みなもと太郎
連載開始:1979年
現在、幕末編が連載中

 
Written by 筆谷信昭

 
〔JVTA発] 今週の1本☆ 12月のテーマ:再会
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

 
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