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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

明けの明星が輝く空に 第107回 特撮俳優列伝15 橋本力

明けの明星が輝く空に 第107回  特撮俳優列伝15 橋本力
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【最近の私】JVTAのブログ『今週の1本』に、“My pleasure”というセリフが紹介されていた。僕が思い出したのは、ラグビー、元イングランド代表のカーリング主将だ。敗戦後のインタビューで、悔しさを押し殺しながら真摯に質問に答え、最後に礼を言われたときに使った言葉だった。さすが「紳士のスポーツ」の本場で、主将を任された人物である。思わず、うならされた。

 
橋本力(りき 本名・ちから)さんの最大の特徴は、大きくギョロッとした目だ。それを買われて出演したのが大映の特撮映画『大魔神』(1966年)で、橋本さんが演じたのは“主役”の大魔神だった。大魔神が悪人を追い詰めるときの、恐ろしい憤怒の形相。顔は作り物だったが、あの人を射すくめるような目だけは違っていた。橋本さん本人のものだったのである。

 
映画の世界に身を投じる前の橋本さんは、夏の甲子園も経験したプロ野球選手だった。所属した大毎オリオンズ(現在の千葉ロッテマーリンズ)の親会社の一つが大映だった縁で、映画『一刀斎は背番号6』(1959年)に出演する。その後、怪我の影響もあって27歳で野球選手を引退。『一刀斎は~』の助監督に俳優業を勧められ、相談した俳優・上田吉二郎の「顔つきも性格も俳優に向いている」という言葉もあって、1960年に大映に入社した。

 
悪役などの端役が多かったという橋本さんは、ある時、京都(大映京都撮影所)へ行って主役をやるように言われた。半信半疑で行ってみると、それが大魔神だった。重い着ぐるみでの演技など、苦労が多かった撮影現場で、特に辛かったのは瞬きを許されなかったことだそうだ。「神様は瞬きしない」というのが理由だった。それも、ただ目を開けていればいいというものではない。怒れる大魔神の場合、目はカッと見開いた状態だ。その上、撮影現場では、「イモコ」と呼ばれる芋の粉を扇風機で飛ばしていたという。その方がいい味の映像になるらしいのだが、演じている役者はたまったものではないだろう。しかし橋本さんは、イモコが目に入っても我慢した。そのため、目が充血してしまったそうだ。

 
ただこれは、のちに「ケガの功名だね」とご本人も振り返っているように、思わぬ効果を生んだ。大魔神の目が血走り、迫力が増したのだ。悠然と歩いてくるだけの大魔神に、背筋がすくむような恐怖を感じるのは、あの目があればこそ。黒田義之特撮監督は撮影前日の晩、橋本さんの目に凄みを持たせるため酒を飲ませたというが、イモコの効果までは予想していなかったのではないだろうか。いわば偶然の産物であるが、橋本さんの撮影に対する覚悟がなければ、それもなかった。大いに評価されるべきである。

 
また、充血がなかったとしても、橋本さんの目が放つ光の強さは異彩を放つ。それは、『仮面ライダー』の怪人たちと比べてみると明らかだ。番組初期のころの怪人たちは、スーツアクターの目がマスクから覗いているものが多かったが、迫力という点で大魔神に遠く及ばない。橋本さんの目の演技にいかに凄みがあったか、そんなことからもよく分かる。

 
橋本さんは、『大魔神』の続編2作品(『大魔神怒る』、『大魔神逆襲』)でも、大魔神役を務め、さらに『妖怪大戦争』(1968)でもスーツアクターを務める。西洋から来た吸血妖怪ダイモンだ。この妖怪映画は、子どものころの僕にとってはトラウマ的な作品で、映画を観た後ひとりでトイレに行けなくなってしまったという思い出がある。

 
ダイモンの不気味で醜悪な顔は、大魔神と同じく作り物であるが、やはり目だけは橋本さん自身のものだった。ストレートに怒りを表現していた大魔神のときと比べると、目の演技にも違いが見て取れて興味深い。例えば、襲った人間の血を吸うシーン。その目はトロンとして、恍惚とも言える色を目に浮かべており、生理的に嫌悪感を覚える。また、終盤のクライマックス、日本中から集まった妖怪たちとの決戦シーンでは、目だけ極端に横や下に向け、異様に白目が多く見えて不気味だ。

 
ゴジラのスーツアクターで有名な中島春雄さん(当ブログ第92回『特撮俳優列伝6 中島春雄』https://www.jvta.net/co/akenomyojo92/参照)は、アクションによって、怪獣たちが本物の生物であるかのように見せることに成功した。それとは対照的に、橋本さんは目の演技によって、大魔神やダイモンに命を吹き込んだのである。これぞ、画竜点睛と言うべきか。

 
最後に、特撮以外に橋本さんが出演した、有名な作品を紹介しておこう。最後の出演作品でもあるそれは、あのブルース・リー主演の『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)だ。演じたのは、悪役の日本人武道家。ヌンチャクを持ったブルース・リー相手に、日本刀で立ち回りを演じ、最後は蹴り飛ばされて、絶命する役だった。大魔神という特撮史に残るキャラクターを演じた橋本さんは、ブルース・リーと戦った数少ない日本人俳優でもあったのだ。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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