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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『ビヨンド・サイレンス』

今週の1本 『ビヨンド・サイレンス』
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4月のテーマ:とっておき

 
つい先週のこと。
東京メトロ・日比谷線に乗っていた僕は、車両の中で、手話で会話している2人の女性に目を奪われた。
きびきびと動く手。トーンやニュアンスを込めるように移り変わる、語り手の顔の表情。
手話は、思っていた以上に躍動感があり、遠巻きに見ていても、話している人の思いや感情がはっきりと伝わってくるものだった。

 
「音情報を可視化して、聞こえない人にも映像作品の面白さを伝える“バリアフリー字幕”を学べる講座がある」

 
このことをネットで知って、僕はおよそ3年前にJVTAを訪れた。
学校に通い、「耳が聞こえない」「聞こえづらい」人に向けた日本語字幕を作るスキルを身につけたのだ。
そんな自分は“それなりに分かっているほう”と思っていたのだが、どうやらとんだ勘違いをしていたらしい。
確かに、映像をバリアフリー化する方法は知ったが、観客である当事者たちのことは「知ったつもりになっているだけ」だったのだ。だから、この作品を観てみようと思った。

 
『ビヨンド・サイレンス』(1996)は“ろう者”の両親を持つ少女・ララ(シルヴィー・テステュー/タチアナ・トゥリープ(子供時代))の成長を描くドイツ映画。第10回東京国際映画祭でグランプリに輝いた作品だ。この映画を観ると「聞こえない」がどういうことなのか、痛いほど伝わってくる。自分が両親の“耳”となって世話をしていたララは、クラリネット演奏を通じて音楽の才能に目覚め、自分の道を歩み始める。同時に、両親との間にある“壁”に直面せざるを得なくなるのだ。

 
この映画の魅力は両親とララのコミュニケーションの美しさだと思う。深々と降る雪を見て父・マーティンがララに「今はどんな音がしている?」と手話で尋ね、ララが答えるシーンや、テレビ映画を観る母・カイに手話で映像翻訳(!)するシーンは、感じたことのない温かさが胸に湧き上がってくる。

 
“壁”を取り払い、面白さや感動を伝えたり、共有したりする行為には、なくてはならないものがある。当たり前のことをもう一度肝に銘じて、今後も何かを作り続けていきたい。

 
不意に見かけた手話がきっかけで手に取った1本『ビヨンド・サイレンス』。とっておきの映画の一つとして、今後も挙げていきたいと思う。

 
『ビヨンド・サイレンス』
監督:カロリーヌ・リンク
出演者:シルヴィー・テステュー、タチアナ・トゥリープほか
制作国:ドイツ
制作年:1996年

 
Written by 小笠原尚軌

 
【4月15日開講】
MASK × JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
http://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php
・4月8日、最後の無料説明会を開催
https://www.jvta.net/tyo/6806/

 
[JVTA発] 今週の1本☆ 4月のテーマ:とっておき
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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