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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第20回 “BOSCH”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第20回 “BOSCH”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第20回“BOSCH”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

原作は警察/ハードボイルド小説の金字塔
マイクル・コネリーが紡ぎだすLAPD(ロサンゼルス市警)の刑事ハリー・ボッシュの物語は、’92年のデビュー以来、警察/ハードボイルド小説の頂点に君臨してきた。そのハリー・ボッシュ・シリーズが、コネリー自身の全面的サポートを得てドラマ化された。これが出色の出来ばえで、長年のボッシュファンとしては嬉しいかぎりなのだ!
 

ハリー・ボッシュという男
ハリー・ボッシュ(タイタス・ウェリヴァー)の本名はHieronymus Bosch、15世紀のオランダの画家にちなんで命名された。LAPDハリウッド署殺人課の上級刑事で、47歳。ジャズを好み、離婚歴がある。元妻のエレノア(サラ・クラーク)は再婚して、15歳になるボッシュとの娘マディ(マディソン・リンツ)とラスベガスに住んでいる。

 

貧しかったボッシュの母親は売春をしながら息子を育てたが、彼が11歳のときに何者かに殺された。ボッシュは孤児院で身につけたタフさと独立心により、一匹狼だが第一級の刑事に成長した。頭が切れるというタイプではないが、事実と証拠を徹底的に検証するクラシックな捜査スタイルで、妥協を許さず、粘り強く何ごとも見逃さない。

 

ドラマ化に当たり、ボッシュの年齢など幾つかの設定は変っているが、概ね原作に忠実だ(原作ではボッシュは60歳で引退して私立探偵となったが、その後LAPDに再雇用されている)。筆者の感覚では、ボッシュのイメージに一番近いアクターはロイ・シャイダーだ。
本作の魅力は、このボッシュのキャラクターに負うところが大きい。

 

みごとに映像化されたコネリーの世界観

ストーリーは10話完結で、コネリーの原作から幾つかのプロットが採用されている。複数の事件が並行して描かれるが、それらが関連性を持つこともある。
シーズン1はボッシュが容疑者を射殺するシーンから始まり、その正当性が裁判で問われる。一方、山中で飼い犬が見つけた子供の骨から25年前のコールドケース(未解決事件)の捜査が再開される。さらに、凶悪で知略に富む男娼連続殺人犯の壮絶な追跡劇が活写される。
シーズン2では、ロシアンマフィアに絡むポルノ製作者の殺人事件と、腐敗警官グループを追うおとり捜査が描かれる。そして終盤にボッシュは母親の死の真相に迫る。

 

ボッシュ役のタイタス・ウェリヴァーは、これまで’いつも主役にやりこめられる嫌な脇役’として数多くの映画・ドラマに出演してきた。名前は知らないがよく見る俳優の典型だ。だが本作でウェリヴァーが体現する、信念で正義を貫き通す初老刑事の生きざまと、別居している一人娘との交流に唯一の救いを求める孤独な父親像には胸を打たれる。

 

脇役では、ボッシュが今も想いを断ち切れない元妻エレノアを演じるサラ・クラーク(“24”の悪女ニーナ・マイヤーズと言えば早いか)のクールな魅力が際立つ。エレノアは元FBIの凄腕プロファイラーで、現在はプロのポーカー・プレイヤーだ。他にボッシュの相棒ジェリー(ジェイミー・ヘクター)、上司で友人のグレース(エイミー・アキノ)、野心家のLAPD副本部長アーヴィング(“Fringe”のランス・レディック)らがストーリーに厚みを加えている。

 

“BOSCH”はコネリーが製作総指揮・脚本に参画しているだけに、最近の刑事ドラマにありがちな派手なアクション、過激な性描写、低俗なジョークやwisecrack(軽口)は抑えられている。映像は美しく、語り口は重厚、ストーリーは圧倒的な臨場感を持って描かれ、事件の真相が厳しい現実と共に観る者に突きつけられる。
刑事という生き方、家族の意味、ジャズ、そして美しいロサンゼルスの夜景など、作家マイクル・コネリーの世界観が本作でみごとに映像化された。

 

ハリー・ボッシュ・シリーズは現在18作が刊行されている。コネリーには駄作がないのでどれを読んでも面白いが、興味のある人には、シリーズ最高作の「暗く聖なる夜」(”Lost Light”:講談社文庫)がお薦めだ。考え抜かれたプロット、絶望と希望が交錯する深い人物描写など、コネリーの手腕に驚かされるだろう。タイトル通り暗い話だが、エンディングは感動的だ。
 

蛇足だが、クリント・イーストウッド監督・主演の“Blood Work”(2002)、マシュー・マコノヒーが主演した“The Lincoln Lawyer”(2011)も、ハリー・ボッシュものではないがコネリーの原作だ(“Lincoln Lawyer”こと弁護士ミック・ハラーはボッシュの異母兄弟。
 

“BOSCH”はAmazonのオリジナルで、日本でもシーズン1-2をAmazon Videoで視聴できる。シーズン3は本国で来年4月に配信予定だ。
「ドラマが先か、小説が先か」、これは難問だが、どちらを選んでも失望することはないよ。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
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