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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第47回 “BULL”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第47回  “BULL”
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    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第47回“BULL”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    M・ウェザリーが新感覚のリーガルドラマでカムバック!
    民放大手CBSの“NCIS”は、今月シーズン16に入った国民的人気番組だ(筆者も全シーズン観ている)。同番組で特別捜査官トニー・ディノッゾを13シーズン演じたのがマイケル・ウェザリー。
    ウェザリーは、“BULL”でタイトルロールのDr.ブルを演じてCBSにカムバック、これがメガヒットとなった。本作は、Dr.ブル率いる裁判分析のエリートチーム“TAC”の痛快な活躍を描く、新感覚のリーガルドラマだ!
    (ついでに、陪審制度関連の英単語も押さえておこう)
     

    “Meet Dr. Jason Bull & Team TAC”
    訴訟の主戦場ニューヨーク。通常主役は弁護士と検事だが、ここに弁護士資格を持たずに法廷で勝ち続ける男がいる。Dr.ジェイソン・ブル(マイケル・ウェザリー)は、心理学、神経言語学、人口統計学の博士号を持ち、これらを取り入れた独自の裁判科学(“Trial Science”)を駆使し、司法制度の最も人間的な部分である陪審(“jury”)を操る。
     

    現実の法廷では、“innocent until proven guilty”(推定無罪:被告は有罪宣告までは無罪という大原則)という常識は通用しない。人間はあらゆるバイアスに囚われている。評決(“verdict”)の90%は、実質的に陪審員選抜(“juror selection”)の時点で決まるのだ。
    この事実に着目したブルは、単なる陪審コンサルタント(“jury consultant”)を超えた裁判分析の常勝軍団“Trial Analysis Corporation”(TAC)を創設、プロ中のプロたちをメンバーに迎えた。
     

    ― ブルの右腕として陪審分析・法廷戦略すべてに関わるのがマリッサ(ジェニーヴァ・カー)。ブル同様に心理学、神経言語学の専門家で、国土安全保障省の勤務経験がある。
    ― 弁護士ベニー(フレディ・ロドリゲス)はスリックな元NY市の検察官。ブルの元義弟で、よき友人でもある。
    ― 元FBI捜査官のダニー(ジェイミー・リー・カーシュナー)は、古巣のコネを使って聞き込みや囮調査などフィールドワーク全般を担当する。
    ― 元フットボールの全米大学チーム代表、ゲイでVogueのスタイリストという経歴を持つのがチャンク(クリストファー・ジャクソン)。顧客の法廷での服装一切を準備し、陪審員への印象操作を行う。
    ― そしてITおたくのケイブル(アナベル・アタナシオ)は、凄腕ハッカーぶりを縦横無尽に発揮する。
     

    ブルとこの個性豊かな5人は、法廷で不可能を可能にする!
     

    “HE’LL GET YOU OFF”
    ブルの顧客は弁護士、検察、被告人個人と様々だが、依頼を受けるかどうかは慎重に決めねばならない。陪審を操作する以上、TACは正しい側につかなくてはならないからだ。
     

    TACは陪審員を選抜するための予備尋問(“voir dire”)前に、候補者全員の徹底した事前プロファイリングを行う。性別、年齢、家族、職業、教育、前科、財務、思想、友人、趣味、嗜好、風評など、オンラインで拾える400項目を分析、各人の「行動パターン」を、アルゴリズムで予測するのだ。
    陪審員の決定プロセスでは、原告/被告双方に拒否権がある。有利な候補者だけを選ぶことはできないが、TACは陪審員選別が終わった時点でほぼ正確に評決を予測する。
     

    次は “mirror juror”と呼ばれる各陪審員のそっくりさん(ルックスではなく中身)を用意して、疑似裁判(“mock trial”)を行う。結果が悪ければ戦術を変えて、何回でも繰り返す。
    この間、TACのメンバーは、ブルがよりよい戦略を立案するためにフル稼働だ。
     

    こうして、ブルは正義の評決を勝ち取り、依頼人を苦境から救い、法廷に君臨するのだ!
     

    大衆娯楽の王道を行くリーガルドラマ!
    マイケル・ウェザリーはブルを演じるにあたり、トニー・ディノッゾの「チャラ男にみえるが芯が通っていて、プレイボーイのようで実は一途なキャラ」をうっすらと引き継いでいる。心理学の博士らしく見えないのはご愛嬌だが、ウェザリーは人気者なので、CBSの狙いはみごとに的中した。
     

    ストーリーは深堀りに乏しく、法廷シーンは直観的でご都合主義も散見される。だが陪審員にスポットライトを当てたのは新感覚だし、分かりやすくてテンポがいい。
     

    「勧善懲悪度の高さ」も売りだ。「水戸黄門」のように、いい意味で最初からマンネリ感が漂っていて安心感がある。TACのメンバーを「疑似家族」に見立てて幾つかのサイドストーリーを走らせるのも、アメリカン・ドラマの常套手段ながら効果的だ。
     

    さらに、①ハイテク機器が使えない田舎町の事件②関係者がTAC本部に閉じ込められた状況での疑似裁判③ルールが異なる軍事法廷など、趣向を凝らして視聴者を飽きさせない。
     

    老舗の“Law & Order”がハード・リーガルドラマの代表作だとすれば、“BULL”は対極にあるソフト・リーガルドラマと言えるだろう(中間に位置するのが“SUITS”や“Boston Legal”か)。
     

    “BULL”はツボを押さえた、大衆娯楽の王道を行くリーガルドラマなのだ!
     

    因みに、本作の“Rotten Tomatoes”での支持率はわずか20%台だが、Amazon (USA)での評価は高い。これは珍しいことではなく、大ヒットしたアクション、ホラー映画等でも同様の現象が起きる。評論家は低評価をつけて威厳を保つが、庶民はそんなことは意に介さず、「これ、面白いよ」と友人に勧めまくる。
     

    米国では今月からシーズン3がスタートした。日本では「BULL / ブル 法廷を操る男」のタイトルでWOWOWがシーズン2まで放送中。
    もちろん、庶民である筆者は本作をイチ押しする!
     

    <今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ㉖
    Title: “Here Comes Elastigirl”
    Artist: DCappella
    Movie: “Incredibles 2” (2018)

    今回はヘレン(”Elastigirl”)が大活躍、続編も面白かった!

     

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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