News
NEWS
“Viewer Discretion Advised!”inBLG

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第21回 “Master of None”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第21回 “Master of None”
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第21回“Master of None”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

“Master of None” = 「パッとしない奴」
タイトルの由来は英語のことわざ “Jack of all trades, master of none”(「多芸は無芸」、「器用貧乏」)から。“Master of None”は「パッとしない奴」くらいの意味で、タイトルロールを演じるのはインド系アメリカ人のスタンダップ・コメディアン、アジス・アンサリだ。
 

ユルくてホっとするロマコメ!
舞台はマンハッタン。デフ(アジス・アンサリ)はテレビCMに一度起用されただけのしがない俳優で、映画出演を目指してオーディションを受ける日々が続く。デフの友人には、精神年齢が異常に低い巨漢の白人アーノルド(エリック・ウェアハイム)、黒人レズビアンのデニス(レナ・ウェイス)、裕福な生まれの台湾人チェン(ケルビン・ユー)とマイノリティが多い。
インド系のデフにとって偏見やちょっとした人種差別は日常茶飯事だ。オーディションの役柄はタクシー運転手、科学者、ITエンジニアとインド人のステレオタイプばかりで、「インドなまりの英語を話してくれ」と要求されることもある。いちいち気にしていては生きていけないが、デフは憤慨して断り、勿論オーディションには落ちる。(でも、もし年間ギャラ20億円以上と言われる “Big Bang Theory”のインド系アメリカ人ラージ役をオファーされたら、デフはどうするのだろう?)

 

デフの恋人レイチェル(ノエル・ウェルズ)は音楽関係の広報係で、二人の出会いはマンハッタンのバーにあるジュークボックスの前だった。(こう書くと劇的にロマンティックに聞こえるが、実際はそうでもない)紆余曲折があって二人はしばらく離れるが、趣味・価値観など相性がピッタリのこのカップルは、“Music City”ことナッシュビルでのデートで恋に落ちる。(やはり劇的にロマンティックに聞こえるが、実際はそうでもない)

 

本シリーズでは、そんなデフ&レイチェル、その仲間たちの能天気ではあるが悩める日常が淡々と語られる。「斬新ではないが新鮮」、「凡庸ではないがフツー」という感覚が、とても心地良い。“Master of None”は、やたらテンポが速くて人の出入りが多い最近のコメディとは一線を画す、ユルくてホっとする(ただし“F-word”は多い)ロマンティック・コメディなのだ!

 

ドラマのロマコメは結構深い!

デフ:“Yeah, I feel like once you get to our age, that window to do big moves like that starts to close.”
レイチェル:“And it doesn’t even close slowly. You just look up, and it’s closed.”
(中略)
デフ:“You know, the window opens back up again when you turn 50, and you realize you fucked up your life.”

 

デフとレイチェルの自然で率直な会話には笑えるが、身につまされる人も多いはずだ。そこには将来への不安、お互いに対する懸念、人種差別・女性差別への不満が見え隠れしている。二人とも30代になり、確実に自分の可能性が狭まっていく現実を目の当たりにして恐れを抱く。それ故二人は傷つけ合い、お互いを見直す時間も必要となる。1時間半で強制的にハッピーエンドに仕上げる映画のロマコメと違って、ドラマのロマコメは結構真面目で深いのだ。

 

昨年アンサリはNYのマディソン・スクエア・ガーデンに12,000人を集めてライブを行った(Netflixが配信中)。アンサリは下ネタ・差別ネタを日常のスケッチの中に巧みに織りこみながら、マシンガントークで恋人、友人、家族を語り、観客の爆笑を誘う。“Master of None”は、このライブのエッセンスを煮詰めて毒を抜き、スローダウンさせながらロマコメ化したものなのだ。

 

絶妙な‘ホドホドの幸福感’が共感を呼ぶ

本シリーズで主演・製作総指揮・脚本・監督を務めたアンサリは、ゴールデン・グローブ賞の主演男優賞にノミネートされた。純粋で気のいいデフのポートレイトはチャラ男の一歩手前で軽妙洒脱、ときおり滋味さえにじみ出る味わい深さで、エピソードを重ねるたびに好感度が増す。また、ありふれた日常会話の中にシャープなユーモアと知的な言い回しをさりげなく散りばめる彼の脚本家としての才能には驚かされる。

 

レイチェル役のノエル・ウェルズもSNL(“Saturday Night Live”)のレギュラー兼ライターを務めたほど才能豊かなコメディアン(最近はコメディエンヌとは言わなくなったね)。“smart, cute, and funny”の三拍子が揃っていて、ロマコメのヒロインとしては理想的だ。
 

非イケメンカップルのアンサリとウェルズには強いケミストリーが働き、シーズン1は文句なしの面白さとなった。二人の絶妙な’ホドホドの幸福感’が同世代の共感を得たのだろう、”Rotten Tomatoes”でも最高評価を受けている。
 

本シリーズは “House of Cards”、“Orange is the New Black”同様にNetflixのオリジナル。現在シーズン1(全10エピソード)を配信中で、シーズン2は2017年に配信予定だ。
“Master of None”と第17回で紹介した“You’re the Worst”、ロマコメファンならこの2本は押さえておこう!

 

<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ①
Title: “Against All Odds”
Artist: Phil Collins
Movie: “Against All Odds” (1984)

邦題は曲のほうが「見つめて欲しい」、映画が「カリブの熱い夜」。レイチェル・ウォードの美しさにはため息が出た。

 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
◆バックナンバーはこちら
http://www.jvta.net/blog/5724/

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page