News
NEWS
明けの明星が輝く空にinCO

明けの明星が輝く空に 第76回 『ウルトラマンタロウ』もう一つの顔

明けの明星が輝く空に 第76回  『ウルトラマンタロウ』もう一つの顔
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

【最近の私】先日、『クレクレタコラ』のDVDボックスを、渋谷のBOOK-OFFで見つけた。値段は8万円台!いくらなんでもなあ…。
 

前回の記事、“『ウルトラマンタロウ』独自の世界”(https://www.jvta.net/co/akenomyojo75/)では、『ウルトラマンタロウ』のコミカルなエピソードをいくつか取り上げた。しかし、コミカル路線は『タロウ』の一つの側面に過ぎない。実は、それとは正反対の重いテーマを持ったエピソードも存在するのだ。
 

その一つが、第15話「青い狐火の少女」だ。これは、九尾の狐の伝説が残る里を舞台にした話で、カオルという親のいない少女を中心に物語が展開する。彼女は山で狐火に遭い、一緒にいた母親を目の前で亡くしていた。そのため村の男の子たちから「九尾の狐の娘」と呼ばれ、いじめを受けている。また村では、ときおり出現する狐火によって、車やボートの爆発事故が立て続けに起き、そのたびに山から下りてくる彼女の姿が目撃されていた。カオルは、思い出の中の母親に会うために山に行っていただけなのだが、自警団の大人たちは彼女が狐火の原因だと決めつけ、捕まえようとする。
 

このあらすじを読んで、僕は『ウルトラマン』の第30話「まぼろしの雪山」を思い出した。「まぼろしの雪山」でも、身寄りのない孤独な少女(ユキ)が男の子たちからいじめられ、村人たちからもいわれのない事件の責任を追及される。実のところ、彼らはユキを村から追い出そうというだけで、危害を加えるつもりはない。しかし、雪の中、猟銃や棒を持った大人たちが数人でユキを取り囲み、じりじりと迫る様は見ていて恐ろしい。カオルの場合も、大人たちは「泥を吐かせてやる」としか言っていないが、中には(脅しのためとはいえ)猟銃を持っている者もいた。
 

「青い狐火の少女」も「まぼろしの雪山」も、描かれているのは集団心理の恐ろしさだ。不安を抱えた集団が攻撃対象を見つけた時、一気に暴力性が噴出する。こういった心理の恐ろしさは、不安を解消する手段として暴力が選ばれることに加え、攻撃対象が自分たちより弱い存在である時に限られることだろう。カオルにもユキにも、自分を守ってくれる親がいない。まったく無防備な状態で、集団ヒステリーにかかった大人たちから見れば格好のターゲットとなってしまった。
 

ただユキには、心強い味方がいた。それはウーと呼ばれる、ユキの守護神のような行動をとる怪獣だ。しかし、運が悪いことに、ユキが村人たちから逃げている時、ウーはウルトラマンと交戦中だった。結局ユキは追っ手からは逃れたものの、雪原で力尽きて死んでしまう。そして時を同じくして、ウーもウルトラマンの眼前で姿が徐々に薄くなり、まるで幻だったかのように消えてしまったのである。
 

ウーは、ユキの母親の化身だったのだろうか。彼女の母親は、ユキがまだ赤ん坊のころ、寒さと飢えのため、亡くなっていた。ユキ自身、ウーという怪獣をどう見ていたか明らかにはされていないが、彼女は科学特捜隊(怪獣退治などを任務とする組織)の隊員に向かい、「ウーは怪獣じゃない」と叫ぶ。ちなみに、この時彼女の口から出たのが、あの名セリフ、「(科学特捜隊は)なんでもかんでも怪獣呼ばわりして殺してしまう恐ろしい人たちだわ」(当ブログの第41回「怪獣たちの目線に立てば」(http://jvtacademy.com/blog/co/star/2013/05/post-34.php参照)である。
 

それにしても「まぼろしの雪山」は、救いのない話だ。ユキは結局、誰からも暖かい手を差し伸べられることなく、天国に行ってしまった。上記の名セリフを書いたのは、脚本家の金城哲夫氏だが、彼はまたラストシーンで、「ユキは雪山の幻で、実際にはいなかったんじゃないか」という内容のセリフを用意し、科学特捜隊の一人に言わせている。実を言うと、僕はこのセリフが好きではない。なぜなら、幻だったとすれば、ユキの悲劇は実際にはなかったことになってしまうからだ。それではユキが浮かばれない気がする。
 

「青い狐火の少女」のカオルの場合、ユキとは違う結末が用意されていた。彼女は自警団から逃げている最中、怪獣出現によって絶体絶命の状況に陥るものの、ウルトラマンタロウに助けられる。そして一連の事件解決後、いじめていたことを謝ってきた男の子の顔を、無言でピシャリと叩く。そしてにっこりと笑いながら、「これでおあいこよ」と言って走り去る。見ていて素直に、「カオルちゃん、良かったね」と、ホッとできる一瞬だ。自警団の大人たちがカオルに対してどのように態度を改めたか描かれてはいないが、彼女にとってハッピーエンドだったと感じさせるに十分な結末だった。
 

僕が見たところ『ウルトラマンタロウ』には、「青い狐火の少女」の他にも、重いテーマを持ったエピソードが二つはある。そしてそれらは、やはり『ウルトラマン』とのリンクを感じさせるものとなっている。いつか機会があれば、そちらについてもご紹介しよう。
 

—————————————————————————————–
Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
—————————————————————————————–
 

明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page