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明けの明星が輝く空に 第86回: 特撮俳優列伝2 松方弘樹

明けの明星が輝く空に  第86回: 特撮俳優列伝2 松方弘樹
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【最近の私】JVTAのブログ『発見 キラリ!』vol.249を読んで、僕も記憶の片隅にある映画をネット検索してみた。判明した映画の題名は『妖婆 死棺の呪い』。飛ぶ棺が怖くて怖くて、夜は寝られなかったなあ。
 

今年の1月に亡くなった俳優、松方弘樹さんが特撮怪獣映画に出ていたことは、よほどの特撮好きでもない限り知らないだろう。それも無理からぬことで、松方さんが出演した東映映画『海竜大決戦』(1966年)という作品は、『ゴジラ』や『ガメラ』に比べれば無名に近いし、松方さんも当時24歳で、俳優としてまだまだこれからという時期だった。
 

松方さんが『海竜大決戦』で演じたのは、自雷也という忍者で、宿敵・大蛇丸との戦いが物語の軸となっている。この二人の名前を聞いて、漫画『NARUTO -ナルト-』に登場する同名の忍者を思い出された方も多いだろう。「じらいや」はもともと、「自来也」または「児雷也」との表記で、江戸時代後期の読み物に登場した、大ガマの妖術を使う忍者だ。一方、大蛇丸は竜の妖術を使う。この設定は、『海竜大決戦』も変わらない。
 

『海竜大決戦』での自雷也は、謀反によって殺された近江の国、尾形城・城主の息子という設定だ。そして、謀反を起こした家老の配下についていたのが、大蛇丸である。まだ子どもだった自雷也は城から逃げ落ち、飛騨山中で蝦蟇道人に育てられた。そこで忍術を身につけ、立派な若者に成長していく。松方さんの演じる自雷也は、実にさわやかな好青年だ。個人的に松方さんといえば、ヤクザ映画での強面の印象が強いが、本作ではとても優しい目をしていて、物腰も言葉遣いも柔らかい。
 

そんな柔和な空気をまとっていた自雷也のイメージが一変するのが、彼が父母の仇の前に姿を現した場面だ。けれんみたっぷりに名乗りを挙げ、ビシッと口上を決めてくれる。「待ってました!」という掛け声が似合いそうなこの場面、松方さんのセリフ回しはいかにも昭和の時代劇といった様式美の魅力にあふれ、いま聞くと逆に新鮮で心地よい。そして、この演技を更に引き立てているのが、キリリとした眉だ。それは内に秘めた意志の強さを感じさせ、顔全体の印象を引き締めている。もちろん昭和の時代劇ということもあり、かなりメイクで強調しているだろう。ただ、晩年の松方さんの私服での写真を見ても、筆をまっすぐに走らせて書いたような眉は変わらない。メイクしてカッコよくなるのも、元がいいからなのだ。
 

松方さんはヤクザ映画のほか、時代劇にも数多く出演していたため、殺陣の腕前も確かだ。晩年の作品になるが、2010年の映画『十三人の刺客』では、見事な立ち回りを披露し、さすがというところを見せてくれた。他の出演者と比べると、松方さんの殺陣は体軸がぶれない。だから刀の動きが映えるし、立ち回りに余裕も出て、強さや凄みが感じられる。ただ残念なことに、『海竜大決戦』では、そこまでの刀さばきは見られなかった。当時20代中ごろだったので、まだ殺陣の技術に熟達していなかったためであろうか。また、老練な大蛇丸との対比で、若い自雷也の方が達人に見えてはマズイということもあったかもしれない。
 

映画のクライマックスシーン、大蝦蟇と竜の戦いで決着がつかなかった二人は、琵琶湖の波打ち際で斬り合う。そして自雷也の捨て身の一撃を受けた大蛇丸は、湖底に沈んでいき、物語は終結した。実は、この大蛇丸を演じたのは時代劇の大スター、大友柳太朗だ。面白いのは、松方さんの父親で時代劇のスターだった近衛十四郎も、『海竜大決戦』の2年前、映画『十兵衛暗殺剣』で大友柳太朗と宿敵同士を演じていたことだ。しかも、決戦の舞台となったのが、『海竜大決戦』と同じ琵琶湖である。浅瀬での勝負を制したのは、近衛十四郎演じる柳生十兵衛で、大友柳太朗が演じた幕屋大休はその場に崩れ落ち絶命する。
 

大蛇丸を倒した自雷也は、飛騨山中に戻る決意をする。その際、連れ立っていくことにした女性、綱手に向けた松方さんの表情と、少しばかりカッコつけ過ぎとも言えるセリフ回しが、なんとも印象的だ。それについて語る前に、まず綱手について説明しておこう。綱手は、上に挙げた江戸時代の読み物に児雷也の妻として登場するが、『海竜大決戦』では大蛇丸の娘でありながら、結果的に自雷也を助ける役回りとなっている。その綱手が最後に、自雷也にたずねる。近江の国に残ってお家再興を選択しないのは、自分のことを慮ってのことか、と。すると自雷也は少し笑みを浮かべ、「あなたと、そして私のためかな」とキザに答える。綱手と静かに二人で暮らしていきたい、ということなのだろうか。解釈はともかく、このセリフを言った時の、自信に満ちあふれた自雷也の態度はどうだろう。最初に綱手と出会ったころは、まだ純朴な青年だった。きっと仇敵との戦いが、彼を成長させたのだ。自雷也の成長は、まるで俳優・松方弘樹の、その後の成長を暗示しているかのようでもあった。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 

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