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明けの明星が輝く空に 第87回:ウルトラファンの“二・二六”

明けの明星が輝く空に 第87回:ウルトラファンの“二・二六”
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【最近の私】テレビを見ていたら、ある写真家が桜の花(一輪)のことを「この子」と表現していた。自分の愛犬などに「子」を使うのはまだ理解できるが、さすがにこれは奇妙な気がした。
 

なにやら物騒なタイトルのように見えるが、僕が言いたいのは、2月26日がウルトラファンにとって特別な意味合いを持つ、ということだ。あの歴史上の事件とは、全く関係ないことを始めにお断りしておく。
 

2017年2月26日、「ウルトラを超えろ」と銘打った脚本賞の授賞式が行われた。これは、新たな才能の発掘を目的に新設された賞で、正式名称は「円谷プロダクション クリエイティブアワード 金城哲夫賞」という。賞の名前になった金城哲夫氏(1938年~1976年)は、ウルトラシリーズ草創期を支えた脚本家で、2月26日は彼の命日なのだ。
 

金城氏はウルトラシリーズの第1弾『ウルトラQ』(1966年)に数多くの脚本を書き、続く『ウルトラマン』(1966年)では脚本のほか、構成なども担当。ウルトラマンの基本設定を考えたり、科学特捜隊という特殊部隊を登場させるアイデアなどを出すなど、いわばウルトラシリーズ最大の功労者の一人だ。生まれは1938年なので、両番組制作当時は若干27、28歳。その若さで、50年にもわたって愛されるシリーズの礎を築いたということに、ただただ驚かされる。
 

金城氏の作風は、「王道のエンターテインメント」と評される。確かに「怪獣無法地帯」(『ウルトラマン』8話)はレッドキングやチャンドラーなど数体の怪獣が登場して暴れるという、子どもたちにとっては盆と正月がいっぺんに来たようなエピソードだったし、「ウルトラ警備隊西へ」(『ウルトラセブン』14・15話)は、神戸港を舞台に巨大ロボットとの戦いを、前後編に渡って描いた力作だった。
 

ただ「ウルトラ警備隊西へ」の場合、大人になった今では、単純に楽しいだけの話には見えない。そこに描かれていたのは、思い違いが生む戦争の恐怖だ。宇宙人が地球を攻撃しにやって来た理由は、自分たちの星に向かって地球から観測ロケットが打ち上げられたのを、地球に攻撃の意思ありと勘違いしたことだった。また、宇宙人から主人公のダンに投げかけられた言葉にも、ハッとさせられるものがある。地球さえ平和なら他の星はどうなってもいいのか、と問いただす彼らは、人間はずるくて欲張りだと断じた。金城氏がこれらのセリフに込めた思いは、推して知るべしだろう。
 

2月26日が命日のウルトラシリーズ功労者は、金城氏だけではない。彫刻家の成田亨氏(1929年~2002年)もまた同じ命日で、彼がデザインした怪獣たちはどれも独創性に溢れ、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の人気を支えた。代表格は、ウルトラファン以外にも知名度の高いバルタン星人だろう。原型は『ウルトラQ』に登場したセミ人間だというのが通説だが、セミらしさが残るのはわずかに目と口吻ぐらい。デザイン上の最大の特徴は、中が空洞になったハサミ状の両手だ。普通ならカニの爪、あるいは少しひねってクワガタの顎あたりをモチーフにしそうなところだが、それらとは全く異なっている。強いていえば、鳥の嘴か。チューリップの芽やつぼみに似ていないこともない。また、V字に割れた頭部のユニークさはどうであろう。前面がスパッと切り落とされたように平らで、水平のラインが何本も入っている。この意匠は、いったい何をヒントに生み出されたものであろうか。いずれにせよ、凡人にはまったく思いつかないアイデアであることは、確かだ。
 

しかし、成田氏最大の功績は、やはりウルトラマンだろう。僕らはあまりにも見慣れているため、普段は何も意識せずに見ているが、成田氏がどうやってあの顔にたどり着いたのかと考えるとき、僕はまるで星空を眺めながら宇宙の成り立ちを想像しているような気分になる。今風に言えば、「意味わかんねー」といったところだろうか。要するに、何をモチーフにしたものなのか、僕には全く想像がつかないのだ。成田氏による初期のデザイン画を見ると、サングラスをかけヘルメットをかぶった、いかにも昭和の映像作品に出てきそうな宇宙人のイメージだったことが分かる。それでも、このサングラスとヘルメット姿から、ウルトラマンに至るまでには、デザイン上相当な飛躍があるように思える。デフォルメにデフォルメを重ねるにしても、それをバランスよくまとめるのも至難の業に違いない。成田氏の芸術家としての才能や力量があればこそ、生み出されたデザインだろう。
 

冒頭で紹介した円谷プロの脚本賞授賞式では、新たに「円谷プロダクション クリエイティブアワード 成田亨賞」の新設も発表された。今後は「金城哲夫賞」と隔年で発表されるそうだ。金城氏や成田氏によって世界観がふくらみ、その後半世紀に渡って愛され続ける『ウルトラマン』のような作品が、いつか出てくることを期待したい。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

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