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明けの明星が輝く空に 第91回 特撮俳優列伝5 天本英世

明けの明星が輝く空に 第91回 特撮俳優列伝5 天本英世
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【最近の私】6月某日、低酸素トレーニング開始から8週間、その成果を試す時が来た。自転車の坂バカが集う「Mt.富士ヒルクライム」だ。しかし!自己ベストに1分及ばず!!でも、呼吸は少し楽だった気がする。原因はきっと他にあるに違いない(歳か!?)

 
天本英世(あまもとひでよ)ほど、「怪優」という呼び名が似合う人が他にいるだろうか。どこか骸骨を思わせる風貌、湿り気があって粘っこいセリフ回し、目の奥底に宿る邪悪な光。彼の演技に派手さはないが、ジワジワとくる不気味さがあった。

 
「怪優」というイメージを決定的にしたのは、なんといっても『仮面ライダー』で演じた死神博士だろう。彼は悪の組織・ショッカーの大幹部で、どんな怪人もその言葉には絶対服従だ。上下白のスーツに、外側が黒で内側が赤いマントをまとい、狂気を感じさせる表情で命令を与え続けた死神博士。怪奇な雰囲気を売りにしていた番組の中でも、その気味の悪さは数多の怪人たちを超えており、登場当初は演技が怖すぎるとの指摘を受けたというほどだ。派手なメイクなしにもかかわらずそう言わせるのだから、いかに天本氏の演技力が際立っていたかが分かる。

 
また死神博士は、博士というだけあって暴力的なキャラクターではなかったし、「ヒヒヒ」などと下卑た笑い声をあげることもなかった。天本氏は気味の悪い役作りの中にも、知性と品の良さを失わなかったのだ。本来、なんの関連もない「死神」と「博士」という言葉の組み合わせに、ネーミングの妙を感じさせるキャラクターだったが、天本氏はそのどちらのイメージも具現化して見せることに成功していた。

 
僕は今回、この記事を書くにあたり、天本氏について調べていて驚いたことがある。それは彼が1926年生※まれで、『仮面ライダー』の放映時(死神博士登場は1972年)はまだ46歳だったことだ。死神博士は老人のイメージが強く、いま見ても40代には見えない。さらに驚くべきは、『仮面ライダー』をさかのぼること8年、1963年公開の映画『海底軍艦』では、37歳で古代帝国の長老を演じきっていたことだ。このときはさすがに、白髪のかつらと付け髭で“らしく”見せていたが、死神博士は老人風のメイクをしているわけでない。両者に共通しているのは、セリフ回しによって老齢が表現されていることだ。特に『三大怪獣 地球最大の決戦』で演じた長老は、語り口に老人特有の弱々しさがあり、見事というほかない。
※「1925年12月生まれで、出生届けが1926年1月」との説もある。

 
ただ、天本氏が演じる死神博士は、滑舌が悪い。これが老人っぽい舌足らずな印象を与えているのだが、実は1967年の映画『キングコングの逆襲』で演じたドクター・フーも、滑舌の悪さが否めなかった。ドクター・フーは老人でないし、死神博士のように怪奇ムードをまとう必要もない役なので、天本氏が意図的に発音を不明瞭にしていたとは思われない。そうなると滑舌の悪さは演技ではなく、天本氏自身の問題となるが、果たしてどうだろうか。1966年に放送が始まった特撮テレビ番組『ウルトラQ』に、SF作家役でゲスト出演したとき(28話「あけてくれ!」)は、特に発音に問題は見られなかったので、そうとは言い切れない。

 
死神博士以外に天本氏が演じた役の中で、印象的なのは、上で取り上げたドクター・フーだ。彼はいわば悪に魂を売った科学者で、キングコングを催眠術で操り、兵器製造に必要な鉱物を掘り出させようと画策する。この作品では、天本氏が見せる、いかにも何か企んでいそうな表情が秀逸だ。ドクター・フーはマンガ的なメイクで眉毛を釣り上げ、悪人らしさを強調しているが、これにしてもきちんとした演技が伴っていなければ、きっとお笑い芸人のコントのようになってしまっただろう。

 
一方、『ウルトラQ』で演じたSF作家は、天本氏の役としては“常人”の部類に属していた。それでも、厭世的な気分から妄想に取りつかれ、そのまま異次元空間に行ってしまうなど、やはり天本氏が特撮で演じる役は“ただの人”では済まないようだ。作り手側から見て、それが彼の魅力を最大に生かす方法だったのだろう。逆に言えば、それこそが「怪優」であることの証明ではないだろうか。

 
天本氏は、2003年に77歳で亡くなった。遺灰は遺言通り、氏がこよなく愛したスペインの、ある川に散骨されたそうだ。また、伝えられるところによると、生涯独身だったのは、ある人を想い続けていたためという。死神博士からは想像もつかない、ロマンチックな一面が、天本氏にはあったようだ。そんなことに思いを馳せながら、死神博士の映像を見て、その狂気に戦慄するのも、また楽しいことである。

 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

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