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明けの明星が輝く空に 第99回 特撮俳優列伝10 千葉治郎 

明けの明星が輝く空に 第99回 特撮俳優列伝10 千葉治郎 
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【最近の私】JVTAのブログ『今週の1本』を読み、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でホルド中将がレイアとの別れ間際に言った、”May the force be with you,always.”というセリフを思い出した。あの万感の思いが込められた”always”には、泣きそうになった。

 
僕はどういうわけか、ナンバー2や補佐役的なポジションの人物に惹かれることが多い。だから『ルパン三世』ならルパンより次元大介、『秘密戦隊ゴレンジャー』ならアカレンジャーよりアオレンジャーが好きだ。『仮面ライダー』でいえば、ライダー1号・2号の頼もしき相棒、滝和也。その滝を演じた俳優が、千葉治郎さんだった。

 
千葉さんには、やはり俳優のお兄さんがいて、名前を真一という。そう、昭和のアクションスター、千葉真一である。ドラマ『キイハンター』などに出演し、体を張ったアクションで視聴者を魅了した兄のように、千葉さんも『仮面ライダー』で毎回のように、主人公にも負けない見事な立ち回りを見せてくれた。

 
千葉さんが演じた滝和也はFBI捜査官で、生身の人間だけれどショッカーの怪人にも敢然と立ち向かっていく。“雑魚キャラ”の戦闘員程度なら、2~3人を相手にしても負けることはないという強者だ。だからライダーは、滝に戦闘員を任せ、自分は怪人との戦いに集中できた。そう考えると、物語の中で滝が果たした役割は大きい。

 
そして千葉さん自身も、俳優として番組に大きく貢献した。最大の功績は、撮影初期に訪れた番組存亡の危機を救ったことだろう。実は主人公である本郷猛を演じた藤岡弘(現藤岡弘、)氏が、9・10話の撮影中にオートバイで事故を起こして足を骨折。撮影を続行できなくなってしまったのだ。このアクシデントがきっかけで、ライダー2号が誕生するのだが、それは14話まで待たなければならない。おそらく、2号(一文字隼人)役の俳優(佐々木剛)が、すぐには決まらなかったためだろう。とにかく、番組はそれまで“つなぎ”が必要だった。そして登場したのが、千葉さん演じる滝和也だったのだ。

 
『仮面ライダー』における千葉さんの最大の見せ場は、敵との格闘シーンと言っていいだろう。ただし僕が注目するのは、滝の個性的なキャラクターを、明快な形で示した千葉さんの演技だ。熱血スポ根アニメの主人公のような本郷猛とは対照的に、滝はさわやかさがトレードマークといっていい。そしてどこか飄々としていて、たとえ難しい状況に置かれても、深刻になり過ぎることがない。重い芝居とは対極の、軽妙洒脱とも言える千葉さんの演技は、見ていて気持ち良かった。

 
例えば、敵のアジトに乗り込むという緊迫したシーン、ヒロインに向かって「動かないで待っててね」と、まるでデート中にトイレにでも行くかのような口ぶりだ。そして「よっ!」とフェンスを飛び越えると、振り返って「じゃあね」、である。こういった演技は度が過ぎると、物語の緊張感を台無しにしてしまうが、千葉さんのサジ加減が絶妙で、全くそんなことはない。また、別のエピソードで、滝は戦闘員になりすましてアジトに潜入した際、他の戦闘員に道を尋ね、「ありがとよ」などと、場にそぐわない軽い口調で礼を言ったりもした。

 
それに加えて、滝の口調はなぜか江戸っ子のようになることも多かった。怪人に「抹殺してやる」と言われたとき、「てやんでぃ。抹殺されるのはそっちの方だ!」と言って反撃したシーンがある。この「てやんでぃ」という一言が脚本にあったのか、千葉さんのアドリブだったのか、残念ながら分からない。また、滝はしばしば、江戸っ子っぽい巻き舌気味の発音をすることもあったが、これも監督の演出だったのか、千葉さんの演技だったのかは不明だ。

 
これは僕の推測だが、演出サイドとしては、「FBI捜査官に江戸っ子のしゃべり方をさせよう」、という発想にはならないのではないだろうか。ただ、本郷猛との差別化として、さらには、子供番組としては怪奇色が強すぎるきらいがあった『仮面ライダー』に、明るい雰囲気を加えるため、滝を軽妙洒脱なキャラクターに設定した、ということは考えられる。そして、その設定に合わせて演じた千葉さんの口調が、自然と江戸っ子っぽくなったということかもしれない。千葉さんは千葉県君津市出身だが、13歳の時に東京に出てきている。江戸弁が染みついていたとしても、おかしくはないだろう。

 
いずれにせよ、千葉さんの演技あっての滝和也だったし、そのおかげで滝が名キャラクターになったのは間違いない。残念ながら、いまは演技の世界から身を引いてしまわれたが、千葉さんもまた、昭和特撮に大きな足跡を残した俳優だったと言えるだろう。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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