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花と果実のある暮らし  Vol.30 村の娯楽、ムエタイ

花と果実のある暮らし  Vol.30  村の娯楽、ムエタイ
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【最近の私】ようやく我が家一帯にも、正式に電気が引かれました。近所のタイ人は、これで冷房が入れられると大喜び。一方近所の欧米人の家にはソーラーパネルや耐震機能などが取り付けられていて、常に村の先端を行く感じです。緑の中に建てられた高い電柱を見ると、どんどん都会化されていく村の変化にちょっと寂しさも…。
 
 

ある日曜日の夜、共に暮らすパートナー、そして彼の子どもたちと一緒にタイ式焼肉(ムーガタ)を食べた帰り道。暗闇の中にぽつんと明かりが灯る場所で、人々が真剣にテレビを観ています。まるで力道山の試合を見届けようと、日本中がテレビに釘付けになっていた時代のよう。何をしているの?と聞くと「ムエタイの試合がテレビでやってるんだよ」とのこと。この風景を見ていると、ムエタイはタイの国技だなぁと実感します。
 
 

テレビのまわりに集まる人々

テレビのまわりに集まる人々


 

■アメリカで初めて見たムエタイの選手

初めて私がムエタイと出会ったのは、もう20年以上前、意外なことにアメリカのユタ州でした。友人の空手の試合がソルトレイクシティで行われるため、応援に行ったのです。その友人の対戦相手がタイ人ムエタイ選手でした。
 
 

初めて聞いた”ムエタイ”という言葉。それは、目の前にいる選手そのもののイメージとして私の頭にインプットされました。無駄な贅肉がなく、凝縮された筋肉だけが残ったような身体。でも、アメリカや他国の選手と比べると、全く強そうには見えない小柄な選手です。試合直前にリング上で“ワイクルー”といわれる神聖な舞いを披露する彼の姿は、とても魅力的でした。“ワイクルー”が神、そして師や両親に捧げる行為だとは後で知りました。
 
 

そして、いよいよ試合開始。彼の動きはとても素早く、無駄のない動きにはパワーがみなぎっていたのです。そして結果はムエタイ選手の勝利。敗れた友人は「ムエタイすごい!」と対戦相手を賞賛しました。
このシーンが今の人生に重なっていくことなんて当時の私は思いもしませんでしたが…。
 
 

■老若男女が大興奮!!

日本ではまだ格闘技観戦といえば男性の趣味という印象が強いようですが、私の周りのタイ人女性は意外にムエタイ好き?!少し前にご近所ママのお誘いで、初めてローカルな野外試合を観に行きました。屋外に設置されたリングと観客席。観衆は間近な位置で好きな選手を応援することができます。日本なら相撲の桟敷席や小さなプロレス団体の試合会場と同じ感覚かもしれません。ご近所ママも「ムエタイは観ていて気持ちいいのよ!」と興奮気味です。
 

タイ人にとってのムエタイは老若男女の娯楽として成り立っており、皆、それぞれ応援している選手にパワーを送って一生懸命応援しています。ただし、多くのおじさんたちが選手を見つめる目は真剣です。ムエタイは、賭け事の対象となっているからです。
 

ムエタイの選手には、貧しい家庭の子がなることが多いそうです。彼らは相手に一針縫う傷を負わせたら500バーツ(約1,500円)の報酬がもらえるそう。つまり10針の傷を負わせると5,000バーツ(約15,000円)になるのです。タイの1日の最低賃金が約300バーツですから、それは必死になるのも当然。相手の血が収入となり、それを観て観衆が興奮するというのは、私にはちょっと受け入れ難いところもありますが・・・
 

近所で行われた野外試合

近所で行われた野外試合


 

■地元のムエタイ・ジムと外国人

村ではムエタイのリングやサンドバッグを置いている一般家庭をよく見かけます。軒先でトレーニングをしたり、師匠と思しき人から青年が指南を受けている様子を見ると、(ムエタイはほんとうにタイの人々の生活に根付いているんだなぁ)と感じます。
 

しかし最近は、街中や近所の市場の中にいわゆるスポーツジムのような「ムエタイ・ジム」ができ始めています。もともとは貧しい人たちが生活をかけて行うスポーツだったムエタイも、外国人が興味を持ち始めたり、健康ブームが浸透したりすることで、少しずつ変化しているようです。通りかかったジムには欧米人女性がトレーニングしている姿が。女性がエクササイズ感覚でムエタイを楽しむ時代になったんだなぁ・・・。日曜の夜にお酒を片手に賭け事の対象として試合に夢中になるおじさんたちの姿も減っていくのかもしれません。
 

ムエタイの人気上昇とそれに合わせた変化は嬉しい一方で、ソルトレイクシティで観たあの神聖なワイクルーの舞いや、近所の人たちの応援とリングの上の戦いが一体化する小さな村での試合はなかなか味があるものだったなぁと思い返しています。
私の中にあるそんなムエタイが、商業化の波に飲み込まれないことを願うのでした。
 

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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
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花と果実のある暮らし in Chiang Mai
チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美

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