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やさしいHawai’I 第58回 『Ua mau ke ea o ka aina I ka pono』

やさしいHawai’I  第58回 『Ua mau ke ea o ka aina I ka pono』
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【最近の私】「また花粉症の時期が来た。大半の花粉症の方はそろそろ終わりを迎える頃だと思うが、私の敵はヒノキ。ゴールデンウィークを迎える1年で一番気持ちのいい季節に、マスクをしかゆい目をこすれないこのもどかしさ。ああ、早く夏よ来い!!」
 
 

まず、この曲をきいていただきたい。
https://youtu.be/5ZOAiSP1MGs
 

ハワイ第58回1

歌っているのはハワイを代表する歌手の一人で、今は亡きIsrael Kamakawiwo’ole。
彼は通称イズ(IZ)として多くの人々から愛された伝説的な歌手だ。1976年、5人でマカハ・サンズ・オブ・ニイハウというグループを結成したが、1990年からはソロとして活動を開始。そして1997年ハワイのレコード大賞ともいえるナ・ホク・ハノハノ・アワードを受賞したそのわずか1カ月後、心臓疾患で亡くなった。ハワイへの強い思い、そしてハワイがどうあるべきかを、彼は歌を通して訴え続けた。最後のライブで鼻から酸素を吸入しながら歌うというすさまじい姿は、今も多くの人の心に残っている。
 


 

冒頭に記した曲のタイトルは『Hawaii’78』。彼は曲の中でこんなことを歌っている。
「ハワイは変わった。聖なる地にはいまや高速道路が走り、信号がまたたく。かつて戦場だった場所にはコンドミニアムがそびえる。そんな都会へと変貌したハワイを、かつての王や女王が見たら、どんなに嘆き悲しむことか。ハワイは危機に直面している・・・」
そして、その最初と最後に繰り返し歌われているのは、ハワイでは良く知られた言葉。
“Ua mau ke ea o ka aina I ka pono”
この言葉は、1843年カメハメハ3世によるスピーチの中で正式に述べられ、それ以降ハワイのモットーとされている。
英語にすると「The life of the land is perpetuated in righteousness」
「土地の命は正義とともに永遠に生き続ける」(訳は中嶋弓子『ハワイ・さまよえる楽園』から)
 

この言葉をどう解釈するのか? 
これまでハワイはさまざまな歴史的難題に直面してきた。世界がこれだけ大きく変貌を遂げてきた以上、ハワイの先住民の生活も影響を受けないはずがない。カメハメハ王朝以降、西欧諸国との往来が突然始まり、白人がハワイをビジネスの対象とみなした時、ハワイ先住民の文化が大きく変わった。その根本にあったのが“土地”だった。
 

「第56回 私の心の歌 Kanaka Waiwai」(https://www.jvta.net/?p=9664)の時に記したように、それまでハワイの先住民たちはハワイの土地を、誰もが共有する空気や水と同じようにみなし、土地に対する所有観念は薄かった。しかし、西欧諸国は、太平洋の真ん中という地理的な利便性(捕鯨漁船や貿易船にとって、絶好の食糧その他の補給基地として)、そして豊かな自然と理想的な気候に目を付け、こぞってハワイを自分の国のものにとしようと争った。そのためにはキリスト教も道具として使われた。
 

誰のものでもなかった土地が、あっという間に次々と白人の手中になる。それは、土地を生きる糧としていた先住民が、生活の基盤をなくすことだ。そしてその動きは観光産業などに形を変えながら、ハワイの中で依然として進んでいる。
 

そんな動きに対して、はっきりと反対を唱えている一人に、ハワイ大学で教授を務めるハウナニ=ケイ・トラスクというハワイ先住民の女性がいる。彼女は、ハワイでの国家内国家をめざし先住民の主権回復運動を進めている。著書『大地にしがみつけ』(松原好次訳)には、彼女の強い言葉があふれている。
 

「現在、私たちハワイの先住民族は、巨大な観光産業をコントロールする力を持っていない。・・・多国籍企業がハワイの美しさを売り込み、世界の金持ち連中が2~4週間のパッケージ・ツアーで押しかけ、その美しさを買い上げてしまう。こうした外国人はハオレ(白人)と日本人が大部分であるが、彼らは私たちのふるさとで我が物顔にふるまっている。要するに、自分のお金で来たのだから、ハワイは汚しても壊しても構わないところだと思い込んでいる」。
 

トラスク女史は、ハワイの主権回復運動を進める人々の中でも急進派に属する。文中で彼女は『文化的売春』『先住民文化の身売り』という強烈な言葉を使い、観光客はもうハワイへは来るなと叫んでいる。それは私にとって大変衝撃的な言葉だった。
 

2ハワイ第58回
 

私は彼女の言葉にすべて賛同するわけではない。だが、観光客としてハワイを訪れる時、私たちはハワイに“楽園”というイメージしか持たず、その背景にある先住民たちの哀しい歴史に思いをはせることはほとんどない。だからこそ、最近テレビなどでよく目にする、お金にものをいわせ、我が物顔でホノルルの街をかっ歩する日本の芸能人のハワイレポートなどに接すると、私は嫌悪を感じる。
 

ハワイはいつもやさしく私たちを迎えてくれる場所だ。その恩恵を受けたいならば、私たちはハワイの歴史を少しでも理解し、そこに元々住んでいる人々や彼らの文化を尊重しなくてはならない。それができないのなら、トラスク女史が主張するように、私たちにはハワイを訪れる資格はないのではないだろうか。
 

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Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
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やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。

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