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【修了生の佐藤慶子さん】学生時代から通っていたレインボー・リール東京の上映作品で英語字幕を担当

【修了生の佐藤慶子さん】学生時代から通っていたレインボー・リール東京の上映作品で英語字幕を担当
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学生時代から、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(現レインボー・リール東京)に出かけ、「LGBT+」をテーマにした作品に強い関心を持っていたという、日英映像翻訳科の修了生、佐藤慶子さん。そんな佐藤さんが今年、翻訳者として、同映画祭の上映作品『イッショウガイ』の英語字幕を担当しました。「私の人生に残る本当にうれしい体験」と話す佐藤さんに、「LGBT+」作品に興味を持ったきっかけや、翻訳する上で心がけたことになどについて聞きました。

 
JVTA 佐藤さんが、「LGBT+」作品に興味を持ったきっかけを教えてください。
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佐藤慶子さん きっかけは大学でジェンダー論の講義を受けたことです。また、その頃に、アメリカ人が外国人の視点で、日本の歴史ある舞台、宝塚におけるジェンダー論について書いた本を読み、影響を受けました。これを機に私も新たな視点で宝塚を追究してみたいと思い、大学院で宝塚についてジェンダーとセクシュアリティという観点から研究していました。

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Robertson, Jennifer E. Takarazuka: Sexual Politics & Popular Culture in Modern Japan. Berkeley: University of California Press, 1998.

ジェニファー・ロバートソン『踊る帝国主義―宝塚をめぐるセクシュアルポリティクスと大衆文化』 堀千恵子訳、現代書館、2000年。

 
JVTA 佐藤さんはもともと宝塚がお好きだったのですか?
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佐藤さん はい、子どものころから宝塚や歌舞伎などに興味がありました。でも、8歳の時にウィーンに移住し、その後は大学に入るまで海外で暮らしていたので、実際に宝塚の舞台を観たのは、大学生になってからです。ただ、海外でも日本の作品を見られるチャンネルがあり、画面を通じて宝塚を見ていました。実は海外にもファンはいて、日本語のDVDなどを取り寄せて見ているようです。宝塚の公演に英語字幕が付いているものはほぼないと思うのですが、公演やDVDにも英語字幕をつけたら、外国人にもっとファンが増えるかもしれません。

 
JVTA その頃から、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にも自ら足を運んでいたんですね。
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佐藤さん 個人的にもまず、ジェンダーに関するさまざまな作品を知りたいと思い、学生時代から何度も通いました。女性同士の恋愛を描いたイギリスの作品“”I Can’t Think Straight” (『ストレートじゃいられない』)や、硬派なドキュメンタリーなど、この映画祭でさまざまな映画を観ることができました。思えばこの映画祭で日本の作品に英語字幕がついた作品を見たことが、英語字幕との出合いでもありました。こういう仕事もあるんだなと、漠然と憧れていましたね。

 
JVTA 今回は、佐藤さんが自ら、この映画祭の上映作品『イッショウガイ』の英語字幕を担当。長年の想いが叶ったんですね!
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※会場ではレインボーカラーのグッズが人気!

 
佐藤さん はい。翻訳者としてさまざまな作品に取り組んできましたが、この作品には特に思い入れがあります。自分もファンで何度も足を運んでいた映画祭に翻訳担当者として参加できるなんて、私の人生に残る本当にうれしい体験となりました。

 
JVTA 『イッショウガイ』は、100分以上の長編作品。舞台作品を映像に収めた映画で、舞台上で2つの物語が同時進行していく独特な展開でもあります。作業をしていく中で大変だった点はありますか?
イッショウガイ
『イッショウガイ』

 
佐藤さん まずお芝居なのでセリフが多いことですね。はじめは台本がなくて聞き取りで苦労し、途中からは台本を頂きました。脚本を書いた若林佑麻さんはトランスジェンダーFTM(Female To Male。自分の性を女性から男性へ移行したい人、または移行した人)でご自身の体験がこの物語にも盛り込まれているそうです。FTMの人の恋愛観や脳の病気で倒れた母親の介護など重いテーマということもあり、言葉の使い方には一つひとつ、とても気を配りました。私自身も感情が溢れて泣きながら翻訳をしていましたね。

 
セリフはとてもリアルで、“生もの感”を保ち続けることを意識しました。現在と過去が舞台上で行き来する内容でもあり、はじめはちょっと分かりにくいところもあります。最後の方で謎だったポイントが一気につながってくる瞬間があるのですが、そこを英語でもきちんと同じタイミングで伝わるように考えました。

 
JVTA ジェンダーに関するセリフの訳にはどんな風に取り組んだのでしょうか?
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佐藤さん 第一に考えたのは、セクシュアル・マイノリティの当事者が不快にならない表現だということ。例えば、「性同一性障害で・・・元女性です!」というセリフがあります。これを言葉通り、日本で一般的に使われている言葉を使って訳すと下記のようになりますが、それでは作品の本質が伝わらないと感じました。

 
I have GID (Gender Identity Disorder), and I used to be a woman.

 
主人公は心が「男」で「女性」だという感覚がない、しかし、社会的には「女」として認知される存在として生きていたのです。そのニュアンスをきちんと伝えたいと考えました。

 

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『イッショウガイ』より

 
そこで、「性同一性障害」をあえて“trans man”と英訳しました。日本ではFTMなどの身体と心の性別が一致しない人は一般的に「性同一性障害」として知られていますが、そもそも日本ではまだまだ医学的病名が呼称になっているという問題があります。WHOは今年6月に「性同一性障害」を「精神疾患」から外し、「性保健健康関連の病態」という分類にわけたことにより、厚生労働省は「性別不合」との仮訳を提示するなど、現在世界的にもその表現に対する意識が高まっています。当事者が愛する人の前で“disorder”(障害)という言葉を使うだろうか。それよりは、「僕はトランス(ジェンダー)の男だ」と言ったほうが自認として自然なのではないか? と考えました。そこで私は下記のように英訳しました。

 
I’m actually a trans man,
and I used to live as a woman!


 
JVTA 確かに英文から受ける印象が全く違いますね。こういうワードチョイスは、どんなリサーチからたどり着いたのでしょうか?

 
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『イッショウガイ』より

 
佐藤さん YouTubeなどで実際にトランスジェンダーの人が話している映像を見たり、ネット上の掲示板を読んだりして、当事者がどんな言葉を使っているのかを調べました。その中でtrans manという言葉を見つけたのです。こうしたデリケートな作品は、一般的に何と言われているかだけで判断すべきではありません。当事者がどういう気持ちで話しているセリフなのか、どう言われたら傷ついたり不快に思ったりするのかを、まず調べたうえで言葉を選ぶことが大切だと思います。今回の翻訳を通して、今まで研究してきた中では知らなかったことを沢山学びました。やればやるほど、もっと知らなければいけないことがあると分かりました。

 
JVTA 他にも意識したポイントがあれば教えてください。

 
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※2017年のレインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~の会場の様子

 
佐藤さん 「障害/障害者」をhandicap/handicapped (person)ではなく、disability/disabled (person)と訳しました。Handicap/handicapped (person)は差別的な表現にも受け取れるため、「障害」がテーマとはいえ、やや強すぎる表現だと判断しました。

 
また、この作品には「愛する人」というセリフが多いのですが、性別が特定されていない表現が多いと思います。ですから、英語でもあまりgender-specificな表現にならないよう、”my beloved”や”someone I love”などと普遍性がある表現にしました。なるべく、さまざまなジェンダーやセクシュアリティのバックグラウンドをもつ観客の人にも共感してもらえるよう、心がけました。

 
JVTA ちなみに作中では関西弁もセリフも多いですが、何か工夫しましたか?

 
佐藤さん 女子高生たちの会話など、関西弁が使われる場面の英訳では特にダイアレクト(なまり、方言)は使いませんでしたが、なるべくテンポがよい字幕になるよう気を付けました。他にも、喧嘩の場面や、FTMの男同士がふざけあう場面は英語もちょっとスラングを使ってみました。また、舞台なので観客が笑っているシーンは英語でも笑えないといけないと思い、笑える表現になるよう工夫をしました。男同士の会話ではguys!と呼びかけるなど、自分への、または他者へ対する呼称や、キャラクターのトーンによって表現される男らしさや女らしさは他の作品以上に意識したと思います。

 
JVTA 佐藤さんはすでに上映会のチケットを入手しているそうですね。この映画祭は、笑ったり、手をたたいたり、泣いたりしている人が多く、温かい雰囲気で毎回とても感動します。そんな会場で観客の皆さんと観るのは、翻訳者冥利につきますね。

 
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※2017年のレインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~のイベントの様子

 
佐藤さん はい。今からとてもドキドキしています。舞台を映しているのでその生き生きした感じが英語でも伝われば嬉しいです。ヘビーなテーマですが、友情、家族愛、恋愛など随所に愛が感じられる作品です。ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。

 
JVTA 英語字幕は今後、海外で上映される可能性をつくる大切なツール。今後もぜひライフワークとして、この映画祭のサポートを続けてくださいね。ありがとうございました。

 
佐藤さんが英語字幕を担当した『イッショウガイ』の詳細はこちら
http://rainbowreeltokyo.com/2018/program/lifetime

 
※【続報】映画祭会場で佐藤さんが『イッショウガイ』関係者の方と感動の対面!
詳細はこちら

 
B_パンフの表紙 - コピー
第27回レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜
2018/7/7(土)ー2018/7/8(日) @東京ウィメンズプラザ ホール
2018/7/13(金)ー2018/7/16(月・祝) @スパイラルホール(スパイラル 3F)

 
公式サイト
http://rainbowreeltokyo.com/2018/

 
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