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視覚障害者を招いた検討会でガイドをブラッシュアップ!

視覚障害者を招いた検討会でガイドをブラッシュアップ!
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City Lights映画祭は視覚障害者と共に映画を楽しむイベントです。今年の上映作品『グォさんの仮装大賞』(2012年・中国)の音声ガイドづくりには、当校のバリアフリー講座修了生3人とバリアフリー事業部のチーフ・ディレクター浅野一郎が参加。8人で作り上げた原稿を元に先日、視覚障害者の意見を聞くモニター検討会が行われました。当事者が本当に求めるのはどんな情報なのでしょうか? 制作メンバーの1人で講座修了生・有馬加奈子さんが当日の様子をレポートしてくれました。

 
検討会の簡単な流れ
まず、映像に合わせてディスクライバー(もしくは進行役の方)が、自分が担当した箇所の台本を読み上げます。その後、モニターの方に意見を伺ったり、ディスクライバー同士で指摘し合ったりして、より分かりやすい表現を検討していきます。モニターの方は点字でメモを取るなどして細かい箇所についても指摘してくれます。

 
登場人物の名前を効果的に印象づけながら聞き心地の良いガイドに!
この作品は老人ホームが舞台なので、おじいさんがたくさん出てきます。名前も中国名でややこしく(チョウ、チェン、チャン、ホァン…)、声色も似ています。原稿づくりで私たちが悩んだのもこのポイントでしたが、やはりモニターさんたちも「話の内容や性格でどの人なのかを判断せざるを得ないので理解するのが大変」とのこと。そこで作品の前半で大工のチャン、酒飲みのチエン、車いすのリンなど人物の特徴づけを徹底することにしました。また、当初は「グォ」などと全員呼び捨てにしていましが、「グォさん」とした方が聞いていて作品のやわらかい雰囲気に合うとのことで、「さん」付けで統一することになりました。「聞き心地のいいガイド」を追求するには人物の呼び方にまで気を配らないといけないのですね。

 
麻雀牌の仮装シーンは疑問だらけ?
私たちが何度も話し合った麻雀の牌を模った仮装シーンは、やはり麻雀のルールを知らない人にとっては難しかったようです。この日話題になったのは下記のシーンでした。

 
「観客の前で横一列に立つ老人たち。麻雀牌に見立てた大きな箱を被っている。“アガリ”という掛け声で一斉に腰を曲げる。麻雀牌が倒されたような格好になる。しかし、その直後に2人の老人が転び首を痛めてしまう」

 
私たちはこのシーンに下記のガイドを付けていました。

 
ガイド①牌の中で全員、後ろに向き直る
セリフ“アガリ!”
ガイド②一斉に腰を曲げ、牌を倒す
ガイド③牌が2つ、転ぶ

 
【モニターさんの疑問】 おじいさんはどうやって首を痛めたの?
モニターの方は、老人が“アガリ”の合図で後ろにふんぞり返ったことで首を痛めて、転んでしまったと思われたようです。しかし実際は、老人たちは事前に牌の中で半回転しており、(ガイド①)。“アガリ”の合図の時には観客に背を向けて前にかがむことで牌を倒された格好になっています。そしてその後に、2人の老人が前につんのめるような形で転び、首を痛めてしまいます。しかし、モニターさんは「まさか箱の中で人物がクルッと回っているとは思わなかった」とのことで、実際の映像とは違うイメージをされてしまったのです。仮装という独特な状況を描写する難しさを感じさせられたご指摘でした。

 
【モニターさんの疑問】 「なぜ2回も転ぶの?」
この誤解には「牌を倒す」というガイドの表現に原因がありました。「倒す」という表現は間違ってはいません。しかし、ルールを知らない人には違和感があったようで、本当に倒れ込んでしまった画をイメージしたそうです。それなのに、その後で「牌が2つ、転ぶ」のガイドがあったので「もう既に倒れてたんじゃないの?」と思われたとか。たとえ「倒す」が麻雀的には正しい言葉であったとしても、この場面を分かりやすく描写する上では最適な表現ではなかったということですね。結局、ここは②のガイドを「お辞儀をする」に変更しました。

 
ちなみにこの“アガリ”の時、麻雀牌の数字が揃い良い手になっているので観客は大いに盛り上がります。しかし、その面白さを伝えようとして牌の模様やルールを事細かにガイドしようとすると、かえって混乱させてしまいますし、そもそも尺との戦いがあります。
結局、全体的に麻雀のシーンは詳しく説明せずに、あえてさらっと流すような感じにした方がいいということになりました。また、「上映前にラジオから流す事前解説の中で、麻雀の基礎知識を頭に入れてから見てもらうのはどうか?」という意見も出ました。

 
聴こえるはずの楽器の音色が聴こえてこないのはなぜ?
グォさんたちが旅の途中で遊牧民と一緒に歌うシーンに、「馬頭琴に合わせて全員で歌い始める」というガイドを付けたところ、モニターの方々から「馬頭琴」が気になるとご指摘を受けました。理由は、「馬頭琴」という言葉が出てきたのにその音色が聞こえてこなかったからだというのです。モニターさんいわく、楽器名を聞くとその音色を聞こうと身構えてしまうとのこと。その場で確かめてみると、映像では、確かに遊牧民が馬頭琴を演奏する様子が映っているのですが、やはり音は出ていませんでした。しかし、モニターさんからご指摘を受けるまで、晴眼者であるディスクライバーたちは誰1人としてその“違和感”には気づいていなかったのです。モニターさんからは、映像には映っていても、「馬頭琴」という言葉を出すと混乱するからあえてガイドはしない方がいいと言われました。「映像の中の情報は全部ガイドする」というのが音声ガイドの基本ですが、この場面はまさにその例外にあたる特徴的なケースです。加えて、晴眼者と視覚障害者が一緒にガイドをつくり上げていくという検討会の意義を強く感じた瞬間でもありました。

 
有馬さんたちはモニターさんからの貴重な意見を反映し、さらに原稿の精度を上げて行きます。上映はいよいよ6月14日(土)。皆さんもぜひ音声ガイドの楽しさ、難しさを一緒に体験してみてください!

 
guosanposter
『グォさんの仮装大賞』
© 2012 Desen International Media Co.,Ltd
配給:コンテンツセブン
http://www.guosan.jp/

 
第7回City Lights映画祭
http://www.citylights01.org/cl_eigasai.html

 


 
 
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