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「ダンデライオン・チョコレート」のオフィシャルブックを修了生13人が翻訳

「ダンデライオン・チョコレート」のオフィシャルブックを修了生13人が翻訳
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チョコレート専門店「ダンデライオン・チョコレート」のオフィシャルブック「ダンデライオンのチョコレート ―カカオ豆からレシピまで ビーントゥバーの本」(新泉社)が発売中。この書籍の翻訳をJVTAの修了生13名が手がけました。

 
「ダンデライオン・チョコレート」は2010年に米サンフランシスコで誕生したBean to Barチョコレートのファクトリー&カフェです。Bean to Barとは、カカオ豆からチョコレートバーをつくるまでのすべての工程を一貫して行うことで、チョコレート好きの間で話題になっています。「ダンデライオン・チョコレート」は現在、東京の蔵前ほか、国内で5店舗を展開。オフィシャルブックには、カカオの実からチョコレートを作る工程に加え、カカオの産地の紹介やチョコレートを使ったレシピなどが収録されています。その内容はかなり専門的で、翻訳は大変な作業だったそう。担当の相原拓ディレクターによると、翻訳者の自己PRシートの中から、「チョコレート」「スイーツ」「グルメ」「料理」などのキーワードを検索して、ヒットした皆さんに依頼して翻訳チームのメンバーを決めたといいます。リーダーを担当した修了生の土谷勝美さんにお話を聞きました。

 
JVTA この本は、土谷さんが今まで担当した作品の中でもトップクラスの難しさだったそうですね。
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土谷勝美さん(以下 土谷さん)はい。とにかく内容が専門的で深いんです。はじめは、チョコレートのレシピが中心だと思っていたのですが、原書のテキストを見て驚きました。この本はチョコレートを作る工程を見るだけでなく、読者も自らチョコレートを作ることを前提に解説する内容になっています。「これさえ読めば、あなたもチョコレートメーカーになれます!」という指南書なのです。自宅でカカオ豆からチョコレートをつくる工程や必要な器具、加工の様子などを具体的に解説しているので、それを読者が理解して同じ作業ができるようにテキストを作らなければなりません。はじめは9人チームの予定でしたが、内容の濃さとテキストの多さ、納期の短さから4人を追加して13人になりました。

 
JVTA  翻訳をするにあたり、翻訳チームの皆さんは店舗に見学に行ったとか?
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土谷さん 蔵前にあるダンデライオンの店舗で一般向けに開催されているワークショップに翻訳者が参加し、ファクトリー見学をさせていただきました。残念ながら海外の方1名と九州の方は来られなかったのですが、わざわざ岡山から来てくれた人もいました。ダンデライオンのチョコレートはカカオが70パーセントときび砂糖が30パーセント、それ以外は加えないというシンプルなつくりです。カカオ豆から板チョコになるまでの作業工程を見たことで、具体的なイメージが湧きました。まったく見ずに1から訳すのは難しかったと思うので、ありがたかったですね。

 
JVTA 翻訳に関してこうした見学などはよくあるのですか?
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土谷さん いいえ、私は初めての経験でした。ただ見るだけではなく、3種類のチョコレートを少しずつ頂いてテイスティングなども体験しました。本の中に書いてあるようなチェックシートをもらって、合間には水を飲んで口の中をまっさらに整えてから味わうんです。本の中にも記載されていますが、一般的なチョコレートに含まれる添加物などについても教えてもらうなど、貴重な体験でしたね。カカオをみたのも初めてでしたし、初めてこんなに深くチョコレートについて知りました。

 
JVTA 納期も短かったそうですね?
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土谷さん 納期は1か月半と、かなりタイトでした。しかし、いわゆる下訳ではなく、すぐに校正にかけられるような完成された文章にしてほしいとのことで、プレッシャーは大きかったですね。まず、全体で5章あるのを、「1章、2章」「3章、4章」「5章、インデックス」の3つに分けて、それぞれを13人で分け、各2週間ずつ、計6週間で翻訳しました。その間に相互チェックもしてから全員の分を合わせたものを、私が最終的にチェック。用語の統一や数字の数値の確認などを経て、納品しました。チームの誰からいつ連絡がくるのか分からないので、すぐに対応できるように常にPCに張り付いていましたね。

 
JVTA 具体的にはどんな作業が大変でしたか?
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土谷さん 例えば、すでに完成している英語版と全く同じレイアウトにするということですね。写真などのレイアウトとも合わせなければいけないので、テキストを入れるスぺースは決まっています。PDFでもらった英語版を見ながら、英文をワードにしたものを、左半分に全部入れて、右半分にその量と同じくらいになるように文字量を意識しながら日本語の訳文をつくりました。日本語はどうしても長くなりがちなので苦労しましたね。短くしたことで意味が分からなくなっては本末転倒なので。

 
JVTA 他にもいろいろありそうですね。
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土谷さん 著者がもともとIT関連に従事していたため、チョコレートの触感や滑らかさを試行錯誤するなかで、「アルゴリズム」という統計学を使って割り出したことを詳しく書いているくだりがありました。砂糖の量や温度調整などあらゆる要素の上に成り立っているのですが、この部分がとても分かりにくくて苦労しました。チョコレートだけじゃなく、アルゴリズムに関する本も読みましたね。まず、日本語でアルゴリズムの定義を勉強して、それからチェックしました。滑らかと感じるのはどういうことか。おいしいと感じるのはどういうことかということを科学的に分析しているのですが、味覚だけに頼らずに、数値としてチョコのおいしさを追求するのはすごいですよね。新鮮でした。

 
JVTA 確かに、全体的にかなり深い内容で、文字数も多い…。カカオの産地のパートでもさまざまな情報が盛り込まれていますね。
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土谷さん カカオの産地や砂糖の農園を訪れた紀行文などは読み物として書かれていて楽しみながら作業ができました。「フェアトレードは本当にフェアなのか」「希少種が必ずしもいいとはいえないのでは?」など、考えさせられる箇所もありました。言葉として知るだけでなく、現地での捉え方なども盛り込まれていて、とても興味深かったですね。

 
JVTA 専門用語が多く、調べものも大変そうですね。

 
土谷さん 実はインデックスのページがとても大変でした。原文ではインデックスだけで
10ページ以上あり、ここだけを担当した翻訳者さんがいたほど。まずは、英語でアルファベット順になっていたのを日本語にして五十音順に並べ替えるのに苦労しましたね。さらに、ワードをチェックし、表記の揺れやページがあっているかをすべてチェックする作業もあり、このパートが予想以上に大変でした。

 
JVTA チェック作業の大変さがしのばれます…。
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土谷さん チョコレートを滑らかに仕上げるためのテンパリングのやり方の箇所も少し不安だったので、海外のYouTubeなどでも似たような動画を検索。パティシエが温度を測りながら、滑らかにする作業を丁寧に解説している動画を見つけてやり方を再確認しました。温度や結晶の様子、結晶の型など化学的な部分もあり、知り合いで理系の友人に聞いたら、「結晶型ね、チョコレートは油脂だもんね」とさっと返されて…。こういう専門家が見ることを考えるとやっぱり慎重になりました。

 
JVTA 全体的にユーモアのある文章で読み物として楽しめますよね。
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土谷さん 原文も楽しみながら読みました。著者は複数いるのですが、それぞれの熱い想いが溢れていてすごく細かくて長い文章が多い…。チョコレートを作る過程での失敗談なども書かれていますし、「カカオをつぶすには、ブーツのヒールや肉叩きなども使える」「カカオ豆をローストしてはがれた外皮を取りのぞくには、ドライヤーや掃除機を使う」など実践的で、すぐに作れるような解説になっています。クスッと笑いながら取り組めました。こうした原文の面白さは日本語でも残さなければなりません。実は私、過去にもダンデライオンが日本に上陸する際にHPのメニューやブログ、パッケージの解説文などを翻訳させていただいたことがあります。今回の著者の一人でもあるリサ・ヴェガさんのブログも翻訳したことがあったので、彼女の文章の特徴も知っていました。面白くするためにいろいろな情報を盛り込んでいるのですが、すべてを訳すと字数がオーバーしてしまう。でもリサさんらしさは残したい。そのさじ加減が悩みどころでした。でも、チームの皆さんはうまくまとめてくれたと思います。

 
JVTA 土谷さんは、これまでにも食に関する作品を沢山手がけてきたそうですね。
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土谷さん 思えば映像翻訳のデビュー当時に手がけたのもスペインを巡るワイン紀行のドキュメンタリーで、その後は料理番組やシェフやパティシエを特集した番組なども担当させていただきました。また海外から輸入した調理器具のレシピつき使い方マニュアルなどの翻訳をいただいたこともあります。なかにはショコラティエの番組もありました。おかげで「食」が一つの得意分野になったのかもしれません。翻訳者のPRシートには、好きなドラマや俳優、ミュージシャンなどをたくさん書いた中にほんの少し、「食べ歩き」「グルメ」「チョコレート」「各国の料理が好き」などを書いただけだったのですが…。まさかこんなにたくさん料理関係の番組を担当することになるとは思いもよりませんでした。しかも、書籍の翻訳につながるとはびっくりです。

 
JVTA  「好きなことが得意分野になる」、その理想的なかたちですね!
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土谷さん そうですね。自分の好きなことを極める仕事はやはり楽しいです。難しいながらも楽しく取り組めました。「映像翻訳は本当に何が仕事に生かせるか分からない」と改めて思っています。翻訳者は常に調べものをしているので、そこで得た知識が思わぬところで役に立ちます。今回のチームの皆さんもみなチョコレートやスイーツが好きな方ばかりだったので、楽しかったと話していました。私もチョコレートを見る目が変わりましたね。

 
JVTA チョコレートをあらゆる角度から学べる1冊。ぜひ、多くの皆さんに読んでもらいたいですね。ありがとうございました!

 
ダンデライオンのチョコレート―カカオ豆からレシピまで ビーントゥバーの本
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https://dandelionchocolate.jp/products/detail.php?product_id=379

 
ダンデライオン・チョコレート 公式サイト
https://dandelionchocolate.jp/

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