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美容業界と映画祭の2つの舞台で通訳として活躍中! 英在住の修了生スミスさやかさんインタビュー

美容業界と映画祭の2つの舞台で通訳として活躍中! 英在住の修了生スミスさやかさんインタビュー
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JVTA修了生の皆さんの中には、字幕や吹き替えの翻訳だけでなく、英語力を生かして通訳として活躍する人がいます。近年メディア業界でグローバルスキルの需要が日に日に高まるなか、MTCでも翻訳以外に、取材や制作現場、映画祭などでの通訳・アテンドの仕事を多数受注しており、多様なフィールドで活躍する人が増えているのです。

 
今回お話を伺ったスミスさやか(涙さやか、Sayaka Rui)さんもその一人。現在、イギリス在住のスミスさんは、国内外で大人気の長編映画『カメラを止めるな!』をはじめ、数多くの日本の作品の英語字幕を手がけるほか、各国の映画祭の上映会場での通訳も務めています。もともと映画が大好きだったというスミスさんですが、実は通訳としてのスタートは美容関連が専門で、こちらはすでに20年以上のキャリアがあるとのこと。通訳の現場では語学以外でどんな「スキル」と「アティテュード」が求められているのでしょうか。「翻訳と通訳の仕事を両立する中でそれぞれに違う楽しさや難しさがある」と話すスミスさんに、通訳という役割についてお話を聞いてみました。

 
JVTA  スミスさんは英語字幕翻訳を手がける以前から、通訳として活躍されていたそうですね。まず、通訳のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

 
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※スミスさやかさん 大崎章監督とレインダンス映画祭で

 
スミスさやかさん(以下スミスさん) 初めて海外に行ったのは86年で16歳の時です。事情があって一度、帰国しましたが、17歳ですぐにイギリスに戻り、そこから約30年ずっと住んでいます。通訳の仕事ですが、もともとは美容関連専門の通訳としてスタートし、すでに25年くらいやっています。きっかけはすでに美容の通訳をしていた友人に声をかけられた事でした。映画関連のお仕事の方が後で、ここ8年くらいですね。

 
JVTA 美容専門というと具体的にどんなお仕事なのでしょうか?

 
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※日本で行われた美容師のデモンストレーションにて

 
スミスさん イギリスには、TONI&GUYやVidal Sassoonなど有名な美容の専門学校があり、個人はもちろん、100人単位の団体などで日本人美容師がコースを受けに来ます。例えば彼らに見せるデモンストレーションの現場での仕事ですね。モデルさんを使ってヘアカットやカラーの実践をする際、教えている先生と生徒さんとモデルさんの3者の間で同時通訳をします。日本で行われるショーやセミナーで舞台上の通訳をすることもあります。

 
JVTA 専門用語が多そうですね。

 
スミスさん 私が通訳を始めた時は美容師としての知識は全くゼロでしたし、専門用語が多くて最初は本当に大変でした。誰も教えてくれないので、先輩の通訳さんの仕事を見て覚えるしかなかった…。自分が通訳をやらない日でも出かけていって先輩の言葉のメモを取り、「この時はこういう風に言うんだ」と一つずつ覚えながら、どんどん知識を蓄積していきました。

 
JVTA 美容業界ならではのスキルがあれば教えてください。

 
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※美容師のデモンストレーションのショーに登壇

 
スミスさん 美容業界って実は和製英語が多いんです。通訳は、「英語から和製英語へ」「和製英語から英語へ」という作業をしてあげないと意思の疎通ができません。これは本当に専門の人しかできない仕事で、英語が得意というだけでは無理ですね。見ている人はある程度、美容のことを知っている人たちなので、全く知らない人向けに言葉をかみ砕く必要はなく、美容師同士で理解できる会話の内容が多いですね。

 
JVTA 具体的にどんな言葉が使われているのでしょうか?

 
スミスさん 例えば、「グラデーション」っていう言葉がありますが、普通の通訳さんのように「徐々に」「段階を追って」とか訳すのはNGです。これは段差が密な状態のカット技法のことで「グラデーション」はそのまま「グラデーション」って言ってあげないと日本の美容師さんには通じません。こんな風に英語と和製英語で対になっているものがあるので、それを把握しないと訳せないんですね。

 
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※イメージ

 
和製英語なのに、あまりにもみんなが使うのでイギリスでも取り入れて英語になってしまったものもあります。「オンザベース」とは、髪の毛を頭皮から直角に引き出すことをいうんですが、英語では使わない表現なんです。でも90年代に日本の美容師さんがすごく沢山受講に来て、あまりにも日本人がオンザベース、オンザベースというので、いまやこちらでもオンザベースで通じるようになっちゃったんですね。

 
JVTA 面白い! スミスさんは、和製英語がイギリスに定着する過程も肌で感じてきたんですね。美容関連のお仕事は拘束時間がとても長いとか。

 
スミスさん そうですね。美容の仕事だと朝9時に始まって夕方6時までずっと1人でやることもあります。一般的に通訳さんは、30分から1時間くらいで交代しますが、美容関連の時はとにかく朝から晩までずっとしゃべり続けることも珍しくありません。でも、1回専門用語を覚えてしまえば、美容師さんは技術的な会話が多くて、他に難しいことはあまり言わない。だから通訳としては負担が少なくて、慣れている私にとっては映画の仕事よりはるかに楽ですね。

 
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※美容師のデモンストレーションのショーに登壇

 
JVTA 確かに、映画祭のQ&Aなどは、どんな質問がくるか分からないので、緊張の連続だと思います。美容関連の仕事からどのように映画関係の仕事に広がったんですか?

 
スミスさん 私は映画が大好きで個人的に映画祭などによく出かけていました。美容関連の通訳として経験を積む一方、映画祭の会場で、映画関係者に出会い、映画祭のトークやQ&Aや関係者のアテンドの仕事を頂くようなったんです。イギリスで日本の映画を配給する会社・サードウィンドウフィルムズの代表、アダム・トレル氏に会ったのも映画祭でした。やがて、アダムがプロデュースする日本映画が海外の映画祭に出品される際の通訳や、その英語字幕なども手がけるようになりました。映画祭などの一般的な通訳の場合、舞台挨拶が10分、Q&Aが20分なら“せいぜい30分”という仕事がメインですが、美容関連に比べて大変です。Q&Aでは監督の過去の作品の話題が出た時に“邦題が分からない”なんて、あってはならないことですから。会場のファンはみんな知っているのに、自分だけ知らないという状況が一番怖い…。

 
JVTA 定訳が多い美容関連に比べ、映画は毎回新たに事前の調べものが必要になりますよね。

スミスさん 例えば、廣木 隆一監督の担当だとすると、通訳は30分であっても彼が今までやってきた映画のすべてを知っておかないとできないんです。だから当日の現場の前までに膨大な量の調べものをします。トークショーも内容の打ち合わせなどはないことが多い。中にはたまにですが、事前にインタビューの質問内容を教えてくれる人もいますが、その中で実際に本人にする質問は15パーセントもないと思います。現場ではその場の話の内容からつなげて会話が進んでいくので、打ち合わせをしてもその流れ通りにできたことはないですね。特に海外のメディアはぶっつけ本番のようなパターンが多い。そういう意味では、じっくり調べられる字幕のほうがずっと好きです。字幕は自宅でじっくり作れるので気持ちが楽ですね。

 
JVTA 通訳の仕事と一口に言ってもジャンルによって仕事の内容が大きく変わるんですね。映画関連で今まで特に大変だった仕事はありますか?

 
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※大林宣彦監督とウディネ・ファーイースト映画祭で

 
スミスさん 2016年にイタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で大林 宣彦監督が生涯功労賞を受賞した際、急にスピーチやインタビューの通訳を担当することになったんです。大林監督はとても沢山話される方なので、すべて網羅して訳すのが大変でした。ウディネはメディアの取材のインタビューがメインなので軽く1時間2時間続けて対応することも。特に今年のウディネではイタリアン・ジャパニーズのスーパー通訳さんが急に登壇できなくなり、急遽5組くらいの通訳を私が担当しました。これは本当に緊張しましたね。

 
JVTA 5組も! 集中力との闘いですね。

 
スミスさん ある現場の桃井かおりさんの通訳では、トークが1時間45分くらいありました。彼女は英語ができるので5分くらい一気に続けて話すのを、メモを取りながら聞くんです。桃井さんが語り終わった後、「さあ、さやかさん、全部言ってみよう!」と言われまして…。場を楽しませてくれているんですが、私にはすごいプレッシャーでした。案の定、映画館の名前をいくつか羅列するところで私が一つ言い忘れてしまい、「あと○○ね」と桃井さんに付け加えられました(笑)。

 
JVTA 緊張感が伝わってきます。つい先日もスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭2018にいらしたそうですね。

 
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※手塚眞監督と奥様の岡野玲子さんとシッチェス・カタロニア国際映画祭で

 
スミスさん 今年のシッチェスでは、私が英語字幕を担当した『カメラを止めるな!』と『星くず兄弟の伝説』の2本が上映され、私も同行しました。『星くず兄弟の伝説』は、手塚治虫さんの息子さんの眞さんが作った80年代のカルト的な人気を誇るミュージカル映画で、今回がインターナショナルプレミアでした。この2本の上映時間が偶然重なってしまい、私は“星くず”の上映会の通訳を担当しました。

 
JVTA 会場の様子はいかがでしたか?

 
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※手塚眞監督とシッチェス・カタロニア国際映画祭で

 
スミスさん この映画祭にはスペイン語と現地のカタロニア語の両方が話せる通訳さんがいます。私は一緒に登壇し、監督の言葉を日本語から英語に翻訳し、それをスペイン語やカタロニア語に訳していきます。Q&Aなどではその逆もあるわけで、その時は元の質問を聞いてから待っている時間が長く、忘れてしまわないようにと頭をフル回転していました。

 
JVTA これまでに何か失敗談もありますか?

 
スミスさん いろいろありますよ。ある監督の通訳をした際、「今年もカンヌで上映される」というべきところで、年号を間違えて「去年のカンヌで上映された」と言ってしまったことがあります。これはさすがに知り合いのライターの方やクライアントにも「ここは間違ってはいけない」と指摘されました。また観客からの質問が難しすぎて私が監督にうまく説明できず、それ故に、監督もうまく答えられなかったというケースもありました。字幕だったら字数が決まっているので情報の取捨選択をしますが、通訳は基本的に落とさずに訳します。100言ったら98くらいは訳さないといけない。私は、インディペンデント系やアート系などエッジの効いた作品を担当することが多いので、会場からの質問もコアでディープなものが多く、ハラハラしますね。

 
JVTA 今まで他にはどんな方々を担当されたのか教えてください。

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※米映画評論家のマーク・シリングさんとウディネ・ファーイースト映画祭で

 
スミスさん 廣木 隆一監督や豊田 利晃監督、大崎章監督、米映画評論家のマーク・シリング氏、塚本 晋也監督(トークの通訳)、内田英治監督、吉田 大八監督、タナダユキ監督、大根仁監督 (『バクマン。』のインタビュー通訳)、藤田容介監督(『福福荘の福ちゃん』のレインダンス映画祭での通訳)など多くの方々の通訳を担当させていただきました。

 
変わったところではNHKのキャラクター、「どーもくん」のパペット・アニメーションの企画・演出・デザインの合田経郎さん、ストップモーション・アニメーターの峰岸裕和さんがロンドンで行ったトークとワークショップの通訳もありました。どーもくんの人形を会場に持ってきて、その人形を動かして、その場でストップモーション・アニメを作ったんですよ。「では、どーもくんを走らせてみます!」といった感じで…。私はストップモーション・アニメのことは、全然知らなかったのでこの時も、テクニカルなことなど事前に全部調べました。大変でしたが、すごく時間をかけて作られていることを目のあたりにして面白かったですね。私にとっても貴重な体験でした。

 
JVTA 錚々たる顔ぶれですね。美容関連とエンタメ系と幅広い分野でのご活躍、今後も期待しています。ありがとうございました。

 

◆スミスさやか(涙さやか、Sayaka Rui)さんは今世界で大人気の『カメラを止めるな!』の英語字幕を担当!
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字幕制作秘話はこちらをご覧ください。
https://www.jvta.net/tyo/one-cut-of-the-dead/

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