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明けの明星が輝く空にinCO

第66回 偶然が生み出したもの

第66回 偶然が生み出したもの
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【最近の私】とある自転車の大会で、とある基準のタイムを切った。いわば“坂バカチャリダー初段”。苦節6年。努力は実る。
 

特撮の現場では、誰も予想できなかった事態がしょっちゅう起こるらしい。ほとんどの場合、撮り直しとなったようだが、中にはそんなハプニングをNGにせず、そのままストーリーに活かしたものもある。
 

例えば、『ウルトラマン』の第23話『故郷は地球』(当ブログの第3回:『怪獣の正体』http://jvtacademy.com/blog/co/star/2010/05参照)で、怪獣ジャミラの眼から光が消えるシーン。実は、撮影中に起きた電気系統のトラブルが原因だったのだが、まるでジャミラの深い悲しみ(ジャミラの正体は怪獣化してしまった人間)を表現する演出のようにも見える。
 

また、東宝映画『空の大怪獣 ラドン』(1956年公開)のラストで、火山の噴火に巻き込まれたラドンが力尽きて落下するシーンも、その一例だ。予定では、ラドンが上空を旋回する映像で物語が終わるはずだったのだが、ラドンの人形を吊っていたピアノ線が高熱で切れ、火山のセットの上に落ちてしまったそうだ。つまり、現場でのアクシデントが、物語の結末まで変えてしまったことになる。
 

それでもこうした小道具などのトラブルは、映像上の演出として処理することも可能だが、主人公の降板となるとそうはいかない。仮面ライダーには1号と2号がいることは有名だが、2号の登場がアクシデントによるものだったことはご存じだろうか。実は1号ライダー/本郷猛を演じた藤岡弘(現藤岡弘、)氏が、撮影中のオートバイ事故で重傷(左足複雑骨折)を負い撮影できなくなったので、対応策として2号ライダーが考案されたのだ。
 

とはいっても、急に対応できるものではない。事故は第10話の撮影中に起きたが、第11話以降の撮影は出来ていなかった。しかし、すぐに代役を立てることもできず、11話から13話までは本郷猛の登場シーンを極端に削り、必要な場面は以前の映像を使い回した。セリフは、藤岡氏以外の俳優がアフレコでしゃべっている。さらに新たなサブキャラクターである滝和也(FBI捜査官)を登場させるなど、苦肉の策がとられた。
 

そうやってつなぎの回をなんとかしのぎ、第14話でついに2号ライダーが登場する。結果的に、これによって『仮面ライダー』の作品としての魅力が倍増したと言ってもいいだろう。新しいライダーが登場したこと自体、ワクワクさせるものがあったし、1号と2号がタッグを組む“ダブルライダー”の回に、子どもたちは大興奮だった。
 

しかし、2号登場の最も特筆すべき点は他にある。変身ポーズの採用だ。実は、1号には変身ポーズがなかった。番組初期、本郷猛はオートバイを高速で走らせ、腰に巻いたベルトの風車が発するエネルギーで変身していたのだ。ところが、2号ライダー/一文字隼人を演じた佐々木剛氏は、自動二輪免許を持っていなかったため、変身ポーズが考案されたという。
 

変身ポーズの採用が、ライダー人気をさらに押し上げたのは疑いもない。なぜなら、子どもたちは変身ポーズを真似ることで、いつでもどこでもライダー(気分)になれたからだ。やがて、番組の主役の座は再び1号ライダーに戻るのだが、2号の流れを受け、1号にも新たな変身ポーズが採用された。当然ながら、当時の子どもたちはこちらのポーズも真似た。僕など、大人たちの前で2つのポーズを披露することが、何とも誇らしく感じたものだ。
 

ちなみに、2号ライダーの変身ポーズは、番組でアクションを担当していた大野剣友会が、刀の構えから考案したものだという。なるほど、2号こと一文字隼人は変身する際、左に伸ばした両腕を右に回し、力こぶを作るようにして止めるのだが、伸ばした腕を刀に見立てれば、いかにも時代劇にありそうな動きだ。そして、最後のポーズは剣術の構えの一つ「八相の構え」に似ていないこともない。さらに言えば2号初登場の回での、変身シーンの見得の切り方も、どことなく時代劇っぽい。一文字隼人が自分はライダーだと名乗り、「お見せしよう!」と言って変身ポーズをとる。その大きな自信に満ち溢れた態度。そして佐々木氏のケレン味あふれる芝居! これは2号ライダーのファンの間で今も語り継がれる、名シーンなのである。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

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