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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

『サタデー・ナイト・フィーバー』それは勘違いの歴史の始まり?

『サタデー・ナイト・フィーバー』それは勘違いの歴史の始まり?
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腰をクッと突き出し、右手をスッと天に伸ばした決めポーズ。
白いスリーピースに胸元が大きく開いた黒いシャツ。
ディスコ・ミュージック、ダンス、ミラーボール…。
今から36年前の1978年夏、日本はある映画の公開で“熱”を帯びていた。
『サタデー・ナイト・フィーバー』である。

 
1970年代後半の世界的ディスコ・ブームをけん引したこの映画は、俳優ジョン・トラボルタを大スターに押し上げ、ヒットチャートの上位をビージーズの曲で埋め尽くした。

 
舞台はニューヨーク。トラボルタ演じる主人公のトニーはペンキの店で働きながら、毎週土曜日の夜にディスコへ繰り出して、日頃のうっぷんを晴らすかのような生活を送っていた。そんなある日、魅力的な年上の女性ダンサー、ステファニーに出会ったトニーは、彼女の生き方に影響を受け、自らの生活を改めようとする。そして、二人はパートナーとして、賞金付きのダンス大会へ出場することに。

 
この映画は、ダンスシーンのイメージが強すぎるため、単なるダンス音楽映画と思われがちだが、ディスコは文字通り舞台にすぎない。むしろ、当時の若者(特に労働者階級)の日常を通じて、主人公たちが苦悩し、葛藤し、そして成長していく姿を描いた正統派青春ドラマなのだ。学歴や地域による格差、人種や男女の差別、友人の死、親子関係などの問題もきちんと描かれている。

 
私にとっては、この映画こそが人生で初めて自発的に触れた旬なアメリカンカルチャーだった。そして、それは勘違いの歴史の始まりでもあった。

 
その1「フィーバーする」。
「フィーバー」という単語は、日本では「フィーバーする」という和製英語として広まり、それは「ディスコで踊る」とか「盛り上がる」という意味でとらえられた。自分も、それが病気などによる「熱」という意味だと分かったのは受験勉強を始めた数年後だったはず。

 
その2「アメリカは週給」。
初めてアメリカで“給料”をもらった時、それは金曜日だった。90年代のこと。すでに週休2日制が定着していた時代である。ありがたくはあったが、映画で見たのと同じように土曜日にもらいたかったなという複雑な気持ちだった。

 
その3「聖職者」。
牧師を目指す優等生の兄と、ペンキの店で働きながらディスコで遊び呆ける出来の悪い弟。両親にとっては、聖職者を目指す兄が自慢であるという事実。学校で習った“宗教”とはまるで別のアプローチで、アメリカ社会に根付いたキリスト教を肌感覚で体験した気分になった。日本で、両親を喜ばせるために「僕、お坊さんになるよ」と宣言する息子、いないよね。

 
その4「忙しいバンド」。
ビージーズのことを、そもそも“ビジーズ”だと勘違いしていた。それはちょうど「busy」が「忙しい」という意味だと習ったばかりの頃である。「『ビジーズ』って『忙しいバンド』っていう意味だぜ」と知ったかぶりをしていた記憶が…。

 
原作は、イギリスのジャーナリスト、ニック・コーンが「New York Magazine」に寄せた「Tribal Rites of the New Saturday Night」という記事である。イギリスからアメリカに渡って来たばかりのコーンが、ニューヨークの労働者階級の若者文化に興味を持って書いた“実録”とされていたが、後にほぼ“創作”だったという事実を本人が告白している。ちなみにこの記事の邦題がすごい! 『新しい土曜の夜の部族儀式』とは(絶句!)。何か、もっと他になかったのかなあ。

 
まだこの映画を見たことのない方は、まずはネットでビージーズの『ステイン・アライブ』『恋のナイト・フィーバー』『愛はきらめきの中に』の動画を検索してみては。おおっ!ドキドキするな。熱いぜ。

 
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『サタデー・ナイト・フィーバー』
監督:ジョン・バダム
出演:ジョン・トラボルタ、カレン・リン・ゴーニイ、バリー・ミラー
製作国:アメリカ
製作年:1977年
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Written by 小笠原 ヒトシ
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[JVTA発] 今週の1本☆ 7月のテーマ 熱
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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