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戦え!シネマッハ!!!! 最終回 マイ・シネマ・パラダイス ~いつも、そばに映画がいた~

修了生の鈴木純一さんが執筆する映画の予告編と悪役にフォーカスしたコラム「戦え!シネマッハ!!!!」は、前身であるコラム『明日に向かって見ろ!』として2009年にスタート。15年以上に及ぶ連載が今回最終回を迎えます。これまでの総まとめとして鈴木純一さんにJVTAとの出会いや受講中のエピソード、コラムを始めたきっかけやセミナー登壇などを綴っていただきました。映画をこよなく愛する鈴木さんがJVTAを通じて得たさまざまな体験とは?

※画像内の映画にまつわるイラストは鈴木純一さんが描いたものです。

◆医療福祉の仕事を探して手にした雑誌でJVTAと出会う

1970年生まれの私は、『スター・ウォーズ』(1977年)と『スーパーマン』(1978年)を映画館で観て、映画を好きになりました。自分が10代だった1980年代なかば、ビデオテープのレンタルが普及しました。そのため、映画が手軽に観られるようになったこともあり、主にホラー、SF、アクションなどを観ていました。

2002年、自分の祖母が少し前に亡くなったこともあり、医療福祉の仕事に興味を持つようになりました。その仕事に必要な資格を調べようと書店で手に取ったのが、資格・学校についての情報誌。この雑誌には、いろいろな分野の資格や学校のことが載っていて、「語学」のジャンルでJVTAの広告を見つけました。そこで「映像翻訳をやってみよう」と思いたち入学したのですが、実は軽い思いつきでした。今はネットで調べたいことがすぐに見つかりますが、当時はまだ雑誌や新聞から調べることが多く、思いがけない情報と出会うことができたんだと思います。でも、現在はやはり医療福祉の仕事をしているので、人生は巡るんですね。

◆クラスメートとの思い出は、節分の豆まきや花火大会、セミナー登壇

勉強していた時のエピソードや思い出はいろいろあります。当時は代々木八幡に校舎がありました。節分のころ、教室で豆まきをして、学校代表の新楽さんも鬼のお面をかぶって参加してくれました。ある日の授業のあとに、クラスの仲間と花火大会に参加する時、浴衣で授業を受けようとしたことも…。さすがに先生に怒られると思って浴衣は自粛しましたが、あとで先生から「浴衣で授業を受ければよかったのに」と残念がられたのを覚えています。そんなアットホームな雰囲気でした。

JVTAで映画に関するセミナーを2回開催したのもいい思い出です。お題は「ロードムービー」と「サスペンス映画」で、元クラスメートですが、今はJVTAのディレクターで講師の石井清猛さんと一緒に登壇しました。セミナーといっても、好きな映画を紹介して好きにしゃべっていたんですが…。

翻訳の仕事で記憶に残っているのは、『トロル』(1986年)です。主人公一家が住むアパートを妖精が侵略しようとするファンタジー。主人公の父親がハリー・ポッターという名前ですが、後の人気小説とは関係ない…。高校生の時にこの映画をビデオで観ていましたが、映像翻訳者になってからCS放送用に字幕をつける仕事をいただきました。高校時代に戻って、自分に「今観ている映画、十何年後に字幕をつけるから!」と教えても信じないと思います。昔好きだった作品に映像翻訳者として再会できたのは嬉しかったですね。

◆コラム執筆のきっかけはSSFF&ASIA

修了後は、映像翻訳の仕事をいただいていました。ある年、自分が字幕を担当した短編『おもちゃの国』がショートショートフイルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)で上映され、その後、第81回アカデミー賞最優秀短編賞を受賞しました。それを機にナチス・ドイツによるホロコーストの悲劇を描いたこの作品についての紹介記事を書くことになり、以降は学校のサイトに映画について書くことが増えていきました。

そんななか、先述の石井さんとの雑談中に「映画本編ではなく、予告編について書くの、面白いんじゃない?」という話になりました。まさか自分が書くとは思っていなかったのですが、その企画を石井さんが新楽さんに持っていき、2009年に予告編コラム『明日に向かって見ろ!』が始まりました。コラム第1回目に紹介したのは『ロボゲイシャ』『ニンジャ・アサシン』(共に2009年)です。ロボットとニンジャの組み合わせも自分らしいなと思う…。コラムのタイトルは我ながら気に入っています。

◆予告編コラムを“2本立て”でスタート

私が映画を観るようになった80年代は、まだインターネットのない時代。映画の情報は主に劇場やテレビで流れる予告編でした。予告編は本編を観たいと思わせる「つかみ」です。でもネタばれをしないように作品の魅力を伝える難しさもあります。コラムでは、そんな予告編だけを観て、つっこみを入れる、監督や出演者について、好きに書き連ねていきました。

コラムが始まってしばらくは、新楽さんが私の書いたコラムをチェックして、指摘された部分を書き直し、修正するという、毎回セッションのように続いていきました。アーカイブで過去のコラムを読みましたが、毎月2本の予告編を紹介し、さらにクイズまで出題していた。我ながら、よくやったなあと感じますが、当時は映画にかける熱量が大きかったのだと思います。

コラムを2本立てにしたのは、昔、地元の映画館では2本立てで上映していたのがきっかけです。自分が映画館の主のような感覚で予告編を選んでいました。悪役コラムは、予告編コラムが始まって数年後、自分から学校に提案して、予告編と悪役の交互での連載となりました。映画は悪役が魅力的であれば面白くなります。今までに観た作品から選ぶ作業は、自分がレンタルビデオの店長みたいで楽しい時間でした。でも、主人公の仲間に見えて、終盤に実は悪役だったという作品もあるので、そういうネタばれはしないように紹介していました。

◆憧れの土橋秀一郎さんとコラム仲間に

受講生時代、学校のメルマガに修了生の土橋秀一郎さんのコラム『テキサス通信:Houston We have Problem』が掲載されていて、愛読していました。土橋さんはその頃テキサス在住で、毎回アメリカで公開されている映画を紹介しており、アメリカ特派員みたいで、かっこいいなと思っていました。

今では自分の書く紹介文が、土橋さんのコラムと一緒に掲載されています。土橋さんのコラムに憧れていた昔からすると、なんとも不思議な感じがします。数年前、JVTAの新年会でコラム執筆者の皆さんが紹介される機会があり、土橋さんとお会いすることができたのはいい思い出です。土橋さんはコラム仲間というより、コラムの大先輩ですが。

◆映画制作の裏側をのぞき、映画で遊ぶ

映画の観方はそれぞれですが、自分の場合は、観た映画について知りたくなります。例えば、先月のコラムで取り上げた『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年)ですが、このシリーズは1作目から4作目までは監督がそれぞれ違います。第2作目の監督はジョン・ウーです。そこで、自分はウー監督が香港時代に撮影したさかのぼって観る。すると、ウー監督の映画のスタイルがわかるようになる。それを調べると、彼の他の映画も観たくなる。第1作目、3作目、4作目の監督についても、同じように調べて、またその監督の作品を観る…。この繰り返しで、勉強というよりも、リサーチしながら映画で遊んでいるという感覚です。これがコラムを書く原動力になりました。

80年代は映画制作において特殊効果(SFX)が発達していった時代です。ホラーやSF映画のメイキング映像や写真を観て、ある場面がどのように作られていくのかを知るのが好きでした。当時の特殊メイクのアーティストの名前を覚えて、他にどんな作品に参加したのか、探して観ていました。自分にとってはそのように映画制作の裏側をのぞくことが楽しかったんだと思います。

◆JVTAを通じてさまざまな形で映画に関わることができた

私は映像翻訳だけではなく、映画に関わることすべてに興味があります。映像翻訳の勉強をしていたころ、学校ではいろいろなイベントがありました。その中でも、私は映画に関するイベントには参加していました。そして、その参加をきっかけに、映像翻訳の仕事をもらうこともありました。でも、当時は自分を売り込もうという気持ちはなく、ただ映画のことを聞く、話すことが好きなだけでした。

学校を通して、映画撮影のエキストラも経験しました。レオス・カラックス監督が日本で撮影した『TOKYO!/メルド』(2008年)や、廣木隆一監督の『軽蔑』(2011年)に参加。映画のワンシーンを撮るのに、すごい時間と手間がかかっているのを直に見ることができました。

シンガポールの映画だけを集めた「Sintok シンガポール映画祭」にも、字幕制作や会場の現場スタッフとして携わりました。この映画祭への関わりは、インターネットで翻訳者募集の記事を読んだのがきっかけです。ゲストとして来日した監督とお話しするなど、映画を身近に感じる経験でした。

また、英語で書かれた海外ドラマ関連の記事を、日本語に翻訳する仕事もいただいていました。この仕事も、JVTAで知り合った講師との出会いから始まりました。どこでどんな仕事につながるのかは、わからないと実感しています。

「努力すれば夢はかなう」という言葉がありますが、自分にはそれは当てはまりません。私より映画に詳しい人は大勢います。私より文章がうまい人は、絶対にいる。私にあったのは、運と縁だったと思います。もしJVTA以外の学校に行っていたら、私は映像翻訳の仕事をもらえず、コラムを書くこともなかったし、こうして映画にまつわる自分の体験を綴ることもありませんでした。


Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。

【連載を終えて】

コラムを書き続けている間に東日本大震災やコロナ禍もあり、映画を観る状況が変わった時代でもありました。コラム以外にも、試写会にも誘われ、観た作品の紹介文を書くという機会ももらえて、恵まれていたと思います。これまでコラムや映画に関わることができたのは、学校のスタッフの皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。JVTAで、自分の人生が豊かになったのは間違いありません。

これからは、新たな修了生・受講生が書くコラムを読みたいです。今は配信される映画も数多くあります。オリジナル配信作品や隠れた個性的な映画を紹介してくれたらいいなと希望します。コラムは終わりますが、今年は「手話のまち 東京国際ろう芸術祭(TIDAF)」で上映される映画の字幕翻訳に参加する予定です。このイベントも、修了生の友人とのつながりで、お手伝いすることになりました。映画と共に歩く道は、まだ続きそうです。

戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!

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全てをかけて不可能を可能にする! 『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の予告編

【最近の私】今回のコラムを書いて、『ミッション:インポッシブル』シリーズやジャッキー・チェンが出演した映画をまた観たくなりました。映画って、本当にいいもんですね。

トム・クルーズは80年代から映画界で活躍している俳優の1人だ。彼の出演歴は、さまざまなジャンルにわたっている。今回はその中から、トムの人気シリーズの最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年)の予告編を紹介したい。

予告編は、いきなりイーサン・ハント(トム・クルーズ)が空飛ぶ複葉機にしがみついている場面から始まる。これまでのシリーズに登場したエリカ・スローン(アンジェラ・バセット)やグレース(ヘイリー・アトウェル)なども今作の予告編に引き続き出ている。CIA本部への侵入、クレムリンの爆破、要人へのガス攻撃など、これまでにイーサンが遭遇したミッションについて言及があり、1作目に出てきたナイフも登場する。

拘束されているイーサンだが、世界を救うのは、彼以外にいないと言われている。今までにない世界規模の危機が迫っているようだ。過去の自分、過去の行動、全てがつながるという。最新作はシリーズを統括する内容になる予感がする。

『ミッション:インポッシブル』(1996年)は、トムが初めてプロデュースを手がけた作品である。以降、すべての続編でプロデュースを務めている。それだけ彼の思い入れと情熱が込められている。その情熱とは、世界を舞台にしたスケールの大きな物語と、アクションだ。

2作目(2000年)では、オープニングのロッククライミングから始まり、バイクと車のチェイスが繰り広げられる。そしてトムは毎回スタントに挑戦するようになる。4作目『ゴースト・プロトコル』(2006年)では、ドバイの超高層ビルの窓に張り付き、ビルの側面を駆け降りる。

5作目『ローグ・ネイション』(2015年)では、離陸する飛行機の胴体にしがみつく。6作目『フォールアウト』(2018年)では、ヘリコプターにぶら下がり、自身で操縦もする。トムはこの場面のためにヘリの操縦を学んだという。前作『デッド・レコニング』(2023年)では、山道をバイクで疾走し、そのまま崖からバイクごとジャンプを披露した。この場面のメイキングでは、山にバイクが走る滑走路を作るという、建設現場のような大がかりな準備に労力を費やしている。

どうして、何がトムをここまで危険なスタントに駆り立てるのだろうか。シリーズを通して、高所、空中、疾走にこだわっている。CG全盛となった現代の映画制作において、シンプルに「落ちたら命を落とす、転倒したら危険」という、観る者がスリルを感じて心を熱くするような、アクションの原点に挑んでいるように思える。実際、『フォールアウト』でトムはビルからビルにジャンプする場面で足首を骨折した。

その姿は、さながらアクションの鬼である。おそらく命綱のワイヤーはCGで消すなどの処理はしているだろうが、それ以外は可能な限り生身で挑んでいる。かつてジャッキー・チェンが『プロジェクトA』(1983年)、『ポリスストリー/香港国際警察』(1985年)など、体を張ったアクションの数々で観客を魅了していた。トムを見ていると、ジャッキーの危険なスタントを現代に再現しているように感じる。

1作目が作られてから約30年間、トムは映画界で俳優という道を走り続けてきた。自分も彼の映画を見続けてきました。最新作に『ファイナル』とついているが、これが本当に最後のミッションになるのか。映画館で確かめてきます!

今回注目した予告編

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

監督:クリストファー・マッカリー

出演:トム・クルーズ、ヴィング・レイムス、ヘイリー・アトウェル、サイモン・ペッグ

2025年5月23日より公開

公式サイト:

https://missionimpossible.jp/

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
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美しい世界の裏にうごめくものは… デニス・ホッパー in 『ブルーベルベット』

【最近の私】予告編コラムで紹介した『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が日本でヒットしています。ファンと観客の情熱で香港映画がまた活性化すればと期待しています。

今年1月、ディヴィッド・リンチ監督が亡くなった。彼が撮った映画やドラマだけではなく、絵画などの作品で、その特異なビジュアルやセンスに魅了された人たちも多いのではないか。今回はリンチ監督の作品の中から、『ブルーベルベット』(1986年)に登場したデニス・ホッパーを紹介したい。

映画の舞台は、アメリカの地方にある町ランバートン。主人公ジェフリー(カイル・マクラクラン)はこの町を出て大学に通っていた。だが彼の父親が急病で倒れたため、ランバートンに戻ってくる。入院している父を見舞ったジェフリーは、帰り道の草むらに切断された人間の耳が落ちているのを発見する。ジェフリーは刑事の娘サンディ(ローラ・ダーン)と一緒にこの事件を調べ始める。

この事件の裏に、クラブで歌う歌手ドロシー(イザベラ・ロッセリーニ)が関係していると聞いたジェフリーは、ある夜、彼女の自宅に忍び込む。だがドロシーが帰宅してきたので、ジェフリーは急いでクローゼットの中に隠れる。そこで彼が見たのは、異常な犯罪者フランク(デニス・ホッパー)とドロシーの倒錯した背徳的な行為だった。フランクはこの町で麻薬や売春を仕切る男で、ドロシーの夫と子どもを誘拐し、強制的にドロシーを自分の愛人として関係を結んでいるのだ。この夜を境に、ジェフリーは異様な暴力の世界に巻き込まれていく。

本作に登場する町は、1950年代で止まっているような風景だ。青い空に白いフェンス、丁寧に手入れされた庭には、鮮やかな色の花が咲いていて、古き良きアメリカを思わせる。だが、その美しく見える庭の芝生の下には、無数の黒い虫がうごめいている。一見、美しく見える世界の裏には、誰も知らない闇の世界が広がっているのだ。フランクも、平和で明るい町の裏側にひそむ邪悪な存在だ。この世界観は、大ヒットTVドラマ『ツイン・ピークス』(1990年~1991年、2017年)でも引き継がれている。架空の町で起こった殺人事件を発端に、その町の住人の抱えている秘密が描かれていた。

フランクを演じたデニス・ホッパーは1936年生まれ。俳優としてジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』(1955年)『ジャイアンツ』(1956年)などに出演する。1969年には、監督・脚本・出演を兼ねた『イージー・ライダー』が高い評価を得て、アメリカン・ニューシネマを代表する1本になった。だがその後『ラストムービー』(1971年)で興行的に失敗し、以降は長い間、ドラッグとアルコール依存に苦しむことになる。だが『ブルーベルベット』で強烈な悪役を演じて脚光を浴びる。同じ1986年には『リバーズ・エッジ』『悪魔のいけにえ2』そして『勝利への旅たち』(アカデミー賞助演男優賞にノミネート)し、カムバックを果たす。以降は『カラーズ 天使の消えた街』(1988年)で監督も務めている。

デニス・ホッパーは数々の作品に出演していて、どの作品が好きかは人それぞれだろう。個人的には前述の『悪魔のいけにえ2』で復讐に燃える狂気をはらんだ男も好きだし、『トゥルー・ロマンス』(1993年)でクリスチャン・スレイターの父親を演じていたのも印象的だ。ホッパーは2010年に亡くなった。もう彼の出る新作を見ることはできないが、今までに出演した作品を見れば、彼に再び出会うことができる。ホッパーが長い苦悩の時期から復活した『ブルーベルベット』は、リンチ監督の独自の世界観に、見る人選ぶだろう。だが、他の映画では見られない世界を見たい人にはおすすめである。自分も、『ブルーベルベット』でリンチ作品に初めて出会った。まだ見ていない人がいれば、ぜひリンチの世界へようこそ。

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
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恐怖の映画史が覆った 『ロングレッグス』の予告編

【最近の私】

今年のアカデミー賞は、『ANORA アノーラ』が5部門を受賞しました。日本でも受賞直前に公開となったので、アカデミー効果でヒットするといいですね。

ニコラス・ケイジは俳優としてのキャリアが40年近いベテランである。1995年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、その後はジャンルをまたいで、数多くの映画に出演している。今回はニコラスの出演作品の中から、3月に日本で公開される『ロングレッグス』(2024年)の予告編を紹介したい。

予告編は、FBI捜査官リー(マイカ・モンロー)がある未解決事件を担当する場面から始まる。この事件は、オレゴン州において30年間で10件起きている。いずれも父親が妻子を殺害し、その後自殺するという事件だ。外部から侵入した形跡はない。そして現場には謎の暗号が残されており、「ロングレッグス」という名前が書かれている。ロングレッグスを追う警察だが、捜査は難航する。やがてリー自身の過去にロングレッグスとの接点があることがわかってくる…。

『ロングレッグス』はサイコサスペンスのジャンルに分類されるだろう。サイコサスペンスとは、異常心理による犯罪を描いた物語である。このジャンルの作品となると、『羊たちの沈黙』(1991年)や、『セブン』(1995年)が思い浮かぶ。どちらも、のちに作られるサイコサスペンス映画に強い影響を与えた作品といってよい。

『ロングレッグス』の予告編を見ると、『羊たちの沈黙』との類似点がある。まず『ロングレッグス』はFBI捜査官が猟奇的事件に関わるが、『羊たちの沈黙』では、FBIアカデミー研修生(ジョディ・フォスター)が事件を担当する。どちらも主人公は女性だ。さらに犯人があるルールに乗っ取って犯罪を重ねるという展開は、『セブン』に通じるものがある。『セブン』はキリスト教の七つの大罪をモチーフに殺人が起こり、刑事たち(ブラッド・ピットとモーガン・フリーマン)が犯人に翻弄される姿を描いていた。

『ロングレッグス』の予告編を見ると、ニコラス・ケイジがはっきり登場しないことに気づく。ニコラスが演じるのは、殺人犯ロングレッグスであろう。白髪に白塗りのような顔が見えるが、一部しか映らない。もしかして、別の事件の犯人役なのか?とも思える。だが、ニコラスは本作で初めてシリアルキラー(連続殺人犯)を演じていると公式サイトに書かれている。謎が多い作品である。

謎といえば、個人的にニコラス・ケイジは謎の俳優と思っている。80年代にコーエン兄弟の『赤ちゃん泥棒』(1987年)やデヴィッド・リンチ監督の『ワイルド・アット・ハート』(1990年)などに出演して注目を浴び、前述の『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞主演男優賞を獲得する。その後、『ザ・ロック』(1996年)や『フェイス/オフ』(1997年)などのアクション大作に出演する。その後『キック・アス』(2010年)など気になる作品はチェックしていたが、以降はニコラスの出演作品の多さに観るのが追いつかなくなり、「なんで、こんなにたくさんの映画に出演するのだろう」という疑問の答えはまだわかりません。

あと『ロングレッグス』を調べていて驚いたのが、監督のオズグッド・パーキンスだ。彼は俳優としても活動しているのだが、父親が『サイコ』(1960年)の主演俳優アンソニー・パーキンスだったのである。『サイコ』はサイコサスペンスの先駆けとなった作品だが、アンソニーの息子が俳優・監督だったのは初めて知りました。しかもオズグッドは『サイコ2』(1983年)でアンソニー・パーキンスの子ども時代を演じていた。

謎が多い予告編ではあるが、ニコラスが初めてシリアルキラーに挑み、サイコな血筋を受け継いだ監督による作品なので、興味はつきない。取りあえず、映画館で事件の真相を見届けてきます!

今回注目した予告編:

『ロングレッグス』

監督:オズグッド・パーキンス

出演:マイカ・モンロー、ニコラス・ケイジ

2025年3月14日より公開

公式サイト:

https://movies.shochiku.co.jp/longlegs/

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お前には黙秘権がある…永遠に ロバート・ツダールin 『マニアック・コップ』

【最近の私】デイヴィッド・リンチ監督が亡くなりました。彼の映画のすべてを自分は理解できてはいないと思いますが、彼の作品群は今まで観た映画の記憶の中で強烈に残っています。

普通、映画の中では、警察官は市民の安全を守るべき存在である。だが、時には悪徳警察官や悪徳医師など、悪の存在として登場する場合がある。今回紹介するのは、『マニアック・コップ』(1988年)でロバート・ツバールが演じた警察官を紹介したい。

映画は、警察官の制服を身に着けている男(ロバート・ツバール)の姿から始まる。男の名前はマット・コーデル。彼は制服を着て夜のニューヨークに出没する。ある時、女性が強盗に襲われる。命からがら逃げている女性の前に、コーデルが現れる。警察官がいて助かったと安心する女性だが、なぜかコーデルに殺害されてしまう。

コーデルは銃を持つだけではなく、剣を仕込んだ警棒を持って獲物を狙う。しかも銃で撃たれてもビクリともしない。警察が捜査を始めるが、さらに犠牲者が増えていく。マスコミからも「犯人は殺人警察官(マニアック・コップ)」と報道され、警察は避難の的となる。さらに市民が拳銃で警察官を撃つという事件まで発生し、街は恐慌状態に陥る。

この連続殺人事件の容疑者として、ジャック巡査(ブルース・キャンベル)が警察から追われる身となる。ジャックは無罪を照明するために犯人を探す。その中で、コーデルという警察官の存在に行きつく。コーデルは優秀な警察官だったが、ニューヨーク市長とその上層部の不正の証拠をつかんでいた。だが、市長の策略で、無実の罪で刑務所に収監される。その刑務所には、かつてコーデルが逮捕した犯罪者たちが待ち構えていた。

恨みを持つ囚人たちにめった刺しにされ、傷だらけの顔と体でコーデルは命を落とす…。これ以上はネタばれになるので言いません。果たして犯人は誰なのか。コーデルの幽霊なのか。

コーデルを演じたロバート・ツダールは、イリノイ州シカゴに生まれる。大学を卒業すると、シカゴで警察官をしていたという経歴を持つ。そして歌手、キーボード奏者として活動したあと、俳優の道を志す。身体的な特徴(大柄な体格と特徴的なアゴ)から、ホラーやアクション映画に出演してきた。本作『マニアック・コップ』(1988年)で人気を得て、その後はシルヴェスター・スタローン主演の刑事アクション『デッドフォール』(1989年)、クリスチャン・スレイター主演のギャング映画『モブスターズ/青春の群像』(1991年)などに出演する。ちなみに『マニアック・コップ』は続編となる『マニアック・コップ2』が1990年に制作され、さらに『マニアック・コップ3/復讐の炎』(1993年)が作られるなど、シリーズ化されている。

ロバートは2015年に64歳で亡くなっているが、インターネットで調べると、ロバートが出演してきた数多くの映画(日本未公開作も多い)が出てくる。タイトルを見る限り、主にホラーやアクションのジャンルのようだが、個性的な風貌で記憶に残っている人も多いのではないでしょうか(自分を含む)。

『マニアック・コップ』は低予算で作られた作品だが、撃たれても死なない設定は『ターミネーター』(1984年)を思わせる。適宜に差し込まれるバイオレンス描写や、終盤のカーチェイスも見どころだ。『死霊のはらわた』(1981年)に出演していたブルース・キャンベルが登場するなど、ホラー映画ファンには根強い人気を得ている。

公開時の宣伝コピー「お前には黙秘権がある…永遠に」は、アメリカで警察官が容疑者を逮捕する際に言う「ミランダ警告」が元になっている。自分も80年代にビデオで初めて見たが、その後も地上波テレビで何度も放送されていたのを覚えている。そして今回、紹介するために久しぶりに『マニアック・コップ』を観ました。何度も観たけど、クセになる、また観たくなる作品なんだろうと思います。

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伝説を、体験せよ。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の予告編

【最近の私】今年のゴールデン・グローブ賞で、デミ・ムーアが主演女優賞を獲得しました。受賞作『The Substance(原題)』は日本公開が決まっているので、観てみたいです。

映画では俳優やストーリーに加え、物語の舞台となる「空間」または「世界」も重要になる。限定された空間で繰り広げられる作品としては、老朽化したバスルームに監禁される『ソウ』(2004年)や地下室に閉じ込められる『ブラック・フォン』(2022年)などがある。今回は、香港のスラム街を舞台にした『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024年)を紹介したい。

予告編は、チャン(レイモンド・ラム)が何かから追われるように走っている場面から始まる。舞台は1980年代の香港。香港に密入国したチャンは、黒社会(マフィア)の掟に逆らって組織に追われ九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)へと逃げ込む。

九龍城砦は、かつて香港に存在した、非常に密集した都市部の地区である。1994年に解体されるまでの数十年間、独自のコミュニティが発展していた。高さが12階建てのビルがびっしりと建てられ、日も差さないほど密集していたという。住人は自ら水道や電気を引き、外部の法律が届かないので、違法な工場や診療所も作られるという、この地域の秩序が形成されていった。また、黒社会が覇権を争ってきた地でもある。

城砦に逃げ込んだチャンは、ここで3人の仲間と出会い、友情を育んでいった。だが、九龍社会のボスたちの抗争にチャンたちは巻き込まれていく…。

本作では、サモ・ハン、アーロン・クォック、リッチー・レンなど豪華キャストも見ものだが、予告編を観ると、本作の主人公はこの砦ともいえる。九龍城砦のセットは10億円をかけて再現されたという。光が差さない、闇がどこまでも続く閉鎖されたそのカオスっぷりも細かく作り上げられているようだ。

予告編だけではなく、本作のメイキングもネットで公開されており、このメイキングを見ると、アクションにも力が注がれているのがわかる。

監督のソイ・チェンは、「香港の漫画っぽい作品にしたかった。リアルな動きに漫画的な動きを加えていった」と話している。映像を見ると、ワイヤーを使って人が空中を舞うなど、香港映画の得意とするアクションが多く使われている。殴られた人がどう吹っ飛ぶかという動きを決めるなど、試行錯誤の末にアクションが組み立てられていくのがわかる。拳法などの手足を使うだけではなく、ナイフや刀、オートバイに乗り、パルクールまで取り入れる、何でもありの大乱戦になっている。メイキングでは、トレーニングの様子も紹介されており、危険な場面は入念な練習の上に成り立っているのだ。CGも使ってワイヤーを消したり風景を合成したりしているのだろうが、最終的には肉体を使って映画を撮っている。監督の目指した「リアルなアクションと漫画の動き」の融合に成功していると思う。

監督のソイ・チェンはバイオレンスアクション『ドッグ・バイト・ドッグ』(2006年)で注目される。以降はVFX大作『西遊記 孫悟空VS白骨夫人』(2016年)や激しい格闘アクション『ドラゴン×マッハ』(2015年)など、さまざまな作品を手がけてきた。

かつては香港に存在した巨大な城砦を舞台に、バイオレンスにカンフー、アクロバットな技を駆使したアクション。さらに香港映画界のレジェンドといえるサモ・ハン(撮影時は70歳超!)をはじめとする俳優たちが結集した大作といえよう。公開時に香港映画史上歴代No1ヒットとなったのも納得である。私も、この戦いの結末を見届けに、映画館に行ってきます!

注目した予告編

『トワイライト・ウォリアーズ決戦!九龍城砦』

監督:ソイ・チェン

出演:レイモンド・ラム、ルイス・クー、サモ・ハン、アーロン・クォック、リッチー・レン

2025年1月17日より公開

公式サイト:https://klockworx.com/movies/twilightwarriors/

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!

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事件の犯人は大統領 ジーン・ハックマンin『目撃』

【最近の私】『28日後…』、『28週後…』の続編、『28 years later』(原題)の予告編を観ました。あの作品世界の28年後がどうなったか気になります。来年の公開が楽しみです。

映画に登場する悪役は、必ずしも犯罪者とは限らない。刑事や医者など、本来なら人の安全を守る、命を救うべき人物が、犯罪に手を染める物語もある。今回は、『目撃』(1997年)でジーン・ハックマンが演じたアメリカ大統領を紹介したい。

本作の主人公は、すご腕の泥棒ルーサー(クリント・イーストウッド)。ある夜、ルーサーは大統領と親しい富豪サリバン(E・G・マーシャル)の豪邸に忍び込む。ルーサーが現金や貴金属を物色している時、誰かが帰宅してくる。それはサリバンの妻クリスティと、もう1人は大統領アラン(ジーン・ハックマン)だった。2人はサリバンの目を盗み、逢瀬を重ねる関係だったのだ。とっさに隠れるルーサー。だが、酒に酔った勢いでアランはクリスティーに暴力をふるい始める。怒ったクリスティーは、ナイフでアランの腕を刺す。そこで別室にいたシークレットサービスがクリスティーを殺し屋と思い射殺してしまう。愛人の死に動揺するアラン。だが大統領補佐官のグローリア(ジュディ・デイヴィス)は、事件を隠ぺいしようとする。この一部始終を「目撃」してしまったルーサーは、凶器のナイフと、クリスティーのネックレスを手に、現場から立ち去る。

今まで数々の犯罪に手を染めてきたルーサーだが、今回は大統領の殺人事件に巻き込まれてしまう。ルーサーは国外に逃亡しようとするが、空港のテレビで大統領アランの記者会見を見る。会見では、アランがサリバンを「私の父親のようなもの。今回の事件の犯人を捕まえてみる」とスピーチする。それを聞いたルーサーは「こんなやつからは逃げない」と大統領に戦いを挑む。

ルーサーは泥棒だが、美術館に通って、絵画の模写を趣味としている。今までに何度か刑務所に入っており、1人娘のケイト(ローラ・リニー)は犯罪者の父親を嫌っている。親子の仲は疎遠になっているが、ルーサーは娘の人生を遠くから見守っている。ルーサーは犯罪者だが、完全な悪人ではない。一方、国のリーダーであるべき大統領のアランは友人の妻と不倫し、暴力をふるって命を奪ってしまった。主人公が完全な善人ではなく、善人であるべき人間が悪事を働くという構図は、イーストウッド監督作『許されざる者』(1992年)(本ブログ誰が許されざる者なのか ジーン・ハックマン in 『許されざる者』https://www.jvta.net/co/cinemach-gene-hackman/)にも通じるものがある。

ルーサーは大統領補佐官にクリスティーのネックレスを送り付け、大統領アランに「俺はすべて知っている」と動揺させる。だが、大統領もルーサーの存在をつきとめ、シークレットサービスのティム(デニス・ヘイスバード)に、娘のケイトの暗殺を命じる。父親が知っていることは、娘も知っているかもしれないと疑う大統領は、ティムに「愛国心をみせるんだ」と無茶な命令を下す。そしてティムは娘を殺害するために計画を実行する。ティムを演じたデニス・ヘイスバードは、TVドラマ『24 -TWENTY FOUR-』(2001~2006年)でアメリカ大統領に扮していた。大統領のシークレットサービスを演じた俳優が、その後に大統領を演じるというのも、面白い偶然だ。

ジーン・ハックマンは先述の『許されざる者』で悪役を演じ、その年のアカデミー賞助演男優賞を受賞している。本作でも再びイーストウッドと組み、暴力性を秘めた大統領という役を見事に演じている。さらに大統領補佐官のジュディ・デイヴィスも、事件を隠すためにはルーサーの命を取ることも辞さない非情さを見せている。ベテラン俳優たちの共演も本作のポイントだ。カーチェイスや銃撃戦など、派手なアクションはないが、面白いサスペンス映画が見たいと思っている人にはおすすめの1本である。

※人物名は字幕の表記に統一

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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ビールを飲んでゾンビの世界を生き抜け『ショーン・オブ・ザ・デッド』の予告編

【最近の私】来年公開の『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の予告編が公開されました。トムのスタントも相変わらずすごいですが、これがシリーズの「ファイナル」になるのか、気になります。

最近はリバイバル上映が増えている。1970年代~2000年代のヒット作・名作はファンが多く、大きなスクリーンで観たいという人が多いからではないか。今回はそのリバイバル作の中から、イギリス映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年・以下『SOD』と略)の予告編を紹介したい。

ロンドンの電気量販店に勤務しているショーン(サイモン・ペッグ)は、同居している友人エド(ニック・フロスト)とゲームで盛り上がり、またパブで飲むことを楽しみにしている。そのため、恋人リズから愛想を尽かされてしまう。リズに振られてやけ酒を飲みすぎた翌朝、ショーンが目を覚ますと、街中にゾンビがあふれていることに気づく。テレビでも「ゾンビを倒すには頭部を破壊するしかない」と物騒なニュースが流れている。

そしてショーンとエドの自宅もゾンビたちの襲撃を受ける。2人はゾンビを倒すためにレコードを投げるが、「どのレコードにする?プリンスのアルバムはだめ、映画のサントラにするか」など、ゾンビが襲ってくる中でも、どのレコードを投げるか決めている場面は笑えます。

『SOD』はイギリスで公開されてヒットを記録する。だが当時日本では公開されず、DVDリリースのみになった。主人公たちがゾンビであふれる世界でもマイペースで危機を乗り越えようとするユーモア、パブやクリケットのラケットを武器にするなど、イギリスならではの設定も取り入れている。特殊メイクによる残酷描写もしっかり出てくるので、ホラー好きにもコメディ映画好きにも高い評価を得たのも納得できる。本作を監督したエドガー・ライトは『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』(2013年)、『ベイビー・ドライバー』(2017年)などを手がける人気監督になった。出演コンビのサイモン・ペッグとニック・フロストも今ではハリウッド映画に出演する俳優になり、3人にとってブレイクするきっかけになった作品である。

予告編に戻る。ショーンは恋人や友人たちとゾンビに囲まれてしまう。絶体絶命の危機をどうするか。そこでショーンたちは自分たちもソンビのふりをして歩き、そのピンチを切り抜けようとする。これまでのゾンビ映画の中で、登場人物たちがゾンビのふりをするのは、あまり見たことがない。ありそうでなかった展開である。そしてショーンたちは、行きつけのパブに逃げ込む・そこでビールを飲みながら、ゾンビ騒動が収束するまで待とうという計画だ。

『SOD』はゾンビ映画の代表的作品『ゾンビ』(1978年)へのオマージュとなっており、ゾンビの頭部を破壊すれば死ぬ、ゾンビに襲われた人間もゾンビになるというルールも『ゾンビ』を継承している。そして、『ゾンビ』で生き残った人間たちがショッピングモールに逃げ込むが、パロディとしてパブに立てこもるのだ。

『SOD』は2019年に限定的に劇場公開されており、今回はDVDリリースから20周年記念として、再びスクリーンに戻ってきた。だが今回の上映も10月18日から2週間の上映となっており、すでに終了してしまっているのが残念である。だが現在は配信でもレンタルでも視聴ができるので、もし未見の人がいれば、ぜひ観ていただきたい作品です。自分もビールを片手に、もう一回観てみたいと思います!

今回注目した予告編

『ショーン・オブ・ザ・デッド』

監督:エドガー・ライト

出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト

予告編 https://www.youtube.com/watch?v=kvdTdQ5MvnY

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子どもが消える時、恐怖のピエロが現れる ビル・スカルスガルドin『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』

【最近の私】今月末から東京国際映画祭が開催されます。トニー・レオンがコンペ部門の審査委員長に。他にもゲストが大勢来るそうなので、盛り上がるといいですね。

今年もハロウィンの季節が来た。当コラムでは、ハロウィンの時期になるとホラー系の映画の予告編や悪役を紹介している。今回は、2017年のホラー映画『IT/イット “それが見えたら終わり。』(以下『IT』と略す)でビル・スカルスガルドが扮した恐怖のピエロを紹介したい。

物語の舞台は1988年10月。メイン州デリーの小さな町。どこにでもある穏やかな町のように見える通りで、少年ジョージーが、兄の作ってくれた紙の船を水に浮かべて遊んでいた。その船が排水溝に流れこみ、覗き込んだジョージーが、闇に潜むピエロにつかまり、引きずり込まれてしまう。映画は強烈な場面から始まる。

弟の失踪で自分を責めるビルは、夏休みの間に親友たちとジョージー失踪事件を調べようとする。そして、この町では、27年ごとに子どもたちが大勢失踪していることに気づく。そして、事件の背後にはピエロの姿をしたペニーワイズ(ビル・スカルスガルド)がいることを突き止めるが、彼はビルと親友たちの前に現れるようになった。

ペニーワイズは子どもたちに恐ろしい幻覚を見せる力を持っている。ペニーワイズは、少年少女たちの恐怖に怯える心を糧にして生きているからだ。この幻覚は、子どもたちの個人的な恐怖(弟の失踪、学校でのいじめ、家庭環境など)を反映させて幻覚として見せる。だがビルたちは、ただ恐怖に怯えているだけではない。それぞれの恐怖に打ち勝ち、ペニーワイズに立ち向かおうとする。この作品はホラーでありながら、ビルたちが協力して成長する姿を描いている。舞台が80年代ということもあり、ちょっとノスタルジックな『スタンド・バイ・ミー』(1986年)を思わせる青春物語でもある。

『IT』はホラー作家スティーヴン・キングの小説が原作である。1990年に『IT/イット』としてTVドラマ化されている。原作が大長編なので、2部作のドラマとなった。このドラマ版ではティム・カリーがペニーワイズに扮していて、このピエロも怖かった記憶がある。

2017年の映画版で、ペニーワイズを演じているのはビル・スカルスガルド。1990年にスウェーデンで生まれた。父親は『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)などに出演しているベテラン俳優ステラン・スカルスガルド。兄アレクサンダー・スカルスガルドも『ターザン:REBORN』(2016年)で主役を演じており、母国だけではなくハリウッドでも活躍している俳優ファミリーである。

ビル・スカルスガルドは2010年のスウェーデン映画『シンプル・シモン』(2010年)で注目を浴び、Netflixのホラードラマ『ヘムロック・グローブ』(2013年~2015年)、映画『ダイバージェントFINAL』(2016年)などに出演し、以降はハリウッドでも俳優活動を行っている。最近では、ブランドン・リー主演でカルト的人気を得ている『クロウ/飛翔伝説』(1994年)のリブート版『The Crow』(原題、2024年)で主役を演じている。予告編を観ると、ダークな世界観が受け継がれており、日本公開を期待したい。

『IT』でスカルスガルドが演じるペニーワイズは白塗りのピエロメイクも不気味だが、彼は監督と一緒に奇怪な笑い声や体の動きなども作り上げたという。また撮影中には、少年少女の俳優たちとは緊張感を保つために、距離をおいて1人で過ごすなど、役作りにもさまざまな苦労があったのは想像できる。ホラー映画が好きな人にはもちろん、“ペニーワイズが怖そうだけど、ちょっと観てみたい”と思う人にも、観ていただきたいです。

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テレビ史上最恐の放送事故。 『悪魔と夜ふかし』の予告編

【最近の私】

今回紹介した作品以外のホラーで気になるのは『破墓/パミョ』です。予告編を観ただけで、ただならぬ雰囲気が出てますね。面白そう。

映画にはファウンド・フッテージという手法がある。撮影者が行方不明、または埋もれていた映像が見つかる。その映像(ビデオテープやフィルム)が公開されるという設定だ。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)のヒットにより、この手法を取り入れた作品が多く作られるようになった。今回はそのファウンド・フッテージ作品として10月に公開される『悪魔と夜ふかし』(2023年)の予告編を紹介したい。

予告編は「あるテレビ番組の生放送のマスターテープが発見された―」というテロップから始まる。

深夜トーク番組『ナイト・オウルズ』は視聴率を取れず低迷が続いていた。視聴率調査週間にあたるハロウィンの日、番組の司会者ジャック(デヴィッド・ダストマルチャン)は、生放送のオカルトショーを企画する。

そして1977年のハロウィンの夜。ジャックの「夜ふかしの皆さん、こんばんは」から恐怖の番組が幕を開けた。番組に登場するのは、霊能者、悪魔祓いなど、どれも本物か怪しい人たちだ。私も70年代に幼少時を過ごしたので、テレビでスプーン曲げや心霊写真など、テレビ番組で(特に夏に)オカルト特集が組まれていたのを思い出した。『ナイト・オウルズ』のセットも時代を反映したレトロ調である。

そこで、1人の少女リリー(イングリッド・トレリ)が番組に登場する。リリーは、ジューン博士(ローラ・ゴードン)が書いた『悪魔との対話』で、悪魔がとりついた少女のモデルである。番組のスタジオで大勢の観客が見守る中、ジューン博士のもとで、テレビ史上初めての悪魔の生出演が実現する。

椅子に手を縛られたリリーの様子に変化が現れてくる。何かがとりついたように。

海外では「満足度97%」や「愉快なトークショー版エクソシスト」と称されている。『エクソシスト』は、悪魔に取りつかれた少女と、神父の戦いを描いたオカルト映画の金字塔である。この映画が作られたのは1973年だ。また、オカルト映画としては『オーメン』(1976年)も有名だ。この頃から書籍やテレビなどでオカルトブームが起こる。オカルト以外にもUFOやネッシー、ノストラダムスの大予言などがメディアに登場していた。今のようにインターネットや動画もなく、テレビや雑誌、書籍などが情報源だった時代である。

予告編に戻る。番組の途中でジューン博士が、リリーの様子を見て恐怖を感じる。だがジャックは「もう止められない。視聴率を取らなきゃ」と番組を続行する。博士の心配をよそに番組は高視聴率を記録する。そしてリリーがジャックに「久しぶりだな」と話しかける。ジャックを知る何かが彼女にとりついたのか。はたして、番組のクライマックスはどんな事態になるのか…。

本作は日本公開前から、海外ホラー映画好きの人たちが『Late Night with the Devil』(『悪魔と夜ふかし』の原題)は面白そうだとSNSで話題にしていた。現在は、海外版の予告編も見ることができて、未公開作品の情報を得ることができる。SNSは便利で喜ばしいこともある。だが、作品の展開に関わるような写真も流出しているので、未見ながら知ってしまうこともあるのが、便利だがSNSの困ったところである。

司会者を演じるデヴィッド・ダストマルチャンは過去に他の映画で見たことはあるが、他の出演者は知らない俳優ばかりだ。監督もオーストラリア出身の兄弟、コリン&キャメロン・ケアンズという初めて知る名前だ。だがそこが、どんな映画を見せてくれるのか、未知の楽しみであり大いに期待している。とりあえず、これ以上はSNSを見ずに、映画館で悪魔のショーを体験してきます!

今回注目した予告編

『悪魔と夜ふかし』

監督:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ

出演:デヴィッド・ダストマルチャン、イングリッド・トレリ、ローラ・ゴードン

2024年10月4日より公開予定

公式サイト:

https://gaga.ne.jp/devil/

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映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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