これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第137回 “PLURIBUS”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第137回“PLURIBUS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『プルリブス』 本予告
“BrBa”のクリエーターによるSci-Fiスリラー!
「史上最高のテレビドラマ」との誉れ高い“Breaking Bad”(“BrBa”)。この至高のクライムドラマを生んだヴィンス・ギリガンの最新作が本作だ(舞台も再びアルバカーキ!)。
“Pluribus”はApple TV(旧Apple TV+)オリジナル。癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
(※)pluribus:多数、多数から。語源はアメリカ合衆国を表すラテン語「E pluribus unum(多数からひとつへ)」。
“We Is Us”
—14か月前
天文学者たちが、600光年先の深宇宙から発信されたシグナルを発見した。おそらく人類誕生時から送られ続けていたものだ。ようやく解読すると、それはコード化されたRNAの配列データで、生物というよりウイルスに近いものだった。
—29日前、米国陸軍感染症医学研究所
政府の極秘プロジェクトに携わる研究者が、実験用マウスに噛まれて溶原性ウイルスに感染。所内で集団感染が発生した。
—現在、ニューメキシコ州アルバカーキ
キャロル・スターカ(レイ・シーホーン)は新作発表ツアーを終えて、マネージャーで妻のヘレンと共にアルバカーキ空港に到着した。キャロルは、官能歴史ロマンス『ワイカロの風シリーズ』を大ヒットさせたベストセラー作家だ。だが皮肉屋で気難しく、自分の低俗な作品にうんざりしている。
深夜になって、2人は空港近くのバーを出た。
突然、キャロルを除く街中の人々が、全身を硬直させながら痙攣し始めた。特にヘレンは症状がひどく、呼吸をしていない。
人々の痙攣は数分で収まり、次々と立ち上がった。みんなフレンドリーで、心配そうにヘレンの周りに集まってくる。だが様子がおかしい。
ヘレンは死んだ。体が痙攣のショックに耐えられなかったようだ。茫然自失のキャロルは何とか彼女の死体をトラックで自宅まで運び、家に立てこもった。
唯一放送しているテレビ局の緊急連絡先に電話をすると、画面に映っているホワイトハウスの閣僚につながった。その閣僚は‘彼ら’の代表で、大統領は死亡し、パンデミックは地球を席巻しているという。今や世界中で人々がウイルスに感染して意識を同化させ、「幸福」を感じている。免疫があるのはキャロルを含めて世界でわずか12人。
代表は、彼女にも‘彼ら’の仲間になって欲しいという。
翌朝、キャロルの‘付き添い’となるゾーシャ(カロリーナ・ヴィドラ)が現れた。
レイ・シーホーンの一人舞台!
レイ・シーホーンは、“BrBa”の前日譚“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)の弁護士キム役でブレーク、エミー賞助演女優賞に2度ノミネートされた。今回は、最後まで「幸福」を拒絶するキャロルを壮絶に演じて、本年度のゴールデングローブ賞の最難関だった主演女優賞を勝ち取った。
本作はシーホーンの一人舞台だ。
ゾーシャ役のカロリーナ・ヴィドラはポーランド出身で、これが初の準主役級。シーホーンとの間には磁力のようなケミストリーが働き、キャロルとゾーシャの微妙な関係を刺激的なものにしている。
‘パラグアイの謎の男’マヌッソスを演じたカルロス・マヌエル・ベスガは、コロンビア生まれのベテランアクター。アメリカン・ドラマは初出演ながら重要な脇役を熱演した。
「‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。」
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のヴィンス・ギリガンは、社会現象となった懐かしいSci-Fiドラマ“The X-Files”の制作・脚本に関わり頭角を現した。2008年以降、“BrBa”、“Better Call Saul”、さらに後日譚となるTVムービー“El Camino”を送り出し、“BrBa”フランチャイズを不動のものとした。
ギリガンは実にエミー賞に23回(受賞4回)、ゴールデングローブ賞に4回(受賞1回)ノミネートされている。
人々がすべての知識・経験・スキルを共有し、戦争・犯罪もあらゆる差別もない世界。個人という概念は存在せず、そこにあるのは平和・愛・理解、そして完全な公平と平等。つまり、理屈の上では100%幸福な世界だ。
これは果たしてユートピアか、ディストピアか?
本作はSci-Fiドラマと言っても、スペースシップやエイリアンが登場するわけではない。B級感が漂う、ブラックユーモアに満ちた心理スリラーだ。
劇中キャロルが一連の出来事に例えて言及するのは、SF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)。人々の意識が同化する“hive mind”の概念は、“Star Trek: The Next Generation”のボーグを連想させる。もっとも、本作における‘彼ら’の実態は「ヒューマノイド型生成AI」に近い。
エンドクレジットに“This show was made by humans”とメッセージが出るが、いかにもAI嫌いのギリガンらしい。
‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。そして主人公の使命は、世界中の「幸福な人々」を元の生活に戻すこと。確固たる世界観に裏付けられた、この笑えないほど皮肉な設定は強烈に効いている。
欠点は幾つかある。中盤にダレるストーリー、クセの強いキャロルのキャラ、消化不良気味のエンディングなど。
だがスリリングなパイロット(第1話)、オリジナリティのあるプロット、シーホーンの圧巻の演技、ギリガン流の奥行きのある映像美、そして次シーズンへの期待感(シーズン2まで契約済み)が欠点を補って余りある。
“Pluribus”は、癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
原題:Pluribus
配信:Apple TV
配信開始日:2025年11月7日~12月24日
話数:9(1話 42-62分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(1月~3月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。
●“Hacks: S1-S3”(日本未公開)
エミー賞主演女優賞4連覇!74歳のジーン・スマートが伝説的な女性スタンダップ・コメディアンに扮する、辛辣な笑いと苦い感動に包まれたHBOの看板ドラマ!
(U-NEXTが配信してくれないのでUSA版DVDで観た。)
●“SEAL Team”(『SEAL Team シール・チーム』、U-NEXT)
“Angel”、“Bones”のデヴィッド・ボレアナズ主演、SEALs(米国海軍特殊部隊)の過酷な任務と葛藤をリアルに描き切った傑作アクションシリーズの最終シーズン(S7)!
●“The Lowdown”(『ローダウン 独自調査ファイル』、Disney+)
ハードボイルド・ファンにお勧め、イーサン・ホークが不屈の二流ジャーナリストを渋く演じるコメディタッチのクライムドラマ!(この副題は何とかならないか?)
●“The Hunting Wives”(『ハンティング・ワイブス』、Netflix)
テキサスのセレブ妻たちの醜聞・欺瞞・秘密が乱れ飛ぶ、低俗でお下劣で強烈な中毒性のあるエロティック・クライムスリラー!(これぞ“guilty pleasure”!)
●“Star Trek: Starfleet Academy”(『スター・トレック:スターフリート・アカデミー』、Paramount+)
シリーズ生誕60周年記念の最新作は、若き士官候補生たちの夢、友情、成長を活写する青春Sci-Fiドラマ!(67歳〈撮影時〉のホリー・ハンターの魅力爆発!)
●“Wonder Man”(『ワンダーマン』、Disney+)
スーパーパワーを隠して役者として生きる若者と落ちぶれたベテランアクターとの友情を描く、マーベル・ユニバースの愛すべき小品!(トレヴァー役で再出演のベン・キングズレーが唸るほど上手い!)
●“A Knight of the Seven Kingdoms”(『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』、U-NEXT)
“Game of Throns”の100年前を舞台に、根無し草の気のいい騎士と聡明な少年従士との絆を描く小粒なスピンオフドラマ!
●“F.B.I.”(『FBI:特別捜査班』、hulu)
FBIニューヨーク支局の現場捜査員とハイテク分析チームが、テロリスト、暗殺者、シリアルキラー、誘拐犯等を追い詰める現在最高の警察ドラマ、充実のS7!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。







