直訳するか、省略するか、意訳するか。SSFF&ASIA 2025上映作品を翻訳した字幕翻訳者にインタビュー

JVTAが20年以上にわたって字幕翻訳でサポートしている国際短編映画祭 「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2025」(SSFF & ASIA 2025)が5月28日(水)より開幕。今年も世界108の国と地域から4,592点の応募が集まり、その中から厳選された約250作品が上映となる。その上映作品のほとんどは、100名以上のJVTA修了生によって翻訳されている。今回は特に注目度の高い2作品について、字幕翻訳を担当したJVTA修了生2名に話を聞いた。
翻訳者インタビュー①『マリオン』(MARION)

インターナショナルプログラムにおける注目作のひとつは、ケイト・ブランシェットとシエナ・ミラーがプロデュースを務めた『マリオン』。フランスで唯一の女性闘牛士であるマリオンを主人公とした物語だ。セリフは少ないながらも、マリオンの表情や佇まいから、彼女の静かで強い抵抗や覚悟が伝わってくる作品である。
本作の日本語字幕は、修了生の林萌子さんが担当。林さんにとって、本作が初めての短編映画翻訳となった。
尺が短い短編映画では、セリフ一つひとつの影響が大きい。言葉を削りすぎると情報が伝わらず、語りすぎると作品の空気を壊してしまう可能性がある。そのバランスの見極めが難しくもあり、おもしろい点でもあったと林さんは言う。
「セリフの背後にある想いや語られない背景を、最小限の言葉でどこまで伝えられるか。そこに短編映画の翻訳ならではの魅力があると思います」(林萌子さん)
セリフが少ない作品だからこそ、表情や間、視線の揺らぎ、緊張感といった非言語の要素が重要だと林さんは考え、言葉にされていない想いや葛藤を読み取ることを意識。そしてその繊細なニュアンスを壊さないよう、「語りすぎないこと」に特にこだわった。どこまで言葉を削ぎ落とし、どこに余白を残すか。そのさじ加減に悩みつつも1枚1枚の字幕に丁寧に向き合い、マリオンの静かな強さや、声にならない感情が字幕から伝わるように翻訳に取り組んだ。それと同時に、「見る人によって様々な解釈ができる作品」であることも大切にした。字幕によって感じ方を狭めることなく、それぞれの解釈を楽しめるように心がけて翻訳していった。
翻訳者インタビュー②『NIGEMIZU』

ジャパンプログラムの注目作のひとつは、アオイヤマダと松田ゆう姫主演の『NIGEMIZU』だ。海辺の家を舞台に繰り広げられるサスペンス作品である。本作の英語字幕は、修了生の林臻(Chen Lin)さんが担当した。
本作の内容について、林さんはまず「様々な『対比』が印象的だった」と言う。
「主演2人の性格や色、ファッションの違い、そして人物自身の『表』と『裏』が丁寧に描かれており、そういった対比が印象的でした」(林臻(Chen Lin)さん)
その対比に関する表現は、英語字幕の制作にも影響を与えている。セリフの英訳自体は難しくなかったものの、その分「言葉選び」が重要となった。正反対の性格をしている2人の主人公には、同じことを言っていても異なるニュアンスがある。特にアオイヤマダが演じる「アオイ」は活発なキャラクター性であるため、少しポップで明るい言い回しになるように調整した。
翻訳中、JVTAの授業での学びを思い出す出来事があった。作中の「ちゃんと塩入っている?」というセリフを訳している時である。林さんはこのセリフについて、最初は調味料全般のことだと考えてseasonという動詞でまとめようとしていた。しかし対象となっているアクアパッツァの歴史や調理工程を調べる中で、「ここは原文に沿ってsaltを使うべきだ」と気づいたと言う。
「本作のように独特の雰囲気のある映画では、意訳を多用することがあります。しかし、考えすぎると原文の意図とズレが生じることもあると実感しました。このセリフを訳しているとき、授業で聞いた『結局、直訳が一番シンプルで良かったかもしれない』という言葉を思い出しました」(林臻(Chen Lin)さん)
短編作品だからこそ求められる「映像翻訳者の力量」
短編作品は尺が短いため、セリフが少なかったり物語の背景が詳細に説明されなかったりすることが多い。そんな中、登場人物のセリフや行動、ストーリーの展開やBGMの変化にまで気を配り、作品を読み解き最適な字幕を作る必要がある。尺が短いから簡単ということは決してなく、むしろ映像翻訳者としての力量が試されるのが短編映画の翻訳である。
今回紹介した2作品だけでなく、SSFF & ASIA 2025では多彩な作品が上映される。この機会に1本でも多く鑑賞し、短編映画ならではのストーリー展開や表現方法を堪能してほしい。多種多様な作品に触れることは自分の楽しみになるだけでなく、映像翻訳者として成長するための糧にもなるはずだ。
【開催概要】
ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2025
東京会場開催:2025年5月28日(水)~6月11日(水)
オンライン グランド シアターでの上映
4月24日(木)~6月30日(月)
※期間により配信プログラムが異なります
『マリオン』上映情報
2025年6月8日(日)19:30~21:20 @WITH HARAJUKU HALL
2025年6月12日(木)~ 6月30日(月) @オンライン グランド シアター
『NIGEMIZU』上映情報
2025年5月30日(金)15:40~17:30 @表参道ヒルズ スペース オー
2025年6月12日(木)~6月30日(月) @オンライン グランド シアター

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