「日本の素顔を見たい」世界最大の日本映画祭ニッポン・コネクション

ドイツに日本映画だけを特集した映画祭があることをご存じだろうか?今年で25回目となる日本映画祭「ニッポン・コネクション」(以下、「ニチコネ」)が、2025年5月27日から6月1日までドイツのフランクフルトで開催された。上映された作品数は約100本、関連イベントも70を超えるこの世界最大の日本映画祭は、100名以上の日本文化・映画ファンがボランティアベースで運営しており、スタッフの心のこもった温かみのある対応も特徴だ。ドイツ国内やヨーロッパはもちろん世界各国から映画関係者や、日本映画・文化ファンが集結、熱気に包まれた現地での様子と、欧州での日本コンテンツ人気の理由をお届けする。

2025年5月27日から6月1日まで約100本の日本作品が上映されたニッポン・コネクション
「ニチコネをJVTAがサポートする理由」
JVTAは2010年から、「日本の映像コンテンツを海外で多くの人に見てもらいたい」という思いを共にするニチコネをスポンサーとしてバックアップ。ニッポン・ヴィジョンズ審査員賞の受賞者の次回作品へ、字幕を無償提供している。さらにJVTA講師が全面協力し大学生が短編映画に英語字幕をつける海外大学字幕プロジェクト(GUSP)の完成作品をニチコネで毎年上映している。
今年、見事ニッポン・ヴィジョンズ審査員賞に輝いたのは、草場尚也監督の『雪子 a.k.a.』。小学校教師の雪子がラップを通して葛藤する姿を描くとともに、教師という仕事の明暗も浮き上がらせる社会派の作品だ。監督に今の思いを伺った。
『雪子 a.k.a.』をニッポン・ヴィジョンズ審査員賞に選んで頂き、大変光栄です。
私は今回、リモートでの挨拶しか出来ませんでしたが、映画祭に参加したプロデューサーの岩村から、温かく熱狂的な観客の皆様に支えられたと聞きました。
東京都で働く雪子先生の生き方が、国境や言語を越えて肯定してもらえたようで嬉しく思います。
劇中の登場人物たちが徐々に連帯していくように、世界中の人たちと繋がれる映画祭に感謝しています。
次回作こそは私もフランクフルトを訪れ、その街並みや人々に触れてみたいです。(草場尚也監督)
草場監督の次回作はJVTAの字幕で、国境を越えてより多くの観客へ届けられる。『雪子 a.k.a.』は今年1月から全国の映画館で上映しており、6月からは神奈川県や新潟県、大分県や宮崎県などでの上映が予定されている。詳しくは作品ホームページをチェックしてほしい。今から草場監督の次回作が待ち遠しい。
「日本語の喋り言葉って難しい」
会期中大勢の観客や映画関係者でにぎわう現地会場では、GUSPの短編作品上映後、字幕作成を担当した学生たちへに感想を聞いた。
インタビューに答えてくれたのは、ハインリヒ・ハイネ大学(ドイツ)のリサ・フォルチさん、オクサナ・フィービグさん、 ゲント大学(ベルギー)のシス・マテーさん、ジャファ・ロンさんの4名。

作品の上映後、会場からの質問に答える学生たちとプログラム・ディレクターのフロリアン・ヘア氏
-字幕作成お疲れさまでした!会場で作品を観た感想はいかがですか?
・ほっとしています!私たちが担当したのは『サンライズ』という作品でしたが、作中に何度も出てくる缶コーヒーが一体何を意味しているのか、作品解釈をすり合わせるのが一番苦労したところです。(オクサナさん)
・よくできたと思います。私は「いい塩梅」という表現に一番苦労して何度も書き換えました。作品をスクリーンで観ながら当時の苦労を思い出しました。(リサさん)
・私たちが担当した『ちあきの変拍子』では、「我慢」という言葉が何度も出てきます。でもシーンごとの文脈で適切な単語は変わっていきます。それに若者の喋り言葉は授業で習う日本語とは全然違っていて、何を言っているのか聞き取れず苦労しました。(シスさん)
-今回は2作品ともに若者の葛藤を描いたものでしたが、普段はどんな作品が好きですか?
・私が日本に興味を持ったきっかけはアニメで今も好きですが、学校で日本語を学ぶ機会があり、今では英語よりも日本語の方がうまく喋れるほど日本語にハマりました。だから日本の作品は何でも観ますよ。(ジァファさん)
・私は子どものころ漢字についてのドキュメンタリーを観て以来、日本に興味を持ち始め、昨年は日本に留学もしていました。日本語を勉強していると言うと「アニメ好きなの?」と言われることが多いですが、私は今回担当した作品のような、日本の日常の様子が垣間見える作品が好き。デフォルメされていない日本が感じられる作品がもっと観たいです。(リサさん)
・『サンライズ』では主人公の感情が昂ると、突然男性口調になる。日本の女の子も本当はこういう風に喋るんだろうな、と本当っぽさを感じました。こういう日本人の素の部分が見える作品は面白いですね。(オクサナさん)
・私はアニメや漫画には興味はないのですが、実験的作品をもっと世に出してほしいと思います。(シスさん)

会場でお話を伺ったリサ・フォルチさん、オクサナ・フィービグさん、シス・マテーさん、ジャファ・ロンさん(左から)
また、会場ではニチコネのプログラム・ディレクターのフロリアン・ヘア氏に映画祭と字幕の関係性について伺った。 「字幕がなければ私たちは日本作品の内容をほとんど理解できないが、その大切さを理解している観客は少ない。字幕というのはセリフをそのまま訳出すればいいわけではない、非常に技術の必要な作業だ」。さらに「AIが字幕を作れるようになるかという話題は必ず出てくるが、登場人物の複雑な内面の葛藤などを表現するのは人間でなければできない作業ではないか」と字幕の未来にも言及した。

立ち見客が出るほど盛況だった『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』
「日本映画には驚かされることが多い」
映画祭25周年を記念し、フランクフルター・アルゲマイネ紙の取材の答えたニチコネ運営代表者のマリオン・クロムファス氏は、日本映画の特徴をこう語る。「日本映画には驚かされることが多い。ドイツでは、脚本は一定の基準を満たさなければならないことが多く、5分後には何が起こるかわかっていることが多い。日本映画では、登場人物や主演俳優など、まったく分類できない人物に出会うことがある。物語はどこへ向かうのか?この点に、私は今でもワクワクさせられるのです」。2000年に大学生だったクロムファス氏が、大学内で日本映画上映会という形で立ち上げたニッポン・コネクションは、今年、来場者2万人の規模まで拡大した。
「日本作品ブームの理由」
ちなみに、ここ数年、ヨーロッパの大型書店では日本コンテンツコーナーが拡大し続けている。世界中で大人気の漫画に加え、日本の文学作品も大きな支持を集めているのだ。2024年に出版された翻訳文学作品のトップ40のうち、43%が日本文学で、そのトップは柚木麻子の『BUTTER』。統計が出されたガーディアン紙*によると、日本作品の人気の理由のひとつは「西洋の作品に比べて白黒はっきりしない」ところなのだそう。善と悪の境界線があいまいで、悪者が実はいいヤツだったり、善人にも欠点があったり。日本というほどよいエキゾチック感と日本のあいまいさ、柔らかさが海外の日本作品ブームの理由のひとつだという。映画にせよ文学作品にせよ、もしかしたら海外のオーディエンスは私たちが気づかない日本らしさを見いだしているのかもしれない。

毎年趣向を凝らした映画祭のパンフレット
「日本への思いにあふれる映画祭」
映画祭ではアニメ、長編、短編、ドキュメンタリーなど多彩な映画上映に加え、料理教室、相撲体験、バンド演奏、カラオケ、ラジオ体操(!)などなど、多岐に渡る催しものが企画され、映画上映以外の時間もにぎわった。「近くに住んでいて、催し物があると聞いて」と子ども連れで訪れる人もいれば「アニメが大好き」という人、「旧作を上映するから」という通な映画好きも。そして、多様な人が多様な日本の姿に触れることのできるこの映画祭は、冒頭にも書いたが、運営ボランティアの熱意なしではありえない。
今も遠く海の向こうで、日本のコンテンツへ熱い視線が注がれている。
by Yuko Naito

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