【東京国際映画祭が開催】映画祭ガイドと公式プログラムの英訳でも映像翻訳者が活躍

10月27日(月)、第38回東京国際映画祭(TIFF)が開幕する。TIFFは、1985年に日本ではじめて大規模な映画の祭典として誕生。才能溢れる新人監督から熟練の監督の作品まで、世界中から厳選された映画が集結し、毎年メディアでも大きく報道される人気のイベントだ。JVTAは今年も公式プログラムの英訳やデイリーペーパーの翻訳などを担当し、JVTAで映像翻訳を学んだ翻訳者が活躍している。公式プログラムと映画祭ガイドの英訳を手がけたキンチョ・コスタさんに話を聞いた。
◆東京国際映画祭 トレイラー
歴史ある国際映画祭とあって、公式プログラムと会場で配布される映画祭ガイドは2カ国語となっており、昨今JVTAがその英訳を担当している。映画祭ガイドでは、作品名、監督名、出演者、作品の解説などが英語と日本語で併記されているが、2つの言語は同じスペースに配置され、同じ字数制限に合わせることが必須だ。英訳には漢字が使えないうえ、題名や人名の場合は字数がすでに決まっている。キンチョ・コスタさんは、なるべく簡潔に情報を伝えようとしたが、結局、英訳には情報を省略することが必須だったと話す。

「最も難しかったのは、作品に関するネタを徹底的に調べながら、その情報を取捨選択し、文章のトーン、そして書き手が伝えたいことをきちんと守りつつ、情報を削ることでした」(キンチョ・コスタさん)
映画祭では、プレミア上映作品、初めて英語字幕付きで上映される作品、過去の古い名作などさまざまな作品が上映される。翻訳者はただ日本語のテキストを訳すだけではなく、各作品の背景やストーリーの詳細を詳しく調べたうえで英訳に反映していく。コスタさんは、JVTAの授業で学んだテキスト翻訳やストーリー分析などの知識を活かし、リサーチで得た情報をもとに作品とキャラクターを理解し、最も中心的な情報を抜き出した。
「日本語のガイドには載っていない情報をリサーチで得た場合、英語でそのニュアンスを伝えるべきか、それともネタバレになるのかという判断も難しかったです。」(キンチョ・コスタさん)

また、会場で販売される公式プログラムには、作品の概要だけでなく、映画祭関係者の挨拶や上映プログラムの解説なども記載されている。こうした英訳には、コスタさんが日頃手がけるビジネス系動画の字幕制作やアニメプロジェクトの経験も役立った。
「映画祭関係者の挨拶などを英訳する際には、英語の自然さを保ちながら、一人ひとりの個性的な文章の表現や口調を伝えることを大切にしました」(キンチョ・コスタさん)
◆東京国際映画祭 映画祭ガイド
※下記からダウンロードはこちら(映画祭公式サイトにリンクします)
東京国際映画祭では、国内外の映画祭の受賞作品も上映される。コスタさんは、今年の「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025」に出品され、コンペティション部門SKIPシティアワードを受賞した『長い夜』(草刈悠生監督)の英語字幕制作にも携わった。2年前に海に消えたカイと恋人の真理、親友の光一の複雑な心の動きを追った注目作。この作品についてコスタさんは、演出が繊細で、メインキャストの自然主義的な演技も素晴らしかったと振り返る。
◆『長い夜』(草刈悠生監督)
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字幕を作るうえでチャレンジングだったのは、非常にゆっくりとした対話のペースだという。セリフの間に長いポーズが挟まれているがセリフ自体は短く簡潔で、日本語のニュアンスを英語でも簡潔に伝える必要があった。
「3人のチームで字幕を担当したのですが、私のパートでは真理と光一の喧嘩のシーンも含まれていました。そのシーンの対話やキャラクターの怒りが非常にリアルに感じられたので、そのクオリティを英語字幕でも保ちたいと思いました。しかし、このシーンではセリフがパパパと続くため、それまでのゆっくりしたペースで読める字幕のリズムを崩さないよう、さまざまな工夫を凝らしました」(キンチョ・コスタさん)
キャラクターの立場に立って、彼らの「声」を探す過程で、欠点も含めて各キャラクターに親しみを感じるようになったというコスタさん。最後の海のシーンで彼らを見て心が浄化されるような気持ちになったと話す。
今年の東京国際映画祭では、ほかにもJVTAで学んだ翻訳者が字幕を手掛けた作品が上映される。国内外の映画祭の受賞作品にも注目したい。
◆『空回りする直美』(中里ふく監督)
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父親と発達障害のある兄、慎吾と暮らす直美の日常を描いた同作は、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)「PFFアワード2025」でグランプリを受賞。英語字幕は、リー・スタビングスさんが手掛けている。スタビングスさんは、クリエイティブなライティングに注力し、映画やドラマの字幕翻訳だけでなく、ビデオゲームの翻訳やプロジェクト・マネージャーなど幅広く活躍中だ。
「この映画は一緒に暮らすことに苦悩する兄妹の関係を描いていますので、翻訳では登場人物の感情をできるだけ汲み取り、英語でも忠実に表現することを心がけました。特に兄によるラップの部分は、兄の創造性とユーモアのセンスを示す重要な要素であり、時間をかけて翻訳しました。」(リー・スタビングスさん)
◆『Little Amélie or the Character of Rain(英題)』(メイリス・ヴァラード監督、リアン=チョー・ハン監督)
詳細はこちら(映画祭公式サイトにリンクします)

アヌシー国際アニメーション映画祭2025審査員賞受賞作品。日本語字幕を担当したのは、JVTAで学んだベテラン翻訳者、今井祥子さんだ。今井さんは東京国際映画祭のプログラミンググループのスタッフとして、運営に携わっている。今井さんによると、原作者のアメリー・ノートンはフランス語圏では大人気の作家で、原作は、ベルギーの外交官の娘として神戸で幼少期を過ごした彼女の自伝的小説だという。それをレミ・シャイエ(『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』『カラミティ』の監督)の下で経験を積んだフランス人アニメーターコンビが映画化したという注目作だ。
「アニメーションならではの色彩・光・サウンドで描かれる70年代の日本の風景が、なんとも郷愁を誘います。自分も子どもの頃はこんなふうに世界が見えていたのかもしれないなぁ、と思いながら翻訳しました。」(今井祥子さん)
東京国際映画祭に出かけたら、ぜひ映画祭ガイドも手に取って2カ国の解説も注視してほしい。

◆東京国際映画祭
2025年10月27日(月)~11月5日(水)
シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:https://2025.tiff-jp.net/ja/

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