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明けの明星が輝く空に 第51回:昭和特撮2大悪役

明けの明星が輝く空に 第51回:昭和特撮2大悪役
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ヒーロー番組の悪役は、刺激の強い香辛料に似ている。たとえば、四川風麻婆豆腐の山椒。実のところ、僕はあの舌が痺れる辛さが好きではない。だけど、全く入っていないと物足りない。ラーメンに入れるおろしニンニクには、魔性とも言うべき魅力がある。「口臭が…」と思いながら、ついつい多めに入れてしまう。
 

悪役には、癖になりそうな魅力がある。Chewing Overで『戦え!シネマッハ』を書いている鈴木純一さんも、悪役に魅了された一人だろう。同ブログ内のシリーズ「悪役を語るコラム」で、10人以上の悪役について書かれている。まだ登場していない悪役で僕が推すのは、ルトガー・ハウアーが『ブレードランナー』で演じたレプリカントだ。もし鈴木さんが書く予定だったら申し訳ないので、多くは語れないけれど、これだけは言わせてください。あのラストシーンのセリフ、カッコ良すぎますって!ね、鈴木さん。
 

特撮番組で印象に残る悪役といえば、タイガージョーとハカイダーだ。前者は、特撮時代劇『快傑ライオン丸』に登場する隻眼の剣士。後者は、この5月に新作映画が公開予定の『人造人間キカイダー』に登場するアンドロイド。ともにヒーローに負けない強さを誇り、昭和の特撮ファンの間で人気が高い。
 

タイガージョーのモチーフは、もちろんトラだ。ライオンにとって最大のライバルを持ってきたところに、制作サイドの意図が窺える。つまり、ライオン丸とタイガージョーを同等、あるいはそれに近い存在として描こうということだろう。両者が名乗りを上げる場面にも、それは表れている。ライオン丸の口上が「ライオン丸、見参!」なのに対して、タイガージョーは「タイガージョー、推参!」だった。
 

柳生十兵衛や丹下左膳と同じ隻眼という設定も、タイガージョーを魅力的に見せようとする工夫だろうか。手負いの戦士は、歴戦の勇者という雰囲気があって強そうだ。さらにタイガージョーは、悪役には珍しくテーマ曲を持っていた。ギターの伴奏で口笛が奏でるウェスタン調のメロディーは、どこか哀しさが漂う。やがて彼に訪れる悲劇を、暗示するかのように…。
 

いわゆるカッコ良さでは、ハカイダーも負けてはいない。黒を基調とした悪役らしいデザインは、見た目からして強そうだ。逆に愛車のオートバイは白で、その名も”白いカラス”。あえて黒にせず、そしてこのネーミング!誰の命名かわからないが、シャレているではないか。また、ハカイダーはダーティーハリー顔負けの破壊力を持つ、ハカイダーショットという大型銃を持つが、刀にしろ銃にしろ、男の子は武器が大好きだ。ブルース・リーがヌンチャクを使っていなかったら、果たしてあれほど人気が出ただろうか。
 

ハカイダーには、テーマソングがあった。キカイダーを倒すことが俺の使命と、明快に自分の存在意義を歌う。タイガージョーのテーマ曲とは対照的に、勇壮な雰囲気のメロディーだった。特にトランペットとドラムの奏でるイントロが秀逸で、ヒーローのテーマソングにもなってもおかしくないほど。ハカイダーに込められた制作者の思いが、そこからも読み取れる。
 

タイガージョーとハカイダーには、もうひとつ共通点がある。彼らの最大の魅力とも言えるそれは、信念に基づいて己の目的を追求し続けたことだ。タイガージョーはもともと、剣の道を究めんとする武士だった。たとえ邪剣と言われようが、勝った者が強いのだと信じ、悪に魂を売ってタイガージョーとなる。彼がライオン丸と戦ったのは、自分の強さを証明するためでしかなかった。ハカイダーも、それによく似ている。彼が受けた指令はただ一つ、「キカイダーを破壊せよ」。それ以外のことは、眼中になかった。2人の頭の中には、人類に不幸をもたらそうなどという邪悪な概念はないのだ。それどころか、タイガージョーは卑怯な戦い方を嫌ったし、ハカイダーも汚い手を使おうとした仲間の作戦を妨害した。そして、ともに組織から裏切り者とみなされ、非業の最期を迎えてしまう。
 

タイガージョーとハカイダーは、厳密には悪役とは呼べないかもしれない。むしろ、花形満や力石徹のような、好敵手と呼ばれる存在に近いだろう。どちらにしても、彼らのおかげでストーリーが広がり、より作品が面白くなったことは疑いもない。新作映画『キカイダー REBOOT』のハカイダーにも、大いに期待したい。
 

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【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
【最近の私】『進撃の巨人』が映画化される。メガホンをとるのは樋口真嗣監督。『巨神兵東京に現る』で、ミニチュア特撮の神髄を見せてくれた監督だけに、昭和特撮ファンの僕らには期待できそう。
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