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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本『リアリティのダンス』 

今週の1本『リアリティのダンス』 
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読み方によっては“現実を表現したダンス”とも“現実が踊るダンス”とも意味を取れる原題の“La Danza de la Realidad”。そして原題をそのまま日本語にしただけといった風情の素っ気ない印象を与えつつも、そのどことなく人を食ったいたずらっぽさと奇妙に底知れないシュールさによって、ひたすら私たちの心を打つその邦題。『リアリティのダンス』は今年85歳になったアレハンドロ・ホドロフスキー監督の23年ぶりの長編映画でありながら、見る者にそのことを忘れさせるほど若々しく、瑞々しい魅力にあふれた作品です。

 
物語は1929年にチリに生まれた自身の幼少期を時代背景に、若きホドロフスキーに絶大なる影響を与えながら、妻子の元を離れ数奇な運命をたどることになる父親ハイメの人生を追っていきます。イバニェス大統領による軍事独裁政権の転覆を図る共産主義グループの一員として大統領暗殺の旅に出発し、やがて過酷な旅の途中で別人のように変わり果て、家路を目指すハイメ。一方、まるで外部から隔絶されているかのような世界で2人の生活を続け、夫の帰りを待つサラとアレハンドロの母子。

 
映画はお互いから遠くはなれてしまった家族の姿を、時系列の軸が複数走っているような独特な時間感覚を保持したまま、交互に描いていきます。サラとアレハンドロが生きている時間と、ハイメが移動を続ける時間は、時にひとつながりであるように見え、時に交錯し、またある時には時空を異にしているようにしか見えません。
映画の冒頭でホドロフスキー監督がカメラに向かって語る“お金は循環する”という言葉を思い出すなら、ハイメはたどり着く先々で自らの価値を変動させながら、貨幣のように世界を巡り続けているとも言えます。

 
ハイメが宿敵イバニェスが溺愛する白馬ブセファルと出会い心を通わせ合う場面で物語が最初のクライマックスを迎える瞬間は見ものです。
この作品中で1度だけ、教会のシーンで口にされる“Paradise”という言葉。その言葉が指している対象が、具体的な形となってカメラにとらえられた瞬間を、私たちは少なくとも1つ知っていると思い出すことでしょう。
あの場面で、画面に映し出されたブセファルの仕草の、息を呑むような美しさを、きっと思い出すことでしょう。

 
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『リアリティのダンス』
原作、脚本、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:アダン・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、
クリストバル・ホドロフスキー
製作国:チリ=フランス
製作年:2013
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Written by 石井清猛(イシイ キヨタケ)

 
[JVTA発] 今週の1本☆ 8月のテーマ:楽園
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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