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明けの明星が輝く空にinCO

明けの明星が輝く空に
第56回 特撮vs.VFX

明けの明星が輝く空に<Br>第56回 特撮vs.VFX
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最近、CGを駆使したVFX満載の映像にいささか食傷気味の僕は、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999年公開)が見たくなってTSUTAYAに走った。この平成ガメラ第3弾(以降『ガメラ3』と表記)は、着ぐるみとミニチュアセットという、日本の特撮技法をしっかり受け継いで作られた怪獣映画だ。特撮場面担当の特技監督は、あの樋口真嗣監督。2年前の夏、エヴァンゲリオンシリーズの庵野秀明監督とともに、東京都現代美術館で特別展覧会『館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』(当ブログ2012年8月31日の記事『失われゆく(?)技』参照 http://jvtacademy.com/blog/co/star/2012/08/)を開催した人物だ。特撮に対する思い入れは、並々ならぬものを持っているだろう。
 

日本の特撮の最大の特徴は、上でも挙げた通り、着ぐるみとミニチュアセットだ。この2つについては、「リアルさに欠ける」とか「ちゃち」といったイメージがついて回る。確かに、これまでの特撮作品の映像は、そう思われても仕方がないものが多い。特撮ファンの僕でも、苦笑せざるを得ないことがあるほどだ。
 

ただし『ガメラ3』に登場するガメラは、まったく「ちゃち」ではない。デザイン、造形ともに、かなりのレベルにある。実は「着ぐるみ=安っぽい」というのは間違った認識だ。たとえば、『エイリアン』のエイリアンも、『ジュラシックパーク』のラプターも、着ぐるみだったことを思い出してもらいたい。日本の特撮作品でも、『ウルトラマン』に登場する怪獣たちは、どれも生命力を感じさせる素晴らしい出来ばえだった。ただ、ウルトラシリーズはその後、時間と予算の制約から、着ぐるみが大きくレベルダウンしてしまった。「ちゃち」というイメージは、そのあたりから来ているのだろう。
 

一方、GODZILLAなどCGで作られた怪獣を見て感じるのは、“実体感”の薄さだ。質量を感じないと言ってもいい。少しオーバーな言い方をすれば、触ろうと思って手を伸ばすと、細かい粒子状になって飛散してしまうような感覚を覚える。最近のCG映像をいろいろ見てそんな気がしていたのだが、今回『ガメラ3』を改めて見て、その思いは強くなった。考えてみれば、これは当然のことなのかもしれない。実際に手で触れられる着ぐるみと、コンピューターで描かれた絵。いくらリアルであっても、絵は絵でしかないのだから。
 

ただ、僕のこの感覚が、最近の若い世代に理解してもらえるかどうか自信はない。子どもの頃からコンピューターゲームに親しんできている彼らにとって、CG映像の方が「自然」に見えるかもしれないからだ。ちなみに僕は、その手のゲームをやったことがほとんどないし、興味もまったく湧かない。そんな人間だから、VFXを駆使した映像をいまひとつ楽しめないのだろう。
 

VFXに関して、もう一点触れておきたいことがある。『GODZILLA ゴジラ』には、印象に残るようなGODZILLAの登場シーンや戦闘シーンがなかった。僕はその原因は、映像の作り込みすぎにあると思っている。簡単に言えば、スクリーンに映し出される絵がゴチャゴチャしすぎているのだ。GODZILLA以外に、ビル群や飛び散る無数の破片、立ち込める煙、降りしきる雨。目から入る情報量が多すぎて、映像が印象に残らない。これはCGという技術自体の問題ではなく、使い方の問題だ。CGでなんでも描けるようになったのはいいが、だからと言ってなんでも描けばいいというものではないだろう。
 

対照的に『ガメラ3』は、京都駅での戦闘シーンが非常に印象的だ。映画のクライマックス、ガメラと敵怪獣イリスが京都駅のコンコース内で戦う場面。煙や飛び散る破片でごまかさず、怪獣たちの姿をしっかりと見せている。京都駅の白い鉄骨の天井も、映像に面白さを加えている。またどういうわけか、閉ざされた建物内の怪獣たちは、オープンな空間にいるよりも巨大に感じられた。ミニチュアセットの京都駅も、怪獣との相乗効果で大きく見える。これは面白い発見だった。怪獣映画では他に例を見ない屋内での戦いだが、そのアイデアを考え付いた樋口監督には拍手を贈りたい。
 
●明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】
ロードバイクを買った。黒くて細身のフレームの車体は、いつの間にか人の心を捉える魔力のようなものを感じさせる。名前を付けるなら「黒いシレーヌ」以外にないだろう。
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 第55回 『GODZILLA ゴジラ』
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