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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『Married At First Sight』

今週の1本 『Married At First Sight』
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5月のテーマ:LOVE
 

3月頭に出張でLAにやって来てはや2カ月、この長期出張もそろそろ終わりを迎えようとしている。留学経験のない私にとっては人生で一番長い海外滞在になったわけなのだが、LAではなるべくテレビを見ようと心に決めていた。日本では毎日のようにテレビやネット配信用の番組の字幕チェックをしているにも関わらず、残念ながら家でゆっくりテレビを見る時間は持てていない。ホテル暮らしで家事や雑多なことから解放されるこの2カ月、じっくり本場のテレビを研究してみようと思ったのだ。
 

数年前からアメリカのテレビといえば“リアリティ番組”というイメージだったが、そのブームは現在進行形のようだった。最初に目に留まったのは『My 600-lb Life』。自業自得とはいえ300キロ近い体重を嘆く人々が、胃のバイパス手術で痩せようと試みる様子を追った番組だ。テレビ画面いっぱいに波打つお肉を見て、どんなにお腹が空いてもハンバーガーだけは絶対食べるまいと心に誓った。
 

日々ザッピングしてみると、その他にも驚くほどの数のリアリティ番組が流れていた。19人の子だくさん家族を追った『19 Kids and Counting』。薬物依存症の人をリハビリ施設に送り込む様子を収めた『Intervention』、LAに住む小さな女性5人組の私生活を追った『Little Women: LA』。主婦のリアルな生活を描く『The Real Housewives』は人気シリーズのようで、NY、ビバリーヒルズ、OC、アトランタなど舞台を変えて何バージョンも放送されている。
 

とてもすべての番組は見きれないので、私は数ある中から1つの番組に的を絞ることにした。それが『Married At First Sight』だ。デンマークの番組のリメイクらしいのだが、何百人もの男女の中から、心理学者や社会学者、セクソロジストなどが専門的な観点からマッチすると判断した3組の男女を選ぶ。選ばれた6人の男女はお互いに顔も名前も素性も知らないまま、結婚式場で初めて顔を合わせ、ハネムーンへ出かけ、互いの家族とともにホリデーを過ごし、同居するアパートを決め、新生活をスタートさせる。そして数カ月後、そのまま婚姻関係を続行するかどうかを各カップルが選択する、というびっくりするような設定のリアリティ番組なのだ。私が見始めたのはちょうどシーズン2の1話目だったので、今のところ順調に全エピソードを追っている。
 

同じ手順を追って選ばれた3組だが、それぞれのカップルがまったく異なる変化を遂げていくのが興味深い。1組目は結婚式場で互いの姿を見るなり一瞬で恋に落ちた。しかしエピソードを追うごとに互いのライフスタイルの差から揉め事が増え、7話目を迎えた現在、ロマンチックな空気は消え失せようとしている。2組目も初対面から好印象だったが、ハネムーン中にちょっとした意見の相違から大きなけんかに発展。性格が荒く気の利かない男性に対し、女性は自分の気持ちを素直に伝えることができない。
 

ここまでは想定内だったが、このところ3組目がなかなか面白い展開を見せている。最初の2組と異なり、この女性にとっての第一印象は最悪だった。「見た目も好みじゃないし、訛りもイヤ。それに何より、まったくもってビビッと来ない」。一方、そんな彼女に一目惚れした男性はロマンチックな関係を求めるが、女性は男性を友達扱いすることで、それを徹底的に回避し続ける。他の2組と真逆の展開だ。しかし、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、女性は男性の魅力に少しずつ惹かれはじめる。とことん優しく、ユーモアにあふれた彼の性格が自分が長年結婚相手に求めていたものだと気づいたのだ。
 

興味本位で見始めたリアリティ番組だったが、この3組目の展開にはなかなか学ぶところが多い。恋人でも結婚相手でも友人でも、自分の理想ばかりを相手に押しつけてはいい関係性は望めない。この2人のようにゼロからのスタートでも(この場合はマイナスから?)、相手を尊重する姿勢があればそれが“愛”につながることもあるのだというのは、ちょっとした発見だったように思う。相手が人間でなくても、仕事でも同じことが言える。日々さまざまな案件を扱う映像翻訳者にとって、目の前の素材に“愛”を持てるか持てないかは、もともと興味があったかどうかではなく、素材に向き合う自分の姿勢によるところが大きい。それまでまったく縁のなかった世界でも、自分がその気になりさえすれば好きなだけ足を踏み入れることができるなんて、実は映像翻訳って結構おいしい仕事なんじゃないだろうか。
 

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Written by 藤田奈緒
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[JVTA発] 今週の1本☆
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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