【2025年12月】英日OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。今回はOJTを終え、英日の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介します。
◆K.O.さん(英日映像翻訳 実践コース修了) 職歴:食品メーカーに勤務
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 洋画鑑賞が趣味だったことと、学生時代から勉強してきた英語を活かす仕事をしてみたいという想いから映像翻訳に興味を持ちました。場所や時間を選ばず働くことができ、副業として始めやすいことも勉強を決意した要因です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 海外旅行が好きで、旅番組や歴史番組等のドキュメンタリー作品に携わることが目標です。作品理解に少しでも繋がればと思い、現在世界遺産検定の勉強を進めております。また、映像翻訳を志すきっかけとなった長編の洋画作品にも挑戦したいです。
◆C.N.さん(英日映像翻訳 実践コース修了) 職歴:IT企業でコンビニエンスストアのシステム保守・開発、衛星通信事業会社のシステム運用・営業
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 幼少期から読書好きで、翻訳者にはずっと憧れがありました。映像翻訳に興味を持ったのは、大学で仏文学を専攻したことでフランスの映画・ドラマに触れる機会がぐっと増え、元の言語と日本語字幕の差異が気になったときです。興味本位で講座に申し込みましたが、映像翻訳の楽しさにどんどん引き込まれ、今に至ります。
【今後の目標】 目標の1つは、皮肉やブラックユーモアあふれるフレンチドラマの翻訳です。他にも旅や食にまつわるドキュメンタリー・リアリティショーにも挑戦したいです。そのために、技術面の向上はもちろんですが、仕事とプライベートの両面で幅広いものごとに触れるよう心がけ、そうした経験を糧とし続けられる翻訳者でありたいと思います。
◆H.N.さん(英日映像翻訳実践コース修了 ) 職歴:国内営業11年
【映像翻訳の魅力】 調べものやストーリーの構成、適切な言葉選びなど、さまざまな要素を踏まえながら訳を作り上げていくプロセスにとても魅了されました。また、難民映画祭の翻訳に参加し、普段触れることの少ない世界を伝えられることに意義を感じました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 子どもの頃に感動した「ハリー・ポッター」のように、感動や笑いを届けられる映画やドラマ作品の翻訳に携わりたいと考えています。また、自然や動物を取り上げたドキュメンタリーにも挑戦したいです。そのためにも、さまざまなジャンルの作品に携わり、自分の視野を広げていきたいと思います。
◆ルマー・レイラさん(映像翻訳Web講座 プロフェッショナルコース修了) 職歴: ロンドンの不動産会社で英文賃貸契約書作成などに携わり、現在はフランスでフリーランス翻訳者として活動。
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 小さいころから洋画に親しみ、来日した映画スターのレッドカーペットやプレミア上映に通うほど映画が大好きでした。高校卒業時は翻訳者を目指すか迷いましたが、「日本に字幕翻訳者は10人しかいない」と聞き一度断念。イギリス留学・就職を経てフランスへ移住し、知人の紹介で映画の下訳を担当。三人目の育児休暇を機に、夢を再燃させ受講を決意しました。
※現在、映像翻訳Web講座は日本国内のみの受講です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 アカデミー賞が大好きで、中学生のころから毎年ノミネート作品を観て予想してきました。人の心を動かし、賞レースに名を連ねるような作品を担当するのが夢です。またリアリティーショーやシットコムも大好きで、軽妙な会話のニュアンスを活かし観る人を笑顔にできる字幕を目指しています。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています! ◆翻訳の発注はこちら ◆OJT修了生 紹介記事のアーカイブはこちら
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明けの明星が輝く空に 第191回 クリスマスには・・・シャケぇ!?
ことしのクリスマス、果たして農林水産省は再び“シャケ推し”でいくのか。スーパー戦隊ファンは、固唾を飲んで見守っている。というのはオーバーだが、過去2年、同省のクリスマス関連ツイートが話題になったことは事実だ。きっかけは、『怪盗ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(2018年~2019年)の第45話「クリスマスを楽しみに」に、“シャケ激推し”の怪人、サモーン・シャケキスタンチンが登場し、「クリスマスにはシャケを食え!」と叫んだことだった。
例によって、絶妙な緩さが魅力のスーパー戦隊シリーズ。サモーンが行う非道は、街の肉屋を急襲し、チキンの代わりにシャケを置かせるという、実にたわいのないものだ。「今年のクリスマスはシャケ一色に染めてやる!」と謎の宣言をし、嵐のように現れて、嵐のように去って行く。そんなサモーンの行動に目をつけた農林水産省が、2023年に魚食普及の一環として、「#クリスマスにはシャケを食え」と、サモーンの画像付で公式Xにポストした。
ところが、同省は翌2024年の公式Xに、「#シャケ もいいけど、他の魚も食べてほしい」とポスト。クリスマスカラーということで、マグロとアボカドを使ったメニューを紹介したのだ。(とはいえ、農林水産省は同じ日に、公式YouTubeチャンネルで、「【水産庁】サモーン・シャケキスタンチン様に感謝しながらシャケ食べた」と題する動画もアップしている。)
それにしても、サモーンという怪人の目的は何だろう。チキンの代わりにシャケを食べさせて、一体何になるのか。彼は異世界犯罪集団ギャングラーの一員で、その組織は犯罪行為を通して、人間社会の掌握を目論んでいるらしい。窃盗や誘拐、中にはプロパガンダ映画の制作といったユニークなことをする怪人もいるが、クリスマスにシャケを食べさせることで人間社会を掌握できるとも思えない。たとえばこれが仮面ライダーシリーズであれば、シャケには毒が混入されている、といった仕掛けが考えられるが、サモーンは純粋にシャケを食べてほしいだけのようだ。
もちろん、クリスマス商戦でチキンの売り上げを伸ばそうと思っている店主たちは、たまったものではないだろう。中には、閉店に追い込まれる店だってあるかもしれない。それでも、暴力を振るうでもなく、ただ鶏肉を撤去しシャケを陳列棚にきれいに並べて置いていくだけのサモーンは、どことなく憎めない。スゴイ勢いで走って来て、高い所から飛び降りた際に無様に転んだ場面では、「着地しっぱーい!でも、めげない!」と言って走り続ける、健気さのようなものさえ感じさせた。
サモーンはその攻撃技も、ユニークで楽しい。まずは“切り身配り”。シャケの塩焼きをヒーローたちの口に投げ込む。攻撃を食らった一人が、思わず「うまいな」とつぶやいたことからわかるように、それはちゃんとした料理だった。そして極めつきの大技が、“シャケチャーハン”と“氷頭なます”。ヒーローをご飯と一緒に炒めたり、甘酢に漬けたりするのだ!技を食らった方も、「パラパラになっちゃうよー!」とか「すっぱい!すっぱい!」とか、なかなか愉快な苦しみ方だ。画面にはそれぞれのレシピや作り方が表示され、なんともシュールな映像が出現。画面右下には「※イメージ!?」というテロップまで表示され、目の前の光景が現実に起こっていることなのか、それともサモーンが見せる幻影なのか、なんだかよくわからない。もちろん、こんな映像を真面目に解釈するほど野暮ったいことはないので、単純にノリで楽しむのが正しい鑑賞方法だ。
ところで、サモーンは悪役でも、彼を全否定するとシャケという食材の否定にもなりかねない。そこは現代の作品らしく、ヒーローたちが「確かに鮭はすばらしい食材だと思う」とか、「僕もサーモンは大好物の部類に入るよ」などと多様性を認める発言をしている。その上で、「クリスマスにはチキンでしょうがー!」と、正論(?)をぶつけるのだ。この言い方も絶妙だ。たとえば「クリスマスにはチキンだ!」というように、突き放した言い方と比べるとわかりやすい。「でしょう?」という言葉には、「そうじゃない?違う?」といったように、相手の立場も少しは認めているようなニュアンスがある。それでいて、語尾に「が」を置くことで、相手が間違っていることを強く主張する言い回しにもなっている。
余談だが、僕は「でしょうが」という言い回しを聞いて、ドラマ『北の国から’84夏』の、「子どもがまだ食ってる途中でしょうが!」という台詞を思い出した。父親の黒板五郎が、ラーメン屋で器を下げようとした店員に怒鳴るシーンだ。脚本を書いた倉本聰氏によれば、あの台詞は物語の“へそ”、またはドラマチックの“ドラマ”ではなく“チック”なんだそうだ。それは、ちょっとした台詞、場面ではあるけれど、グッと心をつかまれるとか、印象深く記憶に残るようなもののことらしい。
サモーンの「クリスマスにはシャケを食え!」は、まさにその“へそ”なのだ、と言えたらきれいにまとまったのだが、残念ながらそうとは言えない。サモーンは他にも、「ノーモア・チキン」、「チキンのかわりにシャケを食べろ」、「クリスマスにチキンを食べるなんて許せない」などなど、同じような台詞をまくし立てる。「クリスマスにはシャケを食え!」は、その大量の台詞の中に埋没してしまっている。
個人的には、ヒーローがシャケチャーハンにされるという、ある意味とてもショッキングな映像も含め、「パラパラになっちゃうよー!」こそが、この作品の“へそ”なんじゃないかと思う。バカバカしくも楽しい。これぞ、スーパー戦隊シリーズを象徴する名場面。けっこう本気で、そう考えている。
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】予期せぬ出逢いがあるという意味で、テレビは書店に似ています。先日たまたま日本赤軍のドキュメンタリー(NHK)を観ましたが、「オールドメディア」の底力を見た気がします。それに比べてSNSの情報って薄っぺらい。正直な話、そう感じました。
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明けの明星が輝く空に 改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る バックナンバーはこちら
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Tipping Point Returns Vol.32 邦題が教えてくれる、日本語のややこしさと楽しさ
海外の人に「最もヒットした日本映画って何?」と聞かれて『劇場版 「鬼滅の刃」無限列車編』と答えられる人は多いだろう。しかしさらに「無限列車って何?」と聞かれたら説明できるだろうか? 日本映画で最も観られた作品にもかかわらず、意味はよくわからない、が答えだろう。(2025年11月時点)
「無限列車」や最新作の「無限城」も正確な意味は知らない。でも、怖さやスリリングなイメージは強く伝わってきて、とてもいい感じなのだから、それで十分では? 確かに観る側、消費する側ならそれでいいかもしれない。しかし、言葉を売る人は、それでは困る。たとえ正確な意味は伝わらなくても、時には「誤解」を誘発することになっても、「それらを意図した言葉づくりで人の心を掴む力」が求められるからだ。
私は日本映像翻訳アカデミーの映像翻訳本科で日本語を教えて30年になる。いくつかのプログラムのうち、1997年から2023年まで、総合コース・Ⅰ(旧入門コース)でも授業をもっていた。そこで題材としていたのが「洋画の邦題」だ。作品をヒットさせたい、一人でもたくさんの人に観てほしいと願う売り手は、どのような狙いで邦題を決めたのか。その理由を推察、探究することで、自分の中にも「不特定多数の視聴者・観客(市場)に響くよう、意図をもって言葉を生み出す装置」を備えることが目的の授業だ。
前課題は、今の自分の感覚で「いい感じと思う邦題とダメだなと思う邦題」を挙げ、その理由を添えること。授業では、自分の感覚は売り手の狙いを汲んだものか、市場の多数派と一致しているかを検証した。提出された前課題はいずれも興味深く、受講生と一緒にあれこれ考えて議論することは、私自身にとっても日本語強化の好機になっていた。
「無限列車」に似たケースでよく挙がったのは「ジェイソン・ボーン・シリーズ」だ。『ボーン・アイデンティティー』はまだしも、『ボーン・スプレマシー』や『ボーン・アルティメイタム』って何?日本人のほとんどはスプレマシーやアルティメイタムの意味はわからない。けど、なぜかいい感じだ。また、『プライベート・ライアン』や『ロード・オブ・ザ・リング』のケースでは、売り手は意味不明の邦題での勝負を飛び越えて、市場の「誤解・勘違い」をあえて狙ったふしがある。いずれも原題をほぼそのままカタカナにしただけですよと嘯(うそぶ)いているかのようで、実はそうではない。原題の‘Private’は単なる「二等兵」を意味するが、カタカナで「プライベート」と表記すると、一人の兵士の孤独や失意といった内面を想起させる。二等兵なんて本当の意味を知らず頭の中で誤訳されても全然OK、むしろそれが狙いなのだ。『ロード・オブ・ザ・リング』の「ロード」も同じ。原題は‘The Lord of the Rings’、つまり神や支配者のことだが、カタカナになると多くの人は「道」だと直感してしまう。しかしその誤解は「ホビットたちの長く険しい旅路」を想起させ、エモさや心地よさを醸成する。
四半世紀にわたり蓄積した提出課題には「日本語に関する膨大な調査データ」という側面もある。その結果、とても興味深い発見があった。その一つが「すべての提出課題で最も多く挙がった邦題は?」。
結論から言おう。キャメロン・ディアス主演のコメディで1999年に日本で公開された『メリーに首ったけ (原題:There’s Something About Mary)』だ。公開直後から数年間は、どのクラスでも必ずと言っていいほど複数の受講生がこれを選んでいた。その後もひたすら選ばれ続けた邦題である。
なぜ選ばれ続けたのか?「首ったけ」という言葉が原因であることは明らかだ。今でも気になる邦題を尋ねられたら「メリーに首ったけ」と答える人はいるだろう。でも、数が多いというだけでは大きな発見にはならない。問題は、それが「いい感じ」として挙げられたのか「ダメだな」と思われたのかである。
今、(えっ? いい感じのタイトルに決まってるよね?)と思った人は、きっと驚くだろう。実は、1999年から8年ほどの期間は、すべての人が「ダメな邦題」として選んでいたのだ。一人の例外もなく「首ったけ」は古い、ダサい、口にするのも恥ずかしい、と。つまりそれが日本社会全体の暗黙知だったのである。
ところが2007年のある学期のこと。いつもの如く課題に目を通していた私は衝撃を受けた。一人の受講生が「メリーに首ったけ」をいい感じの邦題として挙げていたのだ。「首ったけ」という言葉の語感の心地よさを、そう感じるのが当たり前であるかのように解説している。その後、少しずつ「首ったけはいい感じ」と書く人が増え始め、2015年くらいにかけてはクラスの中に「好き派」と「嫌い派」が同居することも珍しくなかった。そして、2017年になると提出課題から「嫌い派」が完全に姿を消す。
つまり、「首ったけ」という言葉に対する多くの人(日本社会、市場)のイメージ(意味といってもよい)が、20年ほどの歳月を経て180度変わったのである。真逆なのだ。そのプロセスを課題のデータは刻々と記録し、証明している。おそらく日本語の学者・研究者にとっては垂涎の資料だろう(絶対に外には出さないが)。言葉の意味の変化を「流行おくれ」「ダサい」、あるいは「一周回って新しい」「レトロでエモイ」などと言って済ませることは簡単だが、それがいかなる歳月を経て、どのように変化していくのかを追ったデータは稀だろう。
今、私たちの目の前にある言葉(単なる流行言葉ではない)、はどうか。世の中でのイメージや捉えられ方、使われ方は、もしかしたら真逆の方向へ変化している最中かもしれない。JVTAの修了生・受講生、つまり言葉のプロや目指す人は、そうした変化に敏感であるのはもちろん、上手く、賢く使いこなして「さすが!」と評価されるようになってほしい。
追記
「首ったけ」についてAI(Gemini)に聞いたところ「とても魅力的、効果的な言葉。日本での『メリーに首ったけ』の成功にもつながった」みたいなことを言ってくるので、「でもね」と私の「20年変遷論」を説きました。すると、「その通りです。ご指摘ありがとうございます」と手のひら返しの回答(笑)。「首ったけという言葉が持つニュアンスや世間の評価は、時代とともに変化しています。特に、『メリーに首ったけ』が公開された1999年前後から2010年代初頭にかけては、<首ったけ=古くてダサい、照れくさい表現>という認識が強く、一部の人々からは敬遠されていた可能性が非常に高いです」だって。Geminiさん、まだ間違ってますよ、一部の人じゃなくてほぼすべての人だったんだよと教えたかったのですが、お説教はここまでにしておきました。
(了)
今回のコラムで思ったことや感想があれば、ぜひ気軽に教えてください。
☞niiraアットマークjvtacademy.com ※アットマークを@に置き換えてください。 ☞JVTAのslackアカウントを持っている方はチャンネルへの書き込みやniira宛てのDMでもOKです。
————————————————– Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表) 学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。 ————————————————–
Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラhttps://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓https://www.jvtacademy.com/blog/tippingpoint/
【難民映画祭20周年】わたしと難民映画祭(字幕翻訳者編)
今年で20周年 を迎えた難民映画祭は2006年にスタート 。これまで270作品 の映画が上映され、10万人以上の人たちが参加 してきた(数字は2025年9月時点)。今年のポスターにデザインされている青いバラの花言葉は「奇跡」「夢が叶う」。20年にわたって映画祭を支えてきた人たちへの感謝と亡くなった人への哀悼の意がこめられている。
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始まった当時は今よりも上映作品が多く、20本以上のラインナップをそろえ、中には、日本語字幕がついていない作品もあったという。しかし、それでは作品のすべてを日本の観客に伝えきれないと、第3回(2008年)からJVTAによる日本語字幕制作のサポートが始まった。以来、JVTAの修了生の有志が、プロボノ(職業の専門性に基づく知識や経験などを生かして行う無償の社会貢献活動)で字幕制作を担っている。毎年、JVTAのメールマガジンで修了生に字幕翻訳参加を呼びかけ、同映画祭のためのトライアルを特別に実施。合格者は映画祭関係者を招いたキックオフミーティングに参加し、難民問題に関する想いを共有したうえで字幕翻訳に取り組む。複数で翻訳チームを組み、各自の担当パートを翻訳した後にチーム全体で話し合いながらリライトを重ね、一つの字幕を作りあげている。
◆難民映画祭の歴史はこちら
◆難民映画祭とJVTAの歴史はこちら
難民映画祭の上映作品は、多言語のドキュメンタリー作品が多く、それぞれの国や地域の紛争や政治などの背景に関する入念なリサーチが必須だ。こうした多言語の作品にも基本、英語字幕があり、翻訳者はそれをもとに日本語字幕を制作する。翻訳者からは、「凄惨なシーンが続くドキュメンタリー作品を泣きながら翻訳した」「映像に映っていた人たちのその後をとても心配している」「この映画祭に携わって自分も意識が変わった」などの声が数多く聞かれる。また、新人時代に取り組んだ人も多く、これまで手掛けた中でも特に印象深い作品として難民映画祭の上映作品を挙げる翻訳者も少なくない。この映画祭の意義に共感し数年にわたり翻訳チームに参加した人もいる。
今回は、20周年という節目にあたり、過去に難民映画祭の字幕制作に携わった翻訳者にアンケートを実施。難民映画祭に寄せる12名の翻訳者の想いを紹介する。
①参加した年 ②担当した作品とその背景 ③翻訳作業を振り返って感じること ④難民映画祭に携わって意識が変わったことや何か始めたこと ⑤難民映画祭の字幕に参加する翻訳者へのメッセージ
◆Ogihara Atsukoさん ①第3回(2008年 )②『レフュージニック』 ソビエトにおけるユダヤ人迫害 『ニューイヤー・ベイビー』 カンボジアでのクメール・ルージュ虐殺
③今つくづく思うことは、歴史は繰り返されているということです。世界から人々が苦しむ原因を取り除くには、一体どうしたらいいのか。宗教、人種、偏見、その他もろもろのことが原因で、現在もなお世界のあちらこちらで、心が痛む戦いが続いています。また、チームで翻訳した喜びはいまだに忘れられません。メンバーが5人いれば、翻訳を終了した時の満足感は5倍になります。実際、翻訳チームに我が家に泊まっていただいて、合宿をし、翻訳の表記や流れが一つになるよう、顔を突き合わせて話し合った時間は、得難い、とても充実した時間でした。
④毎年、難民映画祭の開催の度に、かつて微力ですが翻訳で協力させていただいたことが、私の人生でとても大きなことであったと痛感します。機会があれば難民問題を扱っている催しを、友人を誘って見に行ったりしています。
⑤現在、全世界の人口の1%が、難民という名の下に、故郷を追われ避難を強いられています。絶えることのない、世界の難民問題を目にするにつけ、本当に無力感を覚えます。一体私たちに何ができるのか。映像翻訳者として、この問題を一人でも多くの人に伝えることは、貴重な意味のあることです。わずかでも問題意識を持ち人々と語り合い、伝えていく。それがいつか、平和な世界へのほんのわずかな一歩になりますよう、希望を持ち続けましょう。
◆結城あかねさん ①第4回(2009年)、第5回(2010年)、第6回(2011年)、第7回(2012年)、第8回(2013年)、第9回(2014年) ②『14 キロメートル』(2009) 、『遥かなる火星への旅』(2010) 、『イリーガル』(2011) 、 映画祭プロモーションビデオ(2012) 、『新たな壁の裏側で ― 東ヨーロッパに逃れた女性たち ―』(2013) 、『シャングリラの難民 ~幸福の国を追われて~』(2014)
※6回参加のうち、『遥かなる火星への旅』(2010)の背景 ミャンマーからイギリスへ第三国定住するカレン族を追ったドキュメンタリー映画です。ちょうど日本でも2010年から第三国定住による難民の受け入れを開始したこともあり、日本にとってタイムリーな題材の映画でした。
③毎回難しく感じたのは、トーンや表現の仕方の統一です。複数名で作業することから、通しで見ると途中で明らかに翻訳者が変わったと感じられることもありました。また、解釈や訳語の選定で議論したことも多くあります。ある作品ではみんなでメンバーのお宅に泊まり徹夜で作業をしたこともありました。苦しかったですが、楽しい思い出でもあります。
④質問への直接的な回答ではないのですが、私はタイの北部に住む首長族の村に2回訪れたことがあります。彼らもミャンマーから逃れてきた難民で、その苦労や悲しみを直接聞いていたため、難民映画祭には特別な思い入れがありました。そしてその経験があったからこそ、この映画祭にはできるだけ参加しようと考え、6回参加させていただきました。
⑤エンターテインメントの映画と違い、難民映画祭は難民の方々の現状を伝え、広く知ってもらう強い目的があります。目を背けたくなる状況に苦しく思いながら作業することもありますが、映像翻訳を学んだ翻訳者にしかできない意義深い経験となります。作り手の想い、そして取り組む翻訳者の想いが、多くの方に届く大切な機会となるよう願っています。
◆松木香奈子さん ①第10回(2015年) ②『ヤング・シリアン・レンズ』 当時シリアの都市アレッポでは、政府軍と反体制派による激しい戦闘が繰り広げられていました。
③ニュース映像などとは違い、残酷な現実がそのまま映し出されていて、とにかくショッキングでした。
④微力ながら世界の現実を伝える手助けができることに意義を感じました。それ以来、マイノリティを題材にした作品などを積極的に担当しています。
⑤翻訳を通して社会貢献をできる素晴らしい機会になると思うので、ぜひ挑戦してみてください。
◆中嶋紋乃さん ①第13回(2018年) ②『アイ・アム・ロヒンギャ』 故郷ミャンマーから迫害され、カナダへと逃れたロヒンギャ難民の若者たちが、自分たちの体験を舞台劇として再現するドキュメンタリーです。ロヒンギャは世界一迫害された民族と呼ばれ、ニュースでも連日取り上げられていました。
③作品の重みを伝える責任を感じながら翻訳しました。自分たちの経験を再現する彼らの必死の思いや葛藤を、できるだけその温度を壊さないように字幕にする難しさがありました。その重厚なテーマも相まって、翻訳作業は非常に大変で、寝る間も惜しんでの作業になったことを今でも覚えています。
④難民映画祭に関わる前は、難民問題をテレビのニュースで目にしても、その背後で何が起きているのか具体的に思い描くことができませんでした。しかし、作品の翻訳に携わる中で、数字や文字としてではなく、“一人ひとりの物語”として受け止めるようになりました。
⑤修了直後の駆け出しの時期に、翻訳者として作品に携わるとはどういうことかを学んだ非常に貴重な経験でした。ぜひ、積極的に挑戦していただきたいです。
◆小畑愛沙子さん ①第13回(2018年)、第14回(2019年) ②『アイ・アム・ロヒンギャ』 主にミャンマー西部に暮らすロヒンギャ。彼らは差別と迫害を受け、多くが国外に逃れています。あるロヒンギャの若者たちは、命がけでバングラデシュに避難。その後カナダへ移住しました。演劇を通じて自分たちが受けてきた迫害や今直面する現実を伝えようとする姿が描かれています。
『難民キャンプで暮らしてみたら』 2人のアメリカ人が、シリア難民が暮らすヨルダンの難民キャンプで日常生活を体験するドキュメンタリーです。
③映像翻訳のコース修了後、すぐに携わった字幕作品で、ありとあらゆる力不足を実感しました。ただ、思い出すのもつらい経験を振り絞るように語る若者たちの言葉を、正確に、丁寧に伝えなければ、という使命感に駆られたのを覚えています。
④プロジェクト参加前は、何となく慈善活動を行うイメージでいたのですが、彼らの言葉を翻訳する中で、困難な状況でも力強く歩み続けるエネルギーをひしひしと感じ、助けてあげる、というより、社会が良くなるよう同じ方向を向いていきたい、と思うようになりました。
⑤字幕翻訳による支援は、実際に起きている切実な課題に対し、映像翻訳を学んだからこそ出来る、世界に希望を灯せる活動だと思います。
◆K.S.さん
①第14回(2019年)、第15回(2020年)、第16回(2021年) ②『イージー・レッスン 児童婚を逃れて』ソマリアの児童婚 『カオスの行方 ~ 安住の地を求めて』ヨーロッパへ命懸けで避難する難民 『戦火のランナー』スーダンの内戦
③難民映画祭では3作品に参加させていただきました。観客の中には、難民問題や各国のカルチャーになじみのない方もいらっしゃいます。誰にとっても分かりやすい言葉選びを意識しつつ、文化に関わるワードはできる限り尊重して出すなど、細かい気配りとバランスを意識しました。また、作品ごとに様々な難民の姿が多様な視点から描かれているため、背景情報を丁寧に把握し、製作者の意図や登場人物の気持ちに寄り添った字幕を付けることも心がけました。普段の映像翻訳の仕事に比べるとチーム規模が大きく、訳し終えた後に全員で全編の相互チェックを行う作業はかなりタフで特に苦労しましたが、いろいろなメンバーと意見を交わしながら完成度を高めていく作業は、とても勉強になり、刺激にもなりました。
④担当作品の背景となっていた国や情勢を中心に、ニュースなどを意識的に見るようになりました。映画祭に携わった経験を踏まえて、周りの人と話をすることもあります。難民問題だけでなく、様々な社会的問題を扱った映像作品にもアンテナを張るようになりました。また、UNHCR関連の字幕翻訳案件(教育動画など)を担当させていただき、微力ながら翻訳者として継続的にご縁をいただいていることも、ありがたく感じています。
⑤コースで学んだことを実践的に生かして、憧れの長編映画に字幕を付けるという経験は、それ自体とても貴重です。その上、翻訳を通じて難民問題に関わる意義は大きく、非常にやりがいのある映画祭だと思います。できる限り時間をかけて丁寧に作品と向き合い、受け身にならずメンバーと積極的にコミュニケーションを行えば、きっと何倍も価値のある思い出深い経験になるはずです。
◆谷山祐子さん ①第16回(2021年) ②『カオスの行方 ~ 安住の地を求めて』 シリア。内戦で家を失い、欧州に不法入国の難民が押し寄せた時代。
③映像翻訳Web講座を修了したもののオープントライアルになかなか合格できず、くすぶっていた頃に参加したプロジェクトでした。その後もイバラの道は続くのですが、初めてのチーム翻訳であり、相互チェックなど大変勉強になりました。8人ほどの大所帯のチームを立派にまとめられたリーダー翻訳者さんがとても輝いてみえたことを覚えています。
④難民をテーマとしたニュースや話題に以前よりも関心を寄せるようになりました。また、同じ作品に携わった翻訳者さん数名と、「ともにトライアル合格を目指そう!」とお友だちになりました。トライアルのたびにそれぞれの字幕を見せ合って勉強したり、知識や情報をシェアしたり、同じ志を持つ仲間ができるきっかけになりました。
⑤制作した人々の思いが見る人すべてに届くよう、チームでより良いものが作れるよう、ぜひ頑張ってください。
◆石川萌さん ①第17回(2022年) ②『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』 アフリカのサヘル地域において、気候変動による砂漠化を食い止めるための植林プロジェクトに関する作品
③音楽ドキュメンタリーなので、訳しながら歌っている時もあれば、強い信念でコミュニティを成功に導いたリーダーの言葉に勇気をもらうこともありました。サヘル地域の砂漠化について学ぶことのできる作品ですが、そもそもどんな文化がある地域なのかという点も音楽を通じて知ることができました。
④映画祭を通じて、難民の状況がそれぞれ違うように、必要な支援も様々であり、私たちができる支援も一人ひとり違っていいのだということを学びました。
⑤私が映画祭に参加したのは、2015年に欧州難民危機の渦中にあったハンガリーに住んでいながら、何もしなかった後悔からです。当時は、何か大きなことでないと支援にならないと思っていました。映画祭の翻訳を通じ、小さくても行動を起こすことが大切なのだと学びました。皆さんも、ぜひ何かできることから始めてみてください。
◆中野みな子さん ①第17回(2022年) ②『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』 気候変動の影響に苦しむアフリカのサヘル地域
③作品の舞台となったサヘル地域や気候変動に関する信頼できる情報を入手するのに、苦労しました。自分ひとりでは限界があったと思いますが、チームの集合知で乗り切ることができたと感じています。
④作品を通じて気候変動が難民を生み出すということを知り、プラスチックをなるべく使用しないなど、自分にできることを続けています。
⑤自身の日常からは遠いと思っていた「難民」の存在ですが、自分にも難民を生み出す原因の一端があり、また状況を改善するためにできることがあると気づかされました。字幕を通じて世界とつながることができ、世界をほんの少しでも良くするお手伝いができたと感じています。また、難民映画祭に参加することでチーム翻訳の経験もできたことにも、感謝しています。
◆児山亜美さん ①第19回(2024年) ②『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』 内戦や紛争によって故郷を追われたシリア難民の子どもたち
③作中に何度も出てくる“ home” という単語の訳し方について、チームの皆さんと話し合ったことが印象に残っています。たった1つの単語とはいえ、難民問題の背景を伝えるためにはどの訳語が適切なのか、意見を出し合う過程で作品への理解が深まったように思います。
④地元の外国人コミュニティを紹介するイベントに参加し、外国人の日本語支援についてのセミナーを受講するなど、身近にいる外国人のことをもっと知りたいと思うようになりました。映画祭の広報サポーターの皆さんが紹介してくださっている飲食店 も訪れてみたいです!
⑤難民映画祭に参加して一番心に残っているのは、上映会の会場で監督にお会いし、作品に込めた思いを直接聞けたことです。どんな状況にも希望はあるとお話されていたのですが、それは他の上映作品にも共通しています。現状を知るだけではなく、希望の灯を絶やさないために懸命に努力する人々の姿を見て、多くのことを感じられると思います。
◆萱場美晴さん ①第19回(2024年) ②『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』 シリア国境から難民としてヨーロッパを横断するストーリー
③複数人で協力して訳したので、同じ単語でも場面に応じて訳し方をどう変えるかなど、皆さんと議論できたことが有意義でした。
④映画祭の映像ならではの良さを感じたことから、様々な映画祭で字幕ボランティアに参加しています。
⑤字幕作成の経験としてだけでなく、世界の現状を知る機会としても有意義だと思います。たくさん議論を重ね、学びを深めてください。
◆C.H.さん ①第20回(2025年) ②『見えない空の下で』 ロシアとの戦争による戦禍を逃れるため、ウクライナの地下鉄構内で暮らす人々
③字幕作成からしばらく離れていたため、新しい翻訳ソフトに慣れるのに苦労しました。また、戦争で使われた兵器に関する訳語に悩みました。例えば、「花びら地雷」という空から散布される地雷が出てくるのですが、地雷と聞くと地中に埋められているものというイメージもあるため、視聴者に伝わるかどうか迷いました。そんなとき、チームの皆さんに助けていただき、チーム翻訳の良さを実感しました。
④特に新たに始めたことはありませんが、近隣で行われている様々な難民支援の活動に目を向けるようになったように思います。(アメリカ在住)
⑤子どもたちの夏休みと字幕の作成期間が重なり、仕事や育児をしながら翻訳をするのは時間的に大変でしたが、家族で難民問題について話す機会を得られ、とても有意義でした。子育て中の皆さんも、ぜひ参加されてみて下さい。
「難民映画祭を字幕制作で支援する」 これは映像翻訳者ならでは社会貢献のカタチだ。難民となった人たちの想いを伝えようと真摯に翻訳に取り組むなかで翻訳者自身にも気持ちの変化が訪れたという。難民映画祭の上映作品を鑑賞する際は、そんな翻訳者たちの想いがこもった字幕にもぜひ注目してほしい。JVTAはこれからも難民映画祭のサポートを続けていく。
◆難民映画祭 オンライン開催 2025年11月6日(木)~12月7日(日) 劇場開催 2025年11月 6 日(木) TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(東京) 【上映作品】「ハルツーム」※終了 2025年11月13日(木) TOHOシネマズ なんば(大阪) 【上映作品】「ハルツーム」※終了 2025年12月 2 日(火) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「あの海を越えて」 2025年12月 3 日(水) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「ぼくの名前はラワン」
公式サイト:https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff
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◆第20回難民映画祭が11月6日に開幕 青いバラにこめた思いを字幕で伝える
※同映画祭担当の山崎玲子さん(国連UNHCR協会・渉外担当シニアオフィサー)から翻訳者の皆さんにメッセージを頂きました。
◆2025年度 明星大学特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特別サイト 『希望と不安のはざまで 』
12月6日(土)、JVTAが字幕翻訳を指導している明星大学で難民映画祭パートナーズの上映会が開催されます。
◆第20回難民映画祭・広報サポーターによる公式note 「みて考えよう!難民映画祭」
広報サポーターの活動や、作品レビュー、「わたしと難民映画祭」、各国の飲食店紹介などの情報が更新されています。字幕を担当した翻訳者の皆さんもぜひご覧ください。
◆【第20回難民映画祭】字幕翻訳と広報サポーターで修了生が活躍中! 今年のJVTAが携わる活動を一挙紹介しています。
◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集 Vol.96 ムッとした一コマ
先日、友人を送りに空港に行った時の出来事。空港はアブタビ行きのチェックインをしようとするたくさんの人でごった返していました。私の友人は健常者ではないので事前に車椅子を要請してありました。彼女は待っている間も辛そうで、たまにしゃがんだりしていました。隣のラインには、観光を満喫したような西洋人観光客4人組がチェックインをしています。その中の70代くらいの男性はすでに車椅子を頼んであったようですが、さらに60代くらいの女性が車椅子を追加したいと頼んでいます。しばらくして向こうから2台の車椅子を押した空港職員がやって来ると、そのグループがそれに気づいて合図をし、職員はそちらへ向かっていきました。明らかにそのうちの一台は友人用。友人は立っていられないくらいの状態で今すぐ車椅子が必要なのに…。彼らはそんな友人に気づいていながら見ぬふりをして先に乗ってしまったのです。「しょうがないわね」という表情でグランドスタッフがもう一台手配してくれました。しかし…「すみませんが、あそこまで行ってください」と言われ、結局友人は指定された所まで歩くことに…。
もちろん、車椅子を使われる皆さんのほとんどはご高齢だったり、足が痛かったり、また見えない持病があったりします。しかし、最近、車椅子利用は優先されて楽だという理由で気軽に利用する人たちが出てきているようです。「本当に必要な人をちゃんと優先してほしい!」。この一連の出来事に気づいてさえいない友人の代わりにちょっと声をあげてみました。
お月様、平穏祈願。
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
花と果実のある暮らし in Chiang Mai チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美 バックナンバーはこちら
◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
【2025年11月】英日OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。今回はOJTを終え、英日の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介します。
◆園田沙英さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:銀行(融資)、IT関連(テクニカルサポート、情報システム、社内IT研修の講師)
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 学生時代に映画館でアルバイトをするほど映画が好き。大学で英語を専攻するほど英語も好き。いつかは自分の好きなものに携わる仕事をしてみたいと思っていました。そんな中、見つけたのはYouTubeでJVTAの字幕作成動画。まさに自分の好きなものが詰まった仕事だと思い、すぐに映像翻訳を学ぶことを決意しました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 まずは英語を好きになったきっかけである『ハリー・ポッターシリーズ』関連の映像に携わることが一つの目標です。他にもアメコミ作品やスパイアクションもの、ミステリーなど、ワクワクドキドキする作品も好きなので手がけてみたいです。観た人が作品に関わる何かを好きになれる、「好き」が生まれるきっかけになるような映像作品を日本中に届けたいと思います。
◆初谷亜希子さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:ゼネコン(経理、現場事務、人事)
【JVTAを選んだ理由、JVTAの思い出】 映像翻訳に特化しており、定められた期間で計画的に学習できる点と、受発注部門が併設されている点を魅力的に感じJVTAを選びました。仕事と課題の両立は大変でしたが、同じ目標を掲げる素敵な仲間に出会い、1年半共に学べたのは大切な思い出です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 イギリス留学経験があるため、イギリスの作品や、動物・芸術(アート、クラシック音楽、バレエ、建築など)・料理・陸上競技などに関する作品に携われると嬉しいです。また、様々な経験を積んでいつかは劇場公開作品を手がけたいです。
◆春木美果さん(英日映像翻訳実践コース修了 ロジカルリーディング力強化コース修了) 職歴:アメリカと日本でNPOスタッフ→NPO運営支援(フリーランス)、その他大学勤務など
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 昔から仕事で資料などの翻訳をすることがあり、「いつか翻訳者になりたい」と漠然と思っていました。コロナ禍で自分の行く末を考えるなかで翻訳者になる夢を思い出し、スクール情報を探していて映像翻訳を知りました。「自分には、独学でこのルールを会得するのは無理」と判断したのが、映像翻訳を学ぶきっかけです。
【今後の目標】 人権や平和の活動に関わってきたので、社会派作品の翻訳を手がけたいです。インド映画やタイポップスなどのエンタメや旅行など趣味の分野の作品にも携わりたいですが、どの作品でも翻訳があったことを忘れて作品を楽しんでもらえる映像翻訳者になることが目標です。パンフレットなど、文字コンテンツの翻訳にも関わりたいです。
◆山口真由さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:特許事務所⇒翻訳コーディネーター・チェッカー⇒フリーランス実務翻訳 / 翻訳会社勤務
【映像翻訳を学ぶきっかけ】 「英語を使って映画や音楽の仕事がしたい」。それが私の高校時代の夢でした。大人になり、特許や実務の翻訳に携わってきましたが、心のどこかでずっと「映画に関わりたい」という思いがありました。そんな中、映画館で観た『カモンカモン』の字幕に衝撃を受け、松浦美奈さんのような翻訳者になりたいと強く思ったことが、映像翻訳を学ぶきっかけとなりました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 ヒューマンドラマ、ロマンス、アクション、SF、スプラッター、リアリティ番組、ドキュメンタリー、南米映画が好きで、今後ぜひ手がけていきたいです。また、30カ国以上を旅した経験を生かし、旅や料理のコンテンツも担当してみたいです。好奇心旺盛で調べものも好きなため、多様なジャンルの案件に積極的に挑戦していきたいと思っています。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています! ◆翻訳の発注はこちら ◆OJT修了生 紹介記事のアーカイブはこちら
◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
【第20回難民映画祭】字幕翻訳と広報サポーターで修了生が活躍中!
第20回難民映画祭が11月6日に開幕。JVTAは今年も上映作品の字幕制作で協力しています。さらに今年は映画祭が公募した広報サポーターに、JVTAの修了生7名(青井夕子さん、中島唱子さん、中原美香さん、梶原阿子さん、長谷川睦さん、丸山綾さん、松井敏さん)とJVTAの広報スタッフが参加し、チラシやポスターの設置の交渉や送付といったPR活動や記事コンテンツの制作などを手掛けています。JVTAが関連したものをこちらで紹介していきます。また、映画祭広報サポートによる公式noteにはサポーターの皆さんによる作品のレビューも掲載されています。映画祭を初めて知ったからはもちろん、字幕を担当された翻訳者の皆さんも要チェックです!
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◆第20回難民映画祭が11月6日に開幕 青いバラにこめた思いを字幕で伝える
同映画祭担当の山崎玲子さん(国連UNHCR協会・渉外担当シニアオフィサー)から翻訳者の皆さんにメッセージを頂きました。
※TBSラジオ『アフター6ジャンクション 2』に同映画祭担当の山崎玲子さんが出演 JVTAの字幕協力についてお話ししてくださいました。番組公式Youtubeにリンクします。
◆【難民映画祭20周年】わたしと難民映画祭(字幕翻訳者編)
2008年からの歴代翻訳者の皆さん12名の声を紹介しています。
◆2025年度 明星大学特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特別サイト 『希望と不安のはざまで 』
『希望と不安のはざまで』
12月6日(土)、JVTAが字幕翻訳を指導している明星大学で難民映画祭パートナーズの上映会が開催されます。ゲストとして山崎やよい氏(NPO法人Stand with Syria Japan監事)が登壇予定。このイベントでは学生が翻訳字幕の制作からイベントの運営まで行っています。今年の上映作品『希望と不安のはざまで』はアサド大統領による独裁政権が崩壊し、歴史的な岐路にあるシリアの様子を追ったドキュメンタリー。イベントの公式サイト には学生たちによる作品解説なども掲載されています。ぜひ、ご覧ください。
JVTAは、青山学院大学と明星大学の大学生に字幕制作の指導や監修を行っています。この度、その様子を国連UNHCR協会に取材していただき、記事として紹介されました。
・第20回難民映画祭 字幕でつなぐ難民支援の輪 ー 大学生による字幕制作の裏側をお届け!青山学院大学編 ー
・第20回難民映画祭 字幕でつなぐ難民支援の輪 ー 大学生による字幕制作の裏側をお届け!明星大学編ー
◆第20回難民映画祭・広報サポーターによる公式note 「 みて考えよう!難民映画祭」
note には広報サポーターの活動や、作品レビュー、「わたしと難民映画祭」、各国の飲食店紹介などの情報が更新されています。
▶JVTA修了生の広報サポートによる第20回難民映画祭の作品レビュー をチェック!
JVTAの修了生を含む広報サポーターの皆さんのレビューも掲載されています。作品がどのように視聴者に届いたのか?どの作品を観ようか迷っている方におすすめです。
『バーバリアン協奏曲』
▶ジュリー・デルピー監督のメッセージ動画はこちら ※青井夕子さんが字幕を翻訳しています。
『アナザー・プレイス』
◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
【映文連 国際短編映像祭】昨今増えている企業のPR映像を訳すポイントとは
11月27日(木)、映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025が東京池袋の新文芸坐で開催される。このイベントで上映されるのは、企業や団体のPR映像をテーマにした短編18作品。The WorldMediaFestivals(ドイツ)、 US International Awards(アメリカ)、Cannes Corporate Media & TV Awards(フランス)、AutoVision Awards(ドイツ)といった世界を代表する企業映像祭において今年度受賞した作品を中心にラインナップされている。JVTAは全18本の日本語字幕と公式サイトの作品紹介の解説文の作成とその英訳を担当し、9人の翻訳者が手がけた。(一部字幕のない作品もあり)。
翻訳者の小山史子さんは、今回5本の短編作品(『This is the rhythm of Swift』『The Broken Heart』『Am Wörthersee』『Visit the Original Sweden』『Close-ups of clean-ups』)の日本語字幕と作品解説の作成を手がけた。小山さんはこれまで、スポーツドキュメンタリー、アクション・サスペンスドラマ、企業PR映像などを担当している。アメリカ在住歴が長いため、エンタメ関係の案件を手掛けることも多く、現地の文化や空気感を肌で感じながら楽しく取り組んでいると話す。一方、政府関連の広報業務の経験もある。企業のカンファレンスのスピーチの翻訳などを手がける際は、企業独特のグロッサリー(専門用語)やスタイルガイドがあるため、丁寧に確認しながら作業を進めることに気を遣うという。
「その企業や団体の魅力を簡潔に分かりやすく伝えることを常に意識しています。特に企業ものの場合、その企業のことを知らない方が見ても理解できるよう、専門用語を避けて平易な言葉を選ぶようにしています。」(小山史子さん)
この映像祭の特徴はどれも10分にも満たない短い映像であること。例えば、スパイスをテーマにしたスイスの作品『Close-ups of clean-ups』はわずか53秒だ。字幕の数がわずかなうえに、1つの字幕の文字数も少なかったため、小山さんは言葉の選択に最後まで迷ったという。
「特に、味覚や触感を表現する形容詞が連続する作品だったため、似たような言葉が並ばないように辞書で類義語を調べたり、語尾の活用を工夫したり、最後まで頭を悩ませました。」(小山さん)
今回小山さんは映像の字幕だけでなく、クライアントからのシノプシスを元にして公式サイトに掲載される作品解説の作成も担当した。100字という限られたボリュームの中で、単なる説明に終わらせないことを心掛けた。
「まだ映像を見ていない方がこの解説文を読んで、『ぜひ見てみたい』と興味を持っていただけるような文章を目指しました。作品解説は映像への入り口となる文章ですので、作品の魅力や見どころを端的に、かつ印象的に伝えることに工夫を凝らしました。」(小山さん)
公式サイトには、作品解説が日本語と英語で併記されている。この英訳のほとんどを手がけたのが、日英翻訳者の下平里美さんだ。下平さんは、配信用コンテンツの吹き替え・字幕翻訳を中心に活躍。実写ドラマやアニメ、リアリティショー、邦画やドラマ・アニメのトレーラー、企業内研修の字幕、映画祭出品用の短編作品やトーク映像など幅広いジャンルの作品を手がけている。企業VPに特化したこのイベントではどんな工夫をしたのだろうか。
「まず制作側が提供する資料を最重視しました。そこに作品の意図や要素が凝縮されているからです。資料からターゲット層とメッセージを明確にし、核となるキーワードを精査しました。必要に応じてSNS投稿や記事、関連映像も確認し、背景を丹念に調べました。英語表記は一般的なものよりも資料の中で採用されている表記を優先し、制作側の思いが反映されるよう心がけました。」(下平里美さん)
今回、下平さんが担当した英語の作品解釈は17作品にも及ぶ。決められた字数制限の中で、多くの作品の概要をそれぞれの特徴を盛り込みながら書き分ける作業となった。下平さんが最も苦労したのは、要素を盛り込みすぎると、ネタバレに近づいてしまうということだったという。
「字数制限があるため文の密度が高く、メッセージが強くなりがちです。偏った解釈に陥っていないか時間を置いて何度も読み直しました。日本語版の解説も適宜参照し、乖離が生じないよう注意しました。読んで映像を『見たい』と思っていただける文章を最後まで意識しました。」(下平里美さん)
字幕や吹き替えというと映画やドラマのイメージが強いが、昨今はJVTAでも企業関連の案件を担当する機会が増えている。そのため、下平さんも受講したJVTAの日英映像翻訳コースでも、企業VPの英訳の授業が盛り込まれた実践的な内容となっている。
「企業映像の解説はドラマやアニメと異なり、脚本を単に要約するだけでは十分ではありません。企業の立場を理解し、意訳を通してメッセージを正確に伝える力が求められます。キーとなるメッセージが明確であることも大きな特徴です。それを正確に捉えるため、背景を丁寧に調べ、まっすぐに且つ魅力的に伝える姿勢は、授業で培われた基礎であり、今もジャンルを問わず実務の土台になっています。」(下平里美さん)
企業のPR動画は短い尺の中に企業の想いが凝縮されている。同じ字幕といっても映画やドラマとは違うトーンや言葉の選び方も求められ、その企業や業界に関するリサーチなども欠かせない。動画配信が主流の今、こうした翻訳のニーズはますます高まっている。このイベントは、世界の映像祭の受賞作品の数々が見られる貴重な機会、ぜひ会場に足を運んでほしい。
◆映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025 2025年11月27日(木)19:00~21:00 新文芸坐 公式サイト:https://www.eibunren.or.jp/icfs/icfs2025.html
◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
【第3回ヘルヴェティカ・スイス映画祭が神戸で開催】主催の松原美津紀さんと翻訳者に聞く今年の見どころ
「第3回ヘルヴェティカ・スイス映画祭」が11月22日(土)に神戸の元町映画館で開幕する。JVTAは第2回となる昨年から日本語字幕制作を担当しており、今年は全6作品のうち、日本初公開となる4作品の字幕を7人の翻訳者が手がけた。
この映画祭を主催するのは、スイスで新旧の日本映画を上映する唯一の日本映画祭「GINMAKU日本映画祭」を2014年から開催する松原美津紀さん。スイスと日本に関する映画を上映する映画祭を両国で、しかもたった一人で運営するという稀有な存在だ。今年の上映作品は、スイスという国を、映画を通して多面的に見てもらうという視点から選定したという。全ての上映の前後にトークの時間を設け、作品の背景や、スイス社会の現在の姿を伝えたいという松原さん。今年の見どころを聞いた。
松原美津紀さん
◆注目は決してハッピーエンドではない名作
松原さんがまず注目の1本に挙げるのは、『バガー・ドラマ』。舞台芸術を手がけ、今年の「サン・セバスティアン国際映画祭」では新人監督賞も受賞したピート・バウムガルトナー監督の初長編映画だ。「GIINMAKU 日本映画祭」では、決してハッピーエンドではない作品を上映することが多いそうだが、同作もその一つだという。
「美しい映像の中に潜む小さな不協和音。完璧な家庭のように見えるけれど、どこかずっと心がざわつく。その違和感の描き方が本当に見事で、“家族が壊れていくことが、結果的に良かった”と思えるような作品です。」(松原さん)
◆観終わった後、しばらく席を立てなかった感動作
また、松原さんは心に深く残る作品として『マイ・スイート・ホーム』を挙げる。取り壊しのために団地から退去を迫られる二人の高齢女性の姿を追ったというドキュメンタリーだ。
「高齢化が進むスイスで、どう生きるのか、家族の気持ちと自分の心の声の間で揺れる姿が、静かに胸に迫ります。観終わった後、しばらく席を立てなかったほど深く感動を覚えた大切な作品です。」(松原さん)
◆何気ないひと言ほど、大切に翻訳する
『マイ・スイート・ホーム』の字幕は板垣麻衣子さんと中野真梨子さんが手がけた。スイスにはドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の四つの公用語があり、多様な文化が根付いている。この作品のオリジナル言語はドイツ語だが、字幕は英語字幕から翻訳した。板垣さんはドイツ語の翻訳者でもあるが、スイス・ドイツ語はアクセントが強く、登場人物たちが高齢なこともあって聞き取りに苦労したそうだ。しかし、控えめで実直でチャーミングな2人の人生を、翻訳を通じて垣間見ることができたのは得がたい体験だったと話す。
「プロデビューして初めて手がけた映画作品が、この静謐なドキュメンタリーでした。カメラが追いかけるのは、スイス・チューリッヒ郊外に暮らす2人のお年寄り。保険会社の利益追求のために、思い出の詰まった住まいが取り壊されることになったハンニとロサは、大切にしてきた家財道具や本、旅先で縫った思い出のスカートなど、彼女たちの人生そのものといっていい品々を手放さなければならなくなります。そこにあからさまな暴力や不正はありませんが、人生最後の日々を住み慣れた家で暮らすこともやはり人間の尊厳に関わっているのだということを、視聴者はほろ苦いラストシーンで直感します。」(板垣麻衣子さん)
また、翻訳者の中野真梨子さんは、映像の中のセリフ以外に状況を説明する要素がなく、登場人物が置かれた状況を理解するために、集合住宅の仕組みがスイスで生まれた背景を含め、歴史や文化に関する情報を確認した。移民の増加や地価の高騰、洗濯機の共同利用が一般的であることを確認したり、番地や映像に映る建物を地図上で確認したり、できる限り把握することに努めたという。また、セリフだけを追っていると薄い内容の字幕になってしまうため、何気ないひと言ほど、どう表現するか悩んだと話す。
「この作品の見どころはハンニとロサが時折見せる穏やかな眼差しです。変えられない状況があっても、家族や思いを受け止める理解者がいれば前を向くためのささやかでも確かな力になることを教えてくれます。彼女たちが何を感じ、何を思い出しながら言葉を発しているのか目の表情や声のトーンを意識して翻訳するようにしましたが、行き詰まったときは監督のインタビューを読んだり映画のレビューを読んだりして、他の人の視点を知るようにしました。同じように、相互チェックをしてくださった板垣さんとチェッカーの方々のフィードバックが丁寧かつ的確でとても助けられました。」(中野真梨子さん)
◆スイスと日本を結ぶ“不思議なご縁”
元町映画館15周年記念上映と銘打った『要塞』にも注目したい。2008年に35mmフィルムで撮影された同作は、同映画館のプレオープンの時に最初に上映されたという特別な作品だ。松原さんは、準備の段階である“不思議なご縁”を感じることになる。実は「元町映画館」と、スイスで「GINMAKU 日本映画祭」を開催している映画館「Houdini」の開館日が、全く同じ日、8 月 21 日だったのだという。
「スイスと日本、それぞれの映画館が同じ誕生日だなんて、本当に不思議なご縁で、ちょっと涙が出ました。この『要塞』という作品は“過去”の難民受け入れ施設を見つめるドキュメンタリーなのですが、同じく今回上映する『ロツロッホ』という“現代”の難民を映すドキュメンタリーと両方ご覧いただくことで、“時代とともに何が変わり、何が変わっていないのか”を感じていただけたらと思っています。」(松原さん)
◆JVTAへのメッセージ
昨年は関西在住の翻訳者が元町の映画館に駆けつけ、松原さんと直接お会いすることができた。今年も翻訳者とともに大きなスクリーンで作品を鑑賞できることを楽しみしていると松原さん。JVTAにメッセージを頂いた。
「今年も、一つひとつの作品に心を込めて丁寧に向き合ってくださり、心より感謝申し上げます。作品の背景や専門的な理解を要するシーンに至るまで、さまざまな場面を見事に汲み取り翻訳していただき、昨年に続き字幕作成をお願いして本当によかったと感じております。翻訳者の方々へお繋ぎいただき、スムーズなコミュニケーションが叶いましたのは、いつも迅速にご対応くださる麻野さん(翻訳ディレクター)のお力添えあってのことです。ありがとうございました。」(松原さん)
◆手作り感あふれるおもてなしは初の試み
今年は初の試みとしてイスラーム映画祭主宰の藤本高之さんをゲストに迎え「ひとりで映画祭を運営するということ」をテーマにしたトークイベント(https://www.motoei.com/post_event/hsff03_talk/ )も開催される。さらに、映画祭開催中は、部数限定で「松原セット」が販売されるという。これは不定期で発行している手書き新聞「松原ニュース」のアーカイブと、全上映作品が神戸での上映が叶うまでの舞台裏や作品の魅力を語る「松原コラム」をセットにしたもの。こうした松原さんの手作り感あふれるおもてなしもこの映画祭の大きな魅力だ。映画祭会場で松原さんは着物姿で観客を迎えるという。ぜひ、会場に足を運んでスイスの映画の世界を堪能してほしい。
◆第3回 ヘルヴェティカ・スイス映画祭 2025年11月22日(土)~11月28日(金) 神戸・元町映画館
公式サイト:https://www.h-sff.com
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◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、リモート・オープンスクール、リモート個別相談を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第133回 “BOOTS”(『オレたちブーツ』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第133回 “BOOTS”(『オレたちブーツ』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『オレたちブーツ』 本予告
VIDEO
おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディ!
始めに、米国軍隊の同性愛者に関する入隊規定の変遷をおさらいしておく:
1)1993年まで同性愛者の入隊は禁止。
2)1994年2月に施行されたいわゆるDADT政策(“Don’t Ask, Don’t Tell Policy”)により、性的指向を公言しないことを条件に入隊が認められた。ただし同性愛者であることが発覚したら即時除隊。
3)2011年9月20日から正式に同性愛者の受け入れ開始。
“Boots”はNetflixの隠し玉で今年の大穴。’90年代にゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!
“WHERE IT ALL BEGINS”
—1990年、ルイジアナ州ニューオーリンズ
キャメロン・コープ(マイルズ・ハイザー)は18歳、高校を卒業したばかりだ。彼は家庭ではシングルマザーのバーバラ(ヴェラ・ファーミガ)に軽んじられ、怠け者の兄に無視され、学校では陰湿ないじめにあってきた。自分がゲイであることは、親友のレイ(リアム・オー)にしか話していない。(レイはストレートだ。)
レイの父親はベトナム戦争の英雄だ。彼は厳格な父親に認めてもらいたい一心から、この夏を海兵隊のブートキャンプで過ごすと決めていた。キャメロンはゲイの入隊は違法と知りつつ、「サマー」「キャンプ」という単語に騙されてレイと共に参加する。どうせ大学へ行く経済的余裕はない。軍隊で「自分を変えて自分らしく生きたい」という気持ちも多少はあった。
「レイと海兵隊のブートキャンプへ行ってくる」
「帰りにミルクをお願い」
それが母親と交わした最後の会話だった。
—海兵隊訓練場、サウスキャロライナ州パリスアイランド
配属先の兵舎では個性的な新兵たちが右往左往していて、さながら動物園のようだ。キャメロンとレイは思わず顔を見合わせた。
さっそく上級教官のマッキノンと2名の教官補佐による、鬼のシゴキが始まった。
あまりの厳しさに早くも音を上げたキャメロンは、初日の体力テストで故意に失格しようと試みる。だが、隣で懸垂に苦しむデブのジョンを助けた結果、2人とも合格してしまう。
アジア系のレイに暴力をふるった差別主義者の教官補佐がクビになり、代わってサリバン軍曹(マックス・パーカー)が赴任してきた。サリバンはグアムに駐屯していた若きエリートで、なぜパリスアイランドへ異動してきたのかは謎だった。
これからの13週間、キャメロンは精神的・肉体的に極限まで鍛えられる。何が起こり、どれだけ自分が変わっていくのか、彼には知る由もない…。
“Once a Marine! Always a Marine!”
18歳のキャメロンを演じたマイルズ・ハイザーは実は31歳。Netflixのミステリードラマ“13 Reasons Why”が代表作で、準主役のアレックスを全4シーズン演じた。ヴィヴィッドな演技力は数ある新兵役アクターの中でも群を抜く。ハイザーは19歳の時にゲイであることをカミングアウトしている。
サリバンを演じたマックス・パーカーは英国出身。周囲からは理想の海兵隊員に映る、悩める軍曹を颯爽と演じて魅了する。
レイ役のリアム・オーは初めての準主役。キャメロンとの友情を育みながら自身の弱点を克服していくレイを熱演している。
キャメロンの母親バーバラ役のヴェラ・ファーミガは、サイコホラー“Bates Motel”で主役のノーマ・ベイツを演じてエミー賞候補となった。最近では、ハリケーン’カタリナ’に襲われたニューオーリンズの病院を描いた佳作“Five Days at Memorial”で主演していた。
異彩を放つのがサイコパスの新兵ヒックスを演じたアンガス・オブライエンで、こいつやたら面白い。
“What you just earned will never fade!”
原作はグレッグ・コープ・ホワイトによる回想録“The Pink Marine”。ショーランナー(兼共同脚本)のアンディー・パーカーは、’80年代のミュージック、絶妙のユーモア、さらに青春学園ドラマ的な魅力を巧みに融合させ、見事に映像化してみせた。最近では、AIの進化をテーマにした壮大なSci-Fiアニメ“Pantheon”を手掛けている。
本作は反戦ドラマでも好戦ドラマでもない。銃撃戦もなければ、『トップガン』のように勇敢な主人公が戦場で活躍する場面もない。
これは、青年の葛藤と成長の記録なのだ。
キャメロンは、『フルメタル・ジャケット』より“The Golden Girls”が好きな優しい青年。軽い気持ちで入隊したブートキャンプで将来の戦友たちと出会い、レイとの友情を再確認する。そして過酷で屈辱的な訓練を耐え抜き、厳格な教官たちとの交流を通じて、タフで思慮深い自立した大人へと変貌してゆく。
それは、しばしばラブストーリーと誤解される『愛と青春の旅立ち』(原題は“An Officer and a Gentleman”、1982)の真のテーマ「士官である前に紳士であれ」にも通じている。
ゲイの自分を一生閉じ込めて生きるのか、強い自分に変わるのか—キャメロンは苦悩する。芯が強く、異なる価値観を理解し、他人の気持ちを推し量る自分の稀有な資質に気づかない。1990年という厳しい環境下で描かれる、キャメロンの絶望と希望、挫折と成功は観る者の胸を打つ。
物語の大半は訓練場内で展開する。詳細に描かれるエグい海兵隊の訓練は新鮮で、罵声を浴びながら徹底的にシゴかれるおバカで頼りない新兵たちが哀れで笑える。(今では人権的に許されないレベルだろう。)
ゲイは本作の重要なファクターだ。だがそこに多様性を押しつけるような説教臭さはなく、素直に理解できる誠実さがある。
各エピソードはサクサク観られてやめられなくなる。感動が止まらないシーズンフィナーレは、キャメロンたちの将来を暗示する不穏なクリフハンガーでフィニッシュ。いや、お見事でした。
本作は、Netflixの片隅に埋もれた愛すべき小品。口コミで評判が広がり、シーズン2の制作につながって欲しい。
“Boots”は、ゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!(“Oorah!”)
原題:Boots
配信:Netflix
配信開始日:2025年10月9日
話数:8(1話 40-50分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。