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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』

今週の1本『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』
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12月のテーマ:終わり
 

幼い頃読んだある本の内容が衝撃的で、いまだに忘れられない。アメリカの南部に暮らす美しい母親とその息子、娘の3人家族の話だ。自らの美しさに執着する母親は、ヴードゥー教の呪術師からもらった薬草の力によって、永遠の命を手に入れる。こっそり薬を盛られ道連れにされた息子と娘は、周囲に年を取らないことを怪しまれる前に母親とともに引っ越しを繰り返し、数十年後にその次の世代のふりをして地元に戻ってくる。
 

“死”を迎えなくていいなんて夢のような話じゃないかと、幼い私は思った。永遠に生きられるなんてラッキーと。でも本の中の息子と娘は違った。年月が経てば経つほど彼らの孤独は増した。人前では口にしてはいけない過去の記憶や思い出は増え続け、自分より先に老いていく恋人の姿を寂しく見守り、正体がバレる前に姿を消す。誰もがうらやむ特権を手に入れたと思いきや、意外にも彼らは重くもがき苦しみ、一日でも早い死を願うようになるのだった。しかしその日は永遠に来ない。
 

小学生が読むには少々重いテーマだったかもしれない。その日以来、大人になった今日この日まで、この本のことが頭から離れないのだから。時折思い出したかのように、死に対するさまざまな想いがむくむくと私の中に生じる。まるで本の中の兄と妹にチャネリングしたかのように、頭の中がぐるぐるする夜が訪れるのである。
 

タイムトラベルの話と聞いて敬遠していた『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』を観たのは、たまたまのことだった。仕事のあと空き時間ができたので、気分転換にふらっと映画館に入ってみたのだ。
 

主人公のティムは、21歳の誕生日に父親から一家に生まれた男たちにはタイムトラベル能力があることを知らされる。半信半疑だったティムだったが、それが事実であることを知ると味をしめ、理想の恋人を手に入れるために何度もタイムトラベルを繰り返すようになる。デートの誘い方を間違えれば即タイムトリップ、プロポーズの言葉を間違えたと思えばまた即タイムトリップ。好きなだけ人生をやり直せる=永遠の命を手に入れているとは気づかないまま、ティムは気軽にトリップし続ける。
 

しかし、そんな日もやがて終わりを迎える。ささいな事ならどれだけだって修正は可能だ。でも彼のタイムトリップ能力をもってしても、どうしても変えることのできない人生における大きな出来事があったのだ。ティムは大事な2つを天秤にかけることになる。新しく生まれてくる子どもと、ガンに侵されて死にゆく父親。そして悩んだ末に彼が選んだ道とは…?
 

本の一家と同じ永遠の命を手にしながら、映画の中のティムはその特権を放棄した。それよりも大事な何かを自らつかんでいく人生を選択したのだ。映画を観終わった私は、なんとも言えない清々しさを感じていた。そして、幼い日にあの本を読んで以来、忘れた頃に押し寄せてくる重苦しい感覚がどこか遠くへ飛び去り、二度と私の前に現れないような気がしたのだ。
 
 
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『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』
監督:リチャード・カーティス
出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイほか
製作国:イギリス
公開:2013年
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Written by 藤田 奈緒(フジタ・ナオ)
メディア・トランスレーション・センター 映像翻訳ディレクター
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[JVTA発] 今週の1本☆ 12月のテーマ:終わり
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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