News
NEWS
[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本
『恋の渦』

今週の1本<br>『恋の渦』
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

2月のテーマ:ぬくもり
 

映画監督・山本政志プロデュースによる演技と映画制作のワークショップ、シネマ☆インパクトから生まれたこの作品が、自主上映でのロングランを経て拡大ロードショーされ、全国的なヒットを飛ばした。この事実は、2013年の日本映画界における一つの事件として記憶されていると思うが、その要因がギミックでもハイプでもセンセーショナリズムでもなく、単純かつ純粋な作品の面白さにあったことは、いくら強調してもしすぎることはない。
 

大根仁監督自ら構えたカメラが捉えるのは、20代の男女9人が4つの部屋に集い、分散しながら“恋のから騒ぎ”を繰り広げる余りにリアルな姿。映画の始まりから終わりまで文字通り途切れることなく画面を埋め尽くす、やはり余りにリアルなセリフは原作となった舞台劇を書いた三浦大輔によるもので、そのどこまでもシンプルかつ日常的な会話なのに続きが聞きたくて仕方がなくなるという“ミニマルなサスペンス”が持続する。その様を目の当たりにして、私たちはただただ呆れ、ムカつき、共感し、気分を害され、大笑いし、つまりはひたすら驚き続けるほかない。
 

『恋の渦』はいわゆる“恋愛あるある”に限りなく似ていながら(というかそのものであり)、それでいて私たちに、単に身につまされるといった感覚を超えた、これまでに体験したことのない種類の動揺を与える。それが演技によるものなのか、脚本によるものなのか、あるいは音楽(の不在)によるものなのか、ドキュメンタリータッチの画面構成によるものなのか、私には到底判断がつかないが、その得体の知れなさにかえってこの作品の魅力は私の中で膨らんでいくばかりだ。
 

140分にわたる映画が続く間じゅう、ついに1回も4つの部屋の外へ出ることのないカメラは、新しい部屋に入るたびに必ず玄関の方向に向けられ、その部屋にいる人物と共に(そして私たち観客と共に)訪問者を迎え入れる。そして奇妙なことに物理的に画面の外にいる私たちが、いつしか“部屋そのものとして”登場人物たちを迎え、会話を受け止めているような気持ちになりかけたその時、突然“予想外の人物が部屋にいる姿を映し出す。その驚きも冷めやらないまま、ほどなくして映画は終わるのだ。
 

部屋から部屋へと場面が切り替わる時に聞こえてくるのは、ザ・ロネッツの『Be My Baby』のイントロ(の一部)。『恋の渦』で使われる唯一の楽曲であるこの永遠のアメリカン・ポップスを次に聴く時、皆さんの胸に訪れるのは恋のぬくもりでしょうか。それとも恋の苦さでしょうか。
 

─────────────────────────────────
『恋の渦』
制作:山本政志
監督、撮影、編集:大根仁
原作、脚本:三浦大輔
出演:新倉健太、若井尚子、柴田千紘、後藤ユウミ、松澤匠、上田祐揮、
澤村大輔、圓谷健太、國武綾
製作国:日本
製作年:2013
─────────────────────────────────

 

──────────────────────────────
Written by 石井清猛
──────────────────────────────

[JVTA発] 今週の1本☆
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page