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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『かいじゅうたちのいるところ』

今週の1本 『かいじゅうたちのいるところ』
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5月のテーマ:LOVE
 

正直、女性の私には、ボーイズの気持ちはよく分からない。7歳になる息子の行動は、不器用で不可解で謎ばかり。「ママダイキライ!」と言われようとも、どんより曇りの日であっても、いつもやわらかい陽ざしを注ぐ存在でありたいと思っているのだが…。そんな私に明るいヒントをくれたのが、スパイク・ジョーンズ監督の『かいじゅうたちのいるところ(Where The Wild Thing Are)』だ。
 

原作は1963年に出版され世界中で約2000万部売れているモーリス・センダックの絵本。この本は、1964年にコールデコット賞(アメリカで最も権威のある児童書の賞)、1970年には国際アンデルセン賞と数々の絵本賞を獲得するなど20 世紀最大の傑作と呼ばれている。これまで実写版や映画化の申し出をかたくなに拒否してきたセンダックだが、彼を敬愛するジョーンズ監督には初めて首をタテに振ったという。原作は絵本だが、映画はどちらかというと大人向け。ジョーンズ監督自身も「子供向けの映画ではなく、子供時代を描いた映画を作ろうとした」と断言している。シンプルな文章と個性的な絵で綴られているこの名作に、彼はどのようにして挑んだのか?
 

ジョーンズ監督のことだから、なにか巧妙な仕掛けがあるに違いないと思っていたが、実は3回観ても、“何のことやら”だった。しかし彼のこの言葉で謎が解けた。
 

「僕が思いついたアイディアは、かいじゅうたち(Wild Things)をワイルドな感情(Wild Emotions)に置き換えること。かいじゅうたちを、(主人公の)マックスが抱えているワイルドな感情を表す生命体としてみた」
 

なるほど!
やはり代表作『マルコヴィッチの穴』と同様、彼ならではのあの世界観をしっかりと用意してくれていたのだ。
 

マックスが辿り着いた小さな島には、さまざまなタイプのきょうりゅうが住んでいる。リーダーのキャロルに心優しいKW、皮肉屋のジュディスと心穏やかなアイラ、気弱なアレクサンダーに賢いダグラス、いつも無口なブル。かいじゅうたちはいつもぶつかり合いながらも互いに寄り添っている。
 

登場するきょうりゅうたち(Wild Things)は、マックス自身の中に存在するワイルドな感情(Wild Emotions)=資質・性格・感情たちであり、かいじゅうたちのいるところ(Where The Wild Thing Are)は、彼の胸中で今リアルに湧き起こっているドラマ(心の葛藤)なのだろう。かいじゅうたちは容赦なく体当たりしたり破壊し合ったり…でも時にはみんなで重なり合って眠りにつく。決してキレイごととして描かれておらず、どちらかと言うと乱暴で荒々しく描かれている。
 

キャロル(=おそらく幼いマックス自身?)とKW(無条件の愛、母性愛のようなもの?)との関係性はなんとも切ない気持ちにさせ、また、衝突しては距離を置き、折り合いをつけながら不器用に自分自身と向き合っていくマックスの描写はなんともステキだ。数々のメタファーを散りばめ、そのサインを受け取った観客たちを深く感情移入させていくスパイク・ジョーンズの巧さはこれだけではない。『マルコヴィッチの穴』でもそうだったように、あえて間の悪いタイミング、混在した意識を取り入れている。人間の内面は、それほど整然とされてはいない、雑念があり雑然としているものなのだ。この技法がよりシニカルに人間らしさとリアルさを与えてくれている気がする。
 

ストーリー中、何度も登場する“太陽”について。「永遠に思える太陽もいつか燃え尽きてしまう」と語る先生の言葉に不安になるマックス。“太陽”のメタファーとは母親のことだろうか? かいじゅうたちが住む小さな島には、木々が絡みあう森があったり、ゴテゴテした岩山があったり、殺風景な砂漠とさまざまな場所がある。でもどんな場所にも、いつもやわらかい陽ざしが注がれていたのがとても印象的だった。“これからもあの陽ざしを思い出せば、理想のママに近付けるのかな?”と思わせてくれた作品だ。
 

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『かいじゅうたちのいるところ』
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:マックス・レコーズ
制作国:アメリカ
制作年:2009年
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Written by 中塚真子
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[JVTA発] 今週の1本☆
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。
 

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