17年ぶりの奇跡
Written by 藤田彩乃
【テーマ:事件】
JVTAロサンゼルス校がある地域トーランスで、先週、あるニュースが話題になった。元交際相手を撲殺したとして1998年に第1級謀殺罪で有罪判決を受け、仮釈放の可能性のない終身刑を言い渡された女性スーザン・ミレンの無罪が確定し、17年ぶりに釈放されたのだ。
先の有罪判決を覆したトーランス最高裁判所の裁判官も、刑事司法制度の機能不全を認め、“I believe the criminal justice system failed.”と発言。法廷で無罪判決を聞いた瞬間、スーザンは感極まって泣き崩れた。どうやら当時の裁判は、虚言癖のある女性(すでに死去)の嘘の証言に従って進められ、その証言の信憑性については法廷で陪審員には伝えられなかったそうだ。
初めて携帯電話を手にして、電源の入れ方が分からないとおどけるスーザン。驚くのは彼女が警察や司法制度に対して悪意や怒りを全く持っていないことだ。釈放後のインタビューでは、“I always forgave my enemies. Even your haters, you have to forgive them and sometimes thank them because they bring you closer to God.”と、すべてを許し、今の自由に感謝すると明るく答えている。もしも、自分が彼女の立場だったら、こんなに寛容でいられるだろうか。
死刑制度に関しては、賛否両論がある。よく考えていなかった昔は私も容認派だったが、アメリカに住みアメリカの刑事司法制度を知るようになった今は、死刑は廃止すべきだと思う。これまでも冤罪によって処刑されてしまった事例はたくさんあり(それは当局も認めている)、この世の誰もがスーザンのように無実の罪に問われる可能性がある。彼女が死刑になっていなくて本当によかったと思う。失われた17年間は戻ってこないが、これから家族で素晴らしい時間を過ごしてほしい。そして、このような冤罪事件がゼロになることを願う。
自由の身になったスーザンは今59歳。当時、まだ幼かった3人の子供たちは親戚の手によって育てられ、今では成人している。幼くして母を取り上げられた子供たちの傷は計り知れない。釈放後、支援者や親戚、3人の子供たちに迎えられ、1歳7か月になる孫を初めて抱きしめる姿に、周囲の皆が涙した。27歳になるスーザンの娘は、母の無実を信じ、婚約者との結婚式を8年間も先延ばしにしていたそうだ。「ドレスを買いに行くわ」と嬉しそうに語ったスーザン。アメリカの結婚式では恒例の母と娘によるラストダンスは、特別なものになるに違いない。
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Written by 藤田彩乃
LA校マネージャー兼講師
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)メディア・トランスレーション・センター(MTC)にて映像翻訳者兼映像翻訳ディレクターを務めた後、2008年からはJVTAロサンゼルス校のマネージャー兼講師として活躍。留学生や米国在住の受講生を指導するほか、映画やアニメーション作品などの英日・日英映像翻訳の実務を指揮する。
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[JVTA発] 発見!キラリ☆
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。同じ目標を見つめる修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。