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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本  『スクール・オブ・ロック』

今週の1本  『スクール・オブ・ロック』
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11月のテーマ:誓い
 

分福茶釜やツツジで知られる群馬県南東部に位置する館林市。歴史ある寺社が点在し、かつては旧館林藩が置かれていたこの街に、世界中のガレージロックファンを熱狂させたミュージシャンの墓所がある。日本が誇るロックンロールバンド「ギターウルフ」の初代ベーシスト、ビリー。2005年没、享年38歳。
 

ギターウルフは日本国内だけでなく海外の評価も非常に高い。来日したFoo Fightersのデイブ・グロールがプライベートで彼らのライブを観ていたし、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンをはじめとした海外数カ国のバンドによるトリビュートアルバムがリリースされた事もある。現在ではBABYMETALのように日本人アーティストが海外で活躍するのが当たり前となっているが、ギターウルフは、そのずっと前からロックファンだけでなくミュージシャンからもリスペクトを受ける数少ないバンドの一つだ。
 

海外でも音楽としての評価が高い日本人アーティストは少なからず存在はしていた。しかし、欧米のロッカー達と日本のロッカーの間には一昔前まで「ロックであるか?」という点について東洋人が越えられない壁があったように思う。ビリーの生前にこんな映像が撮られている。ギターウルフと楽屋で談笑するジョン・スペンサーのバンド一行、だがそこにビリーの姿は無かった。世界的に著名なバンドとのインタビュー、普通のバンドマンならそのシチュエーションだけで舞い上がってしまうだろう。しかしビリーはそんな事を気にも留めずいつもどおりどこかへ姿をくらます。ふざけて「彼はロックンロールには興味がないんだ」と言うギターのセイジに「彼こそがロックンロールなのに!彼が日本で一番クレイジーなやつだ」と慕う様に言うジョン・スペンサー。 ロッカーにとってこれ以上の賞賛はない。
 

ロックとは出たがりでエゴの塊のような者がやるイメージがあるかもしれない。だが彼らは自らのエゴだけでパフォーマンスをしているのだろうか? 皆が不満に思っている事や状況を時には破壊的に、時には皮肉やユーモアを効かせて批判し、物事の新しい見方や別の方向を見せてくれる。そんな“表現者”だからこそ共感を持った人々がついて行くのではないか? しかし、どうしたらそんなカリスマ性が身に付くのだろうか?
 

ビリーに代表されるような彼らの存在そのものに、ロックというイメージに準じた生き様を見せるという「誓い」が極端なほど満ち溢れているからでなはなかろうか。ギターのセイジにいたっては自宅にロックスターのポスターやギターが入った「ロック充電ボックス」があり、ライブ前になると自らのその中に入りロックのパワーをチャージするというクレイジーなエピソードがあるという。あまりに現実離れした数々のエピソードは、ファンのこうあってほしいという夢に答える為の行動に思えてくる。奇妙なことに破天荒なイメージとは正反対にファンへの大きな「やさしさ」を感じることがあるのだ。
 

しかし、一度でもギターウルフのステージを見た者なら、非日常的なロックの世界をこれでもかと見せつけるかのような文字通り自らの命を削る様な鬼気迫るパフォーマンスに圧倒されるだろう。おそらくそんな日本人を見た事が無い海外の人間にはそれがサムライのイメージに重なるのかもしれない。彼らが世界に出て行くのに大切だったのは、英語の歌詞で歌う事でも、高いクオリティーの演奏技術でも無く、ロックへの「誓い」だったのだと感じさせられる。
 

ロックへの「誓い」をある映画からも強く感じたことがある。『スクール・オブ・ロック』は日本語でそのものズバリ「ロックの学校」。Rebel「反抗」の代名詞とも言える「ロック」と「学校」とはどうにも結びつかない。ニセ教師として名門小学校にもぐりこんだロックミュージシャンのデューイは、行儀の良い子供たちに向かって「世界一腹の立つことは何だ?」と声をかける。するとそれぞれに他愛もない、だが子供たちにとっては大きなストレスとなっている不満が次々に彼らの口から飛び出す。デューイは、とっさにその一つひとつに即興の節をつけて曲にする。そして「これがロックというものだ」と指導するのだ。この物語にもまた、ロックスピリットへの「誓い」に溢れている。もしかしたらコメディーのジャンルを纏い、アーティストを目指す全ての者にそんな「誓い」を感じてほしいと伝えているのかもしれない。

 

映画のクライマックス、デューイと生徒たちはバンド「School of Rock」としてバンド・バトルに出演する。彼らは祈る、「ロックの神様 我らに力をお与えください」と。この映画を観ていると、ギターウルフの雄姿を思い出して胸が熱くなる感覚が込み上げてくるのだ。
 

『スクール・オブ・ロック』
監督:リチャード・リンクレイター
キャスト:ジャック・ブラック、ジョーン・キューザック、マイク・ホワイトほか
製作年:2003年
製作国 アメリカ
上映時間:110分
 

Written by 斉藤 良太
 

[JVTA発] 今週の1本☆ 11月のテーマ:誓い
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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