今週の1本 『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』
6月のテーマ:五感
今これを読んでいる皆さんの中に、2017年7月22日に日本で放送が始まる新作海外ドラマ『ツイン・ピークス The Return』を楽しみにしている方は一体どれくらいいるのだろうか。意外と結構な数がいるのではないか。そうであるならば、ぜひこの機会にその方たちと集いたい。そしてオリジナルシリーズの発表から25年を経て、いまだ色あせることのない魅力に満ちたあの伝説的ドラマを回顧し、平成の世の終わりを目前に突如として訪れたその復活を、そこに立ち会える幸福を、ともに祝いたい。というのが私の今の、偽らざる心境です。
確かずいぶん前にここでオリジナルの『ツイン・ピークス』について書いたときにも、似たような、「語り合いたい」的なことを言っていたような気がしますが、まあ、偽らざる心境なので仕方ありません。『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、そんな風に私の記憶に深く刻まれているドラマ『ツイン・ピークス』のシーズン終了後に、ほぼ同じスタッフとキャストによって制作された長編映画です。
ドラマ『ツイン・ピークス』で描かれた物語の前日譚であるこの作品は、公開当時はその評価をめぐって多くの議論が交わされ、批評家のみならずファンからも“問題作”として受けとめられました。その後監督のデヴィッド・リンチは『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』を発表し、新たなファンと数々の世界的な映画賞を獲得。今では『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、リンチの作品世界、特に本作以降に顕著になる“超自然/サイコスリラー&ホラー要素”を紐解いていくために欠くことのできない重要な作品と考えられています。
『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』で私たちが体験することになるデビッド・リンチ特有の超自然/サイコスリラー&ホラー要素、その代表的なものが「夢/悪夢の感覚」です。好むと好まざるとにかかわらず誰もが皆、夢/悪夢から目覚めた直後に反芻して味わったことがあるはずの、あの独特の身体的・心理的感覚。五感から得られるものに限りなく近く、同時にまったく別種とも思える感覚の集合体。リンチはこの作品で自らの「夢/悪夢の感覚」を、かつて『イレーザーヘッド』で試みたのとは全く違うやり方でスクリーンに再現してみせました。
私たちはそこで、“夢のような/ファンタジックな/不思議な映像”を見て、感情を揺さぶられるというのとは異なる、“自分がいつか見た/見るかもしれない夢”を想起し、その記憶/可能性に戦慄を覚えるという、まさに「リンチ的」と呼ぶしかない映像体験と出会ったのです。その映像体験とは、あの「赤い部屋」と呼ばれる場所のことに他なりません。
あれから25年。『ツイン・ピークス The Return』のニュースが世界中のメディアを駆け巡る様子を眺めながら、私は今、世界がリンチの「夢/悪夢」から完全に目覚めていなかったことを思い出し、あの“五感に限りなく似た戦慄”の到来を、ひたすら待ちわびています。
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『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』
監督:デヴィッド・リンチ
製作総指揮:マーク・フロスト、デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ、ロバート・エンゲルス
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:シェリル・リー、カイル・マクラクラン、デヴィッド・ボウイほか
製作国:アメリカ
製作年:1992年
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Written by 石井清猛
[JVTA発] 今週の1本☆ 6月のテーマ:五感
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。