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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『サンドラの週末』

今週の1本 『サンドラの週末』
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9月のテーマ:扉

 
ダルデンヌ兄弟の作品を見ていると、いつもひどく落ち着かない気分にさせられる。手持ちカメラでの撮影で画面は常にゆらゆらと揺れている。俳優たちの抑制の効いた演技からは、登場人物が感情を無理やり押さえ込んでいるような印象を受ける。だから何気ないシーンであっても、次の瞬間には破滅的な出来事が待っているかもしれないという漠然とした不安が観る者の心をよぎる。そこはかとなくイライラ感を漂わせながらなぜかずっと無言でいる人のような感じ、とでも言えばいいだろうか…。

 
でも、一方で彼らの作品はなぜか不思議とキラキラしている。光の取り入れ方や色味の調整によるのかもしれないが、街なかのシーンであっても部屋の中のシーンであっても、波しぶきに太陽の光が乱反射しているみたいにキラキラしている。そのキラキラもまた抑制が効いているが、それだけにかえって観る者に希望を感じさせる効果を生んでいる。

 
破滅への不安と同時に、息を呑むようなカタルシスの予感が共存している、とでも言うべきか。彼らの作品に共通するそうした魅力は、この『サンドラの週末』でもまったく変わらない。
 

主人公のサンドラは、体調不良(何らかの心の病と思われる)から回復し、職場への復帰を望む。ところが上司の差し金で、同僚たちに対してサンドラを復職させるか、それとも1人3万ユーロのボーナス支給を取るかの投票が行われることになる。翌週の投票で過半数の賛成を得なければ、サンドラは職を失うことになる。家族を支えるために何としても職を失いたくないサンドラは、復職に賛成してもらうべく16人の同僚たちの家を訪ねて説得を試みる。
 

サンドラが家のドアをたたく(あるいは呼び鈴を押す)。するとドアが開いて同僚たちが出てくる。彼らはサンドラが訪ねて来た理由を知っているのか、一様に重苦しい表情を浮かべている。サンドラと同じく生活が楽ではない彼らにとって、3万ユーロは大金だ。復職への投票を依頼するサンドラに対して、果たして彼らはどう答えるのか…。
 

話の筋からいって不安でいっぱいだ。でも、やっぱりそこかしこに小さなカタルシスの予感が振りまかれている。重苦しいテーマではあるけれど、過半数の票を得られるかというサスペンス的な要素もあって、ラストまで目が離せない。最後にどんな破滅、あるいはカタルシスが待っているかはぜひ実際に目で見て確かめてみてほしい。僕はどことなく『キッズ・リターン』に通じるものがある作品だと思ったのだけれど、どうでしょうか。
 

 
『サンドラの週末』
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:マリオン・コティヤール
製作年:2014年
製作国:ベルギー・フランス・イタリア

 
Written by 桜井徹二

 

〔JVTA発] 今週の1本☆ 9月のテーマ:扉
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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