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発見!キラリ 原文人間vs流れ人間

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11月のテーマ:戸惑い

 
MTCが2カ月に1回開催するオープントライアルは、JVTAの翻訳講座を修了した方であれば誰でも受験できる映像翻訳のプロ試験である。試験なので、合格する方もいれば、当然悔しい思いをする方もいる。ただ、その悔しさをバネに頑張ってもらいたいと、MTCでは試験後に“Q&Aセッション”を開催している。これは、MTCディレクターがトライアルのポイントを解説したり、各自の疑問や質問に答えたりする勉強会だ。質問は人名表記の裏取りの仕方に始まり、画面文字情報の処理法、英文解釈の正解など多岐にわたるが、いつも必ずと言っていいほど挙がる質問がある。

 
質問①
私の訳文は、「情報のピックアップは悪くはないが、直訳調で日本語表現が硬い」と言われます。どうすれば情報をきちんと盛り込みつつ、流暢な字幕の流れが作れますか?

 
質問②
私の訳文は、「文章の流れは悪くはないが、脚色や演出が強すぎたり、原文から離れがちだったりで、時に原文に無い情報まで付け加えられている」と言われます。どうすれば必要な情報をきちんと盛り込みつつ、流暢な字幕の流れをキープできますか?

 
気づかれた方もいると思うが、質問①と②、どちらもピックアップすべき情報をきちんと盛り込みつつ、流暢な字幕の流れを作ることができないという悩みである。

 
“文字数制限を考慮しながら、適切に情報を盛り込み、分かりやすい日本語表現でまとめる”。これぞ字幕翻訳の真骨頂だが、その真髄を掴めるようになるまでの過程で戸惑う方が多い。こうしたアドバイスを求められた時、“映像翻訳者には2種類の人種が存在する”という勝手な?持論をもって答えるようにしている。2種類の人種とは“原文人間”と“流れ人間”だ。

 
①②共に、そうした字幕のまとめ方をするには理由があり、それはその人の思考回路や性格に付随するところが大きいと考える。①と指摘される方は、細かいところが気になる性格で、几帳面な人が多いように思う。原稿を頭から順を追って仕上げていくタイプで、私は彼らを“原文人間”と呼んでいる。それに対し、字幕の読みやすさや文章の流れは抜群に良いのだが、情報が薄かったり、流れの勢いに任せ、時に演出が強すぎたりするタイプが“流れ人間”で、②のタイプである。ロマンチストやサービス精神旺盛で、大ざっぱでも全体の構成を作り、細かい点を見直しながら原稿を仕上げるタイプである。

 
強弱の程度はあるが、すべての字幕翻訳者は、どちらかのタイプに属すと思う。そして、それぞれの傾向は“持病のようなもの”だから治ることはない。なので、“持病”と上手く付き合い、日々生活をする中年オジサンのようなアプローチが必要なのだ。

 
ちなみに私は“流れ人間”で、ともすれば想像力が爆発して、言っていないことまで盛り込みたくなってしまう性質(笑)。ただし、この病は治らないと自覚しているので、防止策、軌道修正するアプローチを自分の作業の中に組み込む努力をしている。例えば、見直しの際には、全文訳を起こさないまでも、知っている単語まで辞書を引き(知っている単語ならなおさら)、原文の意味を事細かくチェックし、訳文の流れの中にディテールをチクチクと盛り込んでいく。また冷静に原稿を見て、大きく外れていれば“待てよ”といった具合に、修正したりする。そして“原文人間”にアドバイスを求められた際は、「ひとまず原文は放っておいて、流れだけで文章を構成してみてはいかが?」と提案してみる。すると、ガチガチの文章がいい塩梅に鞣され、適度に情報が含まれた流暢な文章になることが多い。その感覚を掴めば、次第に自然とできるようになっていく。騙されたと思って試していただきたい。毎回同じアプローチで闇の中をさまようよりも、失敗を恐れず実験をしてみてもいいのではないか? 失敗の中から、光が見えることはある。焦る必要はない。映像翻訳は一生できる職業だ。そう考えると1回や2回の試験なんて瞬きほどの時間だと思わない?

 
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Written by 藤田庸司
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[JVTA発] 発見!キラリ☆  11月のテーマ:戸惑い
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

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