News
NEWS
[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本『太陽の帝国』

今週の1本『太陽の帝国』
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

8月のテーマ:太陽

 
「太陽」と聞くと私には忘れられない映画がある。スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』という作品だ。第2次世界大戦当時、英国領だった上海で生まれた英国人少年が、日本軍の収容所で戦争と時代に翻弄されながらも成長していく物語だ。原作者のJ.G.バラードの自伝的小説を元に作られたこの映画は、一人の少年の目から見た戦争とスピルバーグの目から見た日本を描いている。

 
製作は1987年らしいが私が見たのは、公開から数年経った後のテレビ放送で、見た場所も交換留学生として滞在していたマレーシアだった。字幕もたしか中国語だったと思う。高校生が分かる英語と何となく意味が分かる漢字で意味をつなげながら必死で見た記憶がある。

 
『太陽の帝国』はアカデミー賞で複数の部門にノミネートされるも、1つの物語にいろいろ盛り込みすぎた結果、すべての部門で受賞を逃してしまうという伝説を残した。これはマニアックな映画好きの間ではよく知られた事実だと思う。

 
それでも監督が描きたい内容をあまり後先考えず純粋に作品に突っ込んでいるという点において、私は彼の作品の中でこの映画が一番好きだ。特に主人公ジェイミー役のクリスチャン・ベイルの演技が「作品と同化しているのでないか」と思われるほどとにかくすばらしく、約2時間30分もの間、小さなテレビ画面に釘付けになったことは20年以上たった今でも忘れられない。この作品での教訓が生きたのか、後年『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』などのスピルバーグの監督作品はアカデミー賞を受賞している。

 
日本人軍曹役として伊武雅刀が登場するのはいいとしても、ガッツ石松や『笑点』で座布団運びをしている山田君が登場するのは一体どういう人選だったのか正直よく分からない。「中国から原爆が見えたはずがない」とか「登場する飛行機が実はゼロ戦じゃない」とかツッコミどころを挙げればきりがない。「スピルバーグの最高傑作」と推す人もいれば「駄作」と評する人もいて、評価はかなり分かれる。

 
留学した当時、現地で見た戦争映画の中に登場する「日本」は、至る場所で略奪や狼藉を働く侵略者として、特に日本軍の兵士は女性に乱暴をするイメージで描かれることが多かった。日本兵を演じるのは日本人ではなく、顔立ちのよく似た中華系の役者らしく日本語もカタコトだった。出てくる言葉は「キサマ」「ダマレ」「バカヤロー」など罵倒するものが多く、現地の人々は日本軍に塹壕を掘らされた後、自動小銃で皆殺しにされるお決まりのシーンは何度も目にした。その描写が事実かどうかは分からない。ただ、人々に植え付けられた当時の日本軍の記憶は、相当根深いということだけは確かだと感じた。

 
そんな映画が多かった中、この映画だけは戦争と日本人を異なる視点で描いていたように思え、ジェイミー少年が、怒り狂う軍曹を止めるために放った日本語のセリフは、私の心にとても響いた。興味がある方はぜひ作品をご覧いただきたい。

 
──────────────────────────────
『太陽の帝国』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:クリスチャン・ベイル、ジョン・マルコヴィッチ、ミランダ・リチャードソン、 ベン・スティラーほか
製作国:アメリカ
製作年:1987年
──────────────────────────────

 
Written by 先崎 進

 

〔JVTA発] 今週の1本☆ 8月のテーマ:太陽
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

 
バックナンバーはこちら

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page